白い雲

おお見よ、白い雲はまた
忘れられた美しい歌の
かすかなメロディのように
青い空をかなたへ漂っていく

長い旅路にあって
さすらいの悲しみを
味わいつくしたものでなければ
あの雲の心はわからない

私は、太陽や海や風のように
白いもの、定めないものが好きだ。
それは、ふるさとを離れたさすらいびとの
姉妹であり、天使であるのだから。
    

          ヘルマン・ヘッセ(1877〜1962)
          高橋健二訳