炎の軌跡
-第1話-

 

 

とある外国の、とある郊外。青い空が広がり、まばらに木々が立っている。街の中心部からは外れているらしく、道路は目の前にあるが建造物は辺りに見当たらない。そんな喧噪からは切り離された、一軒家だった。そんな中、一人家の中で暮らす人間がいた。

 

 白のワンピースを着た少女はテレビの前で膝を抱えて座っている。彼女を少女と言うには身長は高く、大人びた体をしていた。しかしその顔はあどけなく幼い顔つきをしている。そんな少女の顔は、少しこわばっているようだった。

『クーラ、どうしました?』

クーラは不機嫌そうな顔でスックと立ち上がり、声の主に答えた。

「キャンディー、どうして今回はわたしが参加できないの!?」

クーラはテレビから流れるキング・オブ・ファイターズ開催の放送を指さして言った。

 

キャンディー・ダイアモンドは機械の身ながら、大きな溜息をついたような仕草を見せた。

『クーラ、KOFはネスツがしてきたように、常に何者かによる波乱に晒されています。

そんな危険な大会に参加させる訳にはいかない、というのがミス・ダイアナのお言葉です』

クーラは栗色の長い髪を翻しながら、そっぽを向いた。よく見るとふくれっ面をしている。

そう、去年の03大会の存在すら教えられず、参加できなかった彼女の不満は日々募っていたのだ。

「ふん、キャンディーはわたしよりダイアナのほうが大切なんだ!」

『クーラ、私はあなたを守ることを第一にプログラムされています。私もそんな危険な大会に参加させることは認められません』

「もういいもん、キャンディーにはたのまない。わたし行ってくる!」

クーラは部屋の出口へと一直線に歩き出した。しかし、その前に瞬時にキャンディーが立ちはだかった。

『ダメですクーラ。あなたが行くというなら、私は力ずくでもあなたを止めます』

「む〜」

『言っておきますが、私の機能をほんの一時的にでも停止させるとこの家のセキュリティシステムが作動して外へのあらゆる窓や扉がロックされます』

「〜〜〜」

クーラは憤りとともに、電話を取った。

「ねえダイアナー、わたしKOFに…」

『ダメだ』

電話の相手であり、彼女の保護者であるダイアナは即座にダメ出しをした。

「え〜つまんないよ〜、行きたいよ〜、わたしも出場するの!」

『ダメだダメだ、そんなことはさせられないよ』

「ダイアナぁ〜、出たいよぉ、出して♪」

クーラの猫が甘えるような声にダイアナは一瞬気を取られたが、直後に我に返った。

『だ、ダメだって言ったろ!大体KOFはチーム制だ。私やキャンディー以外に誰とチームを組むっていうのよ?』

「うっ…セーラたちがいるもん…」

『残念だけどあの子達はもうチームを組んでるわよ。それにK’とチームを組むのは、私が許さないよ!』

「なんでよーっ!」

『私が帰るまでおとなしく留守番してなさい。あんまりキャンディーを困らせるんじゃないよ』

「ひどーいっ!こういうの『かんきん』っていうんだからね!」

クーラの怒声をよそに、ダイアナは受話器を置いた。

「全く…どこでそんな言葉覚えてくるんだか…」

ダイアナは手間のかかる被保護者の顔を思い出し、窓の外をふと眺めた。

 

受話器からは空しい発信音が鳴っている。

『クーラ、ミス・ダイアナの気持ちもわかってあげて下さい…』

クーラは不安げに語りかけるキャンディーの顔をキッとにらむ。クーラは直後にテーブルにあったある物に手が伸びた。

『ク、クーラ!』

プンプンと怒りながら部屋を後にするクーラ。部屋には額にマジックで「にく」と落書きされたキャンディーが取り残されていた。

 

 

 

その日の夜、クーラはベッドで寝ころびふと、昼間のことを思い出した。

「セーラたち、大会に出るんだ…ずるいな…」

クーラはふと、彼女の顔を思い出した。彼女はいつの間にかウィップと呼ばれていた。

今でも思い出す。優しい笑顔でアイスクリームを自分に差し出す彼女の顔を。

その後、口の周りがベタベタよ、と苦笑しながらハンカチで口元を拭ったのも覚えている。

 

それに、自分の記憶の奥底にあったあの人。白銀の髪を揺らしていたあの褐色肌の男の人。

最後に別れたあの時も、背中を向けたままただ一言、「またな」と言っていた。

視界から消えるまで、その姿をクーラはずっと見ていたのも覚えている。

 

あれこれ考えていると、その時一緒にいたマキシマ、ここにはいないダイアナやフォクシー、自分を守って壊れた今のとは違うキャンディーの姿が思い浮かんでは消えていく。

 

「わたし…仲間はずれなのかな…」

何とも形容しがたい夜の寒さがクーラの体を走り、ギュッと布団を抱きしめる。

「会いたいな…」

冷気を操る彼女にとって寒さなど何でもない存在だったが、それとは異なる寒さが彼女を襲っていた。ネスツに所属していた頃、度々感じたあの感覚だ。

その事を思い出すと、ふと自分を笑うK9999とアンヘルの姿も思い浮かんだ。

「あの人たちには、べつに会いたくないけどね!」

クーラはごろりと横に転がる。ふと、部屋の隅に置いてある日本のゲーム機が目に入る。

あれは、工作員が単身敵地に潜入するゲームだったか…そんな事を思い出した。

「!」

クーラは目を見開いた。

「そうだ、この手があった…!」

クーラは立ち上がると、タンスの中を開けた。中にはあの彼、K’と同タイプのレザーの戦闘服が掛けられている。

「きっと、会いに行くからね…!」

 

 

 

陽光が部屋へと差し込んでいる。小鳥がさえずり、遠くの家屋からは鶏が朝を告げる鳴き声を上げている。クーラの住む家を歩く人影が一人。キャンディーである。

『クーラ、朝食の時間です。起きて下さい』

強くこすった跡のある額をよそに、キャンディーはクーラを探して歩き回る。クーラの寝ている寝室をのぞき見た。しかし、クーラの姿は見えない。

うっかり外へ出してしまったかも知れないと庭を見やったが、やはり姿はなく、出ていった形跡もない。かといって部屋の中に不自然な様子は見られない。

『クーラ、朝からかくれんぼですか?スネるのはわかりますが、出てきて下さい』

家中の至る所を探し回るキャンディー。しかし、クーラの姿はない。キッチンだが、妙なものは見当たらなかった。冷蔵庫、テーブルにイス、果物の入ったダンボール箱、食器棚…特に不審なものは見当たらなかった。

『どこでしょうか』

キャンディーが背を向けると、動き出す何かがあった。

『?』

キャンディーが振り返るとそれは再び動きを止めた。

『気のせいですか』

キャンディーの視線が外れたその瞬間、またそれは動き出した。…ダンボール箱だった。キャンディーが部屋を出ていくと、そのダンボール箱は突然ひとりでに持ち上がり少女が顔を出した。

「よし…今のうち…!」

クーラはダンボール箱をかぶりながら玄関に近づいていった。そして、ドアのノブに手をかけたその時、警報が鳴り響いた。

『赤外線に反応が!クーラ!』

「わわっ、ばれちゃった!」

クーラはダンボール箱を頭に乗せたまま庭へと飛び出す。それを追いかけるキャンディー。

『待ちなさいクーラ!』

「ひゃ〜っ!」

戦闘服に着替えていたクーラは全力で駆けだし、冷気を操り氷のスケートシューズを作り出した。スケートリンクを滑るように凄まじい速さで走り、道路へと乗り出した。目の前にあったのは、トラックだった。

『クーラ、いけません!』

クーラは狙い澄ましたようにトラックの荷台に飛び上がり、荷台の中へと乗り込む。そして、トラックは追いかけるキャンディーの視界からどんどん遠ざかっていった。

『クーラ、何て事を…!ミス・ダイアナに連絡しなければ…!』

チームメイトも、大会への移動手段も算段がつかないまま家を飛び出したクーラ。果たして彼女はKOFに参加できるのだろうか?

 

 

「…何だか見慣れない荷物が混じってるんだが…」

「多分こっちだろう。さっさと載せちまえ」

「早くしないと飛行機が出るぞ!」

クーラは、スヤスヤと箱の中で眠りこけていた…。

 

 

 

場所は移り変わって、日本、大阪江坂市だった。陽光の差す古風な道場のある敷地内で、一人の学生服を着た少年が稽古に打ち込んでいる。

「ボディーが甘いぜ!ボディーが甘いぜ!」

…そして、縁側でそれを眺める、和装の初老の男性。

「真吾、庭の掃除に行って来い」

「はっ、はい!柴舟さん!」

真吾は稽古を中断して箒とちり取りを持って駆けだした。柴舟はその後ろ姿を見ながら新聞に目を通す。

ザ・キング・オブ・ファイターズの開催。その見出しに目がふと移る。

柴舟は大会に参加すると言って数日前から家を離れている息子の事を思い出した。

「(あのバカ息子が、『退屈しのぎ』とか言っとらんで卒業せんかい!)」

大会で親の威厳を見せつけてやろうと思ったが、98大会では無視される始末。今回は招待状が届いた事もあり、参加したいとは思うがメンバーが足りない。

98大会でメンバーを組んだタクマは二人の弟子と既に出場を登録しており、ハイデルンは不参加を決めている。真吾と組んで出場するのもいいが、あと一人はどうしたものか…柴舟は新聞を下ろして一息つく。

 

真吾は門を出て掃除をしていた。

「柴舟さん、稽古を見てくれるのはいいんだけど人使い荒いな…やっぱり草薙さんのあの性格って柴舟さん譲りなんじゃ…」

そうぼやきながら辺りを見回してみると…視界に大きなダンボール箱が。しかも所々傷んでいる。

「何でこんな所にダンボール箱が?」

真吾は不審に思ったが、ゴミではなさそうだ。ふと持ち上げてみたがズッシリしている。箱には英語でオレンジと書いてあるが、一体何が入っているのだろうか。それに心なしか、妙にヒンヤリしている…。ふと後ろから柴舟が現れた。

「どうしたんじゃ、真吾」

「柴舟さん、これ何でしょう?門の前にあったんですけど」

「外国からの宅配物か?頼んだ覚えはないんじゃがのー…開けてみるか」

箱を敷地内に運ぶと、真吾は意を決して箱を…開けた。

「これは…?」


箱の中には、栗色の髪をした少女が目を閉じて膝を折り曲げた体勢で…中に入っていた。

「ん?」

少女は外界の光に反応し、薄目を開いて真吾と柴舟を見た。

 

この瞬間が、KOFNW混合チーム結成の第一歩だった…!

 

To be continued…


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