炎の軌跡
-第2話-

氷の出せる少女、炎の出せない少年

夏も始まったばかりの昼下がり、強い日差しが地上に差し込んでいる。場所は大阪府江坂市内。門には草薙流古武術道場と書かれた看板がかけられてあった。その敷地内の客間の事である。

「んーっ、おなかいっぱ〜い、ごちそうさま!」

クーラは食卓の空になった食器を前に、満足そうにつぶやいた。その姿を正面で眺める草薙柴舟。そして、食器を片付けながら横目で眺める矢吹真吾。

「日本のゴハンもなかなかおいしいね!」

満腹でご機嫌なクーラをよそに、柴舟は真吾へとヒソヒソと耳打ちする。

「(おい真吾、本当なんじゃろうな…あの嬢ちゃんが…)」

「(ええ…01大会でほんのちょっと見ただけなんスけど、確かにネスツチームのメンバーでした)」

「(それが何でこんな所に箱に入ってやってくるんじゃ、これが箱入り娘というやつか?)」

「(…ってそんなの見当もつかないッスよ…)」

「なにふたりでヒソヒソ話してるの?」

「い、いやっ、何でもないッスよ!」

慌てて取り直す真吾にクーラは首をかしげた。

「それはさておき、嬢ちゃん…一体何者なんじゃ。自己紹介くらいしてくれい」

「わたし?わたしはクーラ・ダイアモンド。…えーとえーと…家出してきたの、KOFに出るために」

クーラは自分の身の上を語る事ができなかった。自分がかつてネスツという組織に所属していたという事を語るのがはばかられた。そのために思わず本当の目的だけが口から出てしまった。

しかし、クーラもただ無計画に打ち明けた訳ではない。クーラは目の前にいる二人を知っていた。もちろん、ネスツからのデータベースであるが。

「えっと、あなたシンゴでしょ?01大会の日本チームのメンバーで、足ひっぱってた人」

「お、俺が、あ、足引っ張ってたなんて!」

「ええ〜っ、対戦相手の足、ストライカーでひっぱってたでしょ」

「確かにそうッスけど!」

真吾はほとんどストライカーとしてしか起用してもらえなかった大会の事を思い出し、慌て出す。

「それで、おじさんは草薙京のお父さんのサイシュウさんでしょ?98大会にも参加してた人」

「確かにそうじゃが」

柴舟は髭をさすりながら答えた。

「それでどういう経緯かは知らんが、お前さんはワシらと組んで出場したいということなんじゃな?」

こくんこくん、と首をせわしなく上下させて頷くクーラ。

「ふむう…」

柴舟はしばらくクーラの顔を見つめた後、おもむろに真吾へと顔を向ける。

「よし、真吾。お前この嬢ちゃんの相手をしてやれ。クーラとか言ったのう。真吾に勝てたら考えてやってもいいぞ」

「えっ俺がッスか!?」

「どうじゃ?受けるか?」

「う、うん!」

クーラは再度頷いた。

「(さて、見せてもらおうかの…チームを組むのにふさわしいか…)」

柴舟は、慌ただしく部屋を後にする真吾とクーラの姿を眺めつつ、ふと思った。

 

 

 

草薙流の道場の前で、髪の長い少女と学生服の少年が向かい合って立っていた。

クーラと真吾である。

「細かいルールは無しじゃ。相手が降参するか闘えなくなるかで勝負ありじゃ、よいな?」

「うん…!」

クーラはどことなく緊張していたようだった。思えばダイアナもK’もいない、初めての一人の勝負だった。

「この一番弟子の真吾が相手ッス!」

一方の真吾はと言えば、いつも通りだった。

「では始め!」

柴舟の声を合図に、真吾はクーラへと駆け出す。

「ボディーが甘いぜ!」

真吾はクーラへと勢いよく踏み込んでボディーブローを繰り出した。とっさに左腕で防御するクーラ。直後にクーラは回し蹴りを放ち、距離を再び取ろうとする。その体の動きに合わせて、クーラの長い髪が跳ね上がる。クーラの髪は普段の栗色のままだった。

「(力は使わないで勝たなきゃ…!)」

クーラが放った直線のストレートは普通の一撃だった。彼女が本来得意とする氷結能力は使われていない。クーラは能力を使わないで真吾と闘うつもりだった。

クーラの放つ鋭く素早い打撃の数々。しかし真吾はしっかりとガードを固め、反撃の機会をうかがう。

「この!」

クーラの攻撃をかいくぐり、真吾は反撃を繰り出す。クーラはその一撃をすんでの所で防御した。クーラは腕に伝わる衝撃の余波を感じた。

「(思ったより…早い!それに重い)」

真吾の動きは、クーラが昔トレーニングで教え込まれた草薙京の動きとそっくりだった。彼の一番弟子を自称し、技の研究を熱心に重ねてきたためである。さすがに京には劣るものの、愚直なまでの練習と稽古の結果は真吾を草薙の拳へと近づけていた。

クーラと真吾の激しい打撃の攻防戦が続く。このままお互い決め手のないまま、消耗戦が続くと思われた。クーラの髪は、まだ栗色のままである。

「えいっ!」

クーラが右ストレートを繰り出す。それと同時に、真吾の頭が突然消えた。真吾はかがんで攻撃をかわし、一瞬ガラ空きになったボディへと拳を突き立てる。

「びし、ばし、ドカーン!」

間の抜けた掛け声とともに、真吾の連続技がクーラを直撃した。体が宙に浮き上がる。真吾オリジナルの技、オレ式・錵研ぎである。クーラは真吾の予想外の動きに対応が遅れた。

「おりゃあ!」

それを狙い澄ましたかのように、真吾は未完成の百式・鬼焼きでクーラの体を叩き落とす。

クーラは地面へと受け身を取れずに落下した。

「よし!」

好機と見た真吾は一目散に立ち上がろうとするクーラめがけて駆けだした。必殺の外式・駆け鳳燐の体勢である。クーラが真吾に向き直った時には、既に真吾のタックルが眼前に迫っていた。

「おりゃあ!!」

凄まじい衝撃音が道場の敷地内に響いた。

柴舟の目が、その光景に大きく見開かれている。

 

真吾の渾身の一撃は、何とクーラの作り出した氷の壁に遮られていた。

クーラの髪がペイルブルーに変わり、光を反射しながら揺れている。

真吾は、クーラの赤い瞳に映る自分の姿をはっきりと認識した。

「(まずい…体勢が、密着しすぎ…)」

「行くよ!」

直後、掛け声とともにクーラが両腕を地面へと叩きつけた。

「おっきいの!」

ガラスの割れる様な轟音とともに無数の氷の槍が地面を裂いて飛び出した。

防御の体勢が間に合わなかった真吾は氷の槍をその身に受け、体を宙に浮かせた。

「うわああっっ!!」

真吾は地面に叩きつけられ、起き上がってはこれなかった。

クーラはその傍らで荒い息を数回吐くと、ハッとしたように真吾の方を振り返った。瞬間、髪が元の栗色へと戻る。

「シンゴ!大丈夫!?」

クーラは真吾に駆け寄ると顔をのぞき込み、手を差し出した。

「(普通の人に、力を使っちゃった…!)」

クーラはギュッと瞼を閉じた。真吾に差し伸べたその手が、ひどく空しく感じる。

「!」

クーラは右手に強い手応えを感じた。瞼を開いたその先にあったのは、自分の手を握りしめ、苦笑する真吾の顔だった。

「へへっ…油断しちゃったッス…!」

「シンゴ…!大丈夫なの?」

「このくらい、慣れっこッスよ。自慢にならないけど…」

クーラの手を使い、真吾はゆっくりと立ち上がり、クーラの顔を見た。思わずクーラの顔に笑みが広がっていく。

 

ふと、後ろから手を叩く音が聞こえた。

「勝負ありのようじゃの」

柴舟だった。彼はおもむろに真吾の方を見やる。

「すいません、負けました!」

「まだまだじゃの、相手の反撃も考えずに一気に突っ込むとは警戒心が足らん」

真吾は後ろ手に頭をかきつつ、照れ隠しに生徒手帳にメモをしているようだった。直後、柴舟はクーラの方へと向き直った。

「お主の実力、見せてもらったぞ。なかなかやるではないか」

髭ごしに指を顎に当てつつ、柴舟はクーラに告げた。ホッと小さな息をつくクーラ。

「それじゃあ、チームの件は…!?」

クーラは瞳を輝かせながら尋ねると、柴舟はニコッと笑って答えた。

「チームの件じゃな。ああ、考えてやる。それじゃあな」

柴舟はクルッと振り返ると、そのまま去っていってしまった。

「え…?組んでくれるんじゃなかったの!?」

「確かにワシは考えてやるとは言ったが、組んでやるとまでは言っておらん。まあ、しばらく真吾と一緒に家事と稽古に励むんじゃな」

スタスタと去っていく柴舟。それを呆然と見つめる、取り残されたクーラと真吾。

「な、なんで…!?」

「さあ…どうしてなんでしょう…?」

クーラは、ガックリと肩を落とした。

「お、落ち着いて!クーラちゃん!組まないとは言ってないんだし、まだ大会の締め切りまでは時間あるッスよ!」

慌てて取り直す真吾。大きな溜息をつくクーラとせわしない挙動の真吾。陽は既に落ち始め、夕日がそんな二人の影を照らしていた。

 

 

 

 陽もすでに落ちた夕刻。夕食を控えた台所は何かと慌ただしい。

「えっとやばい、魚が焦げちまう!」

…主に真吾がだった。真吾はエプロンをつけてひっきりなしに台所を駆け回っていた。それを傍目に眺めるクーラと、そんな事はお構いなしに夕刊を広げる柴舟。

「ねえ、シンゴ…」

「何ッスか!」

「ここって、いつもこうなの…?」

「ええ、少なくともここ数日は…何でも奥さんの静さんが仕事でしばらく家を離れてるらしくて、俺が代わりに…。思えば変だと思ってたんスよ、急に住み込みで修業しろなんて…ああーっもう鍋が沸騰してる!」

真吾はクーラへの返答をよそに、再びバタバタと台所を駆け回る。

「シンゴって、キャンディーみたいだね」

クーラは思わずフフッ、と笑った。

「(そう言えば、K’が一緒にいた時も、あんな感じだったかな?)」

座布団の上で黙々と夕刊を読む柴舟を見てふと思った。その視線に気付いた柴舟がクーラの方へと振り向く。

「クーラ、何を人の顔を見て笑っとる。お前も食器を出すとか食卓を拭くとかせんか!」

「うん、わかった!」

クーラは妙に嬉しそうに返事をすると、台所へと小走りした。

 

 

 

真吾はタオルの入ったカゴをクーラの前に置いた。

「クーラちゃん、ここにタオル置いてくから。このカゴは服を置くのに使って」

「わかった、ありがと」

そう言い終えると、真吾は慌てたようにそそくさと脱衣所から出ていった。

「ふう…汗かいちゃったな」

クーラはジャケットを脱ぎ、つぶやいた。日本のおフロなんて、初めてだな…そう思いながら、ズボンとアンダーウェアも脱いだ。グローブを外し下着も脱ごうとした時に、クーラは腕についていたアザを見た。

「(アザになってる…シンゴの攻撃、思ったより強かったもんね…)」

昼間の対戦をクーラはふと思いだし、考えた。

「一体、何がいけなかったんだろう…?」

柴舟がチームを組むとまで認めなかった理由が何か、あるのだろうか。クーラはそれが気がかりだった。そう思いつつもクーラは下着を脱ぎ、風呂場へと入っていった。

「(…よし、行ったみたいッスね…)」

真吾はクーラが風呂場に入っていった事を確認すると、こそこそと脱衣所に入っていった。

 

風呂場に一歩入ると、湯船から吹き上げる湯気が視界を覆った。

「わあ…」

クーラは湯の張られている浴槽を見て声を上げた。檜作りの浴槽だ。さすが伝統の長い草薙家の湯船と言うべきだろうか。クーラは桶を使って湯を体にかけた。

「あつっ…」

熱いものが苦手なクーラは湯の熱さに思わず声を上げた。水を混ぜて温度を調節しつつ、体にかけて温度に体を慣らしていく。そして体と髪を洗い今日の汚れを落とすと、恐る恐る右足から湯船に入っていった。

「キャッ!あつっ!」

クーラは熱さに耐えながらも湯船でちぢこまっていると、だんだん温度に体が慣れていった。顔を熱で紅潮させながらも、大きく一息ついてリラックスする。

ふと、浴槽の檜に手を当てなでてみる。スベスベしていていい感触だ。改めて入ってみると、檜からいい香りがしている事がわかる。

「日本のあついおフロも、なかなかいいな…」

口元まで湯船につかりながらクーラはふとつぶやく。湯船からたちのぼる湯気を眺めつつ、

入浴の楽しみを満喫していた。

 

「ん?」

ガラスの向こうで人影が動いている。あの背格好は真吾だろうか。おもむろにカゴから何かを取り出すと、ガサゴソとしているようだった。あのカゴはクーラが脱いだ服を入れて置いたものではないか。不審がっていると、真吾らしき人影はクーラの下着も手に取った。

「シンゴ!わたしの下着になにしてるの!」

クーラは桶を手にして湯船から勢いよく飛び出すと、扉を開けて桶を蹴り飛ばしたのだ。

「いづーっ!!」

桶が炸裂する音と、真吾の悲鳴が響いた。クーラが蹴り飛ばした桶は真吾の側頭部を直撃し、真吾は脱衣所にダウンした。

「なに考えてるの、シンゴ!」

風呂の熱さと怒りに顔を紅潮させたクーラは、倒れて目を回している真吾に怒鳴り込む。そこでふとクーラは、ゴウンゴウンと音を立てる洗濯機を目にした。

直後にクーラはハッとして、真吾へと向き直った。

「…もしかして、洗濯しようとしてくれただけなの?し、しっかりして、シンゴ!」

動揺するクーラをよそに、桶と目を回した真吾が脱衣所の床に転がっていた。

 

 

 

真吾の頭には目に見えてわかるたんこぶがひょっこりと顔を出していた。

「ごめんなさい…シンゴ」

「桶の飛び道具がいきなり来るとは…思わなかったッス」

真吾が草薙家に寝泊まりしている間使用している客室の中に、真吾とクーラはいた。

「俺は女の子の入浴を知ると体が勝手に動くような体質じゃあないんスけど…」

「ごめんなさい…」

「それにしても、その格好は…?」

真吾はクーラの湯上がりの格好を見ると、ドキッと胸が跳ねた。

体より大きいぶかっとしたワイシャツを素肌の上に直接着ているではないか。

袖は長く指の先近くまで隠している。首元はボタンをひとつ外しており、首回りが緩いのも手伝って思わず胸元が見えそうになる。

そして、ワイシャツの下からのぞく白く細い足…男のものとはまるで別物だ。こんな細くてきれいな足から強烈なキックが繰り出されていたなんてとても信じられない。

正座のような姿勢で座り込むその姿からは、思わず下着はいてなかったんじゃあ…などと破廉恥な事を思い浮かべずにはいられない。これが裸ワイシャツの威力か…

しかも、ぶかぶかの男物!そのファーストインパクトに真吾はKO寸前だった。

「うん、脱衣所にあったんでかりたの。サイズからして…草薙のかな?でもずいぶんきれいだね。ほとんど着てないんじゃ…」

クーラは話も耳に入っておらず目が泳いでいる真吾にふと気付く。

「シンゴ、どうしたの?まだ痛いの?」

「あっ、ああっ…クーラちゃんも性格の割にはやっぱり女の子なんッスね…!」

「そうだよ、シンゴ。女の子なんだから、下着を見られたり手に取られたら恥ずかしいってば!一言くらい言ってくれればよかったのに…!」

真吾は違う意味で思わず口から出た言葉が指摘されなくてよかったと、心底安堵した。

 

「おフロにも入ったし、そろそろ寝るね」

クーラは柱の時計を見やりつぶやいた。既に部屋には二つの布団が敷かれていた。クーラが敷いたのだろう、シーツやカバーがどことなくゴチャゴチャとしている。クーラは掛け布団をまくり上げると、布団の中に入った。

「じゃ、じゃあ明日も朝食の準備とかあるし、俺も寝るッス…」

真吾もまた、布団に入り込んだ。横目でクーラを見やると、かわいい寝顔と長い髪がのぞいている。風呂上がりの半乾きの髪は、彼女の美しい髪をいっそう際立たせている。それを見て先程のクーラの姿を真吾は思い出した。

「(こりゃなかなか眠れそうにないや…)」

真吾は夏のこの夜が熱帯夜になる事を覚悟した。

 

 灯も消え、虫の鳴く声が外から響いてくる。部屋の中で音を立てるのは、時計の秒針だけだった。その秒針がやけに耳につく。なかなか眠りにつけないのが真吾だった。

「(くそっ…本当に眠れないじゃないか!修行が足りないぞ、真吾!)」

そんな事を考えて必死に雑念を払おうとしていた真吾。その直後だった。

「シンゴ…起きてる?」

「えっ!?」

予想外のクーラからの呼びかけだった。

「クーラちゃん、寝てなかったんスか。寝ないと明日が大変ッスよ」

「うん…ちょっと眠れなくて…」

そんな事を言うんなら自分も同じなんだけどと真吾は思ったが、その小さな声に真吾はクーラの方へ向いた。クーラの長い後ろ髪が見える。クーラはそのままの姿勢で続けた。

「今日の…いたくなかった?」

「えっ!?ああ、あの…確かに効いたけど、このくらい一日寝ればすぐ治るッスよ!」

「よかった」

クーラはそのまま、真吾の方を向かずにつぶやいた。

「わたしの力のこと…聞かないの?」

クーラの手が、不意にギュッと握りしめられていた。

「あの、氷の事ッスか」

真吾はつぶやいた。

「そりゃ、驚いたッスよ。いきなり氷が出てきたんだから」

クーラは静かに、その言葉を聞いていた。

「でも、草薙さんみたいに炎が出せる人がいるんだから、氷が出せる人がいたって変じゃないんじゃないスか?」

「えっ?」

「むしろ自分がショックッスよ。俺も早く炎が出せるようになりたいッス!」

クーラは、真吾の予想外のセリフに呆気に取られた。

「だから、何を悩んでいるのかわからないんスけど、気にする事はないッスよ!」

真吾は、本気で言っているようだった。常人とは明らかに違う発想だったが、真吾が自分を励まそうとしてくれている事をクーラは感じていた。

「………」

クーラは無言だった。しかし、その口元は少し緩んだようだった。そして意を決したように再び口を開いた。

「わたしのね、この力、ネスツって組織に…」

「ネスツって、99〜01大会の…」

「うん、そう。わたしの記憶…本当にあいまいなんだけど、そこで育って、記憶を操作されて、闘いを教えこまれて、この力も…」

言葉が最後に近づくにつれて、声は小さく力なくなっていった。真吾が言葉を遮る。

「何があったって俺には関係ないッスよ!クーラちゃんは俺達とチームを組みたいって、一緒にいるんだから。それにクーラちゃんはすごくいい子だって今日つくづく思ったッス」

「…いい子かあ…」

クーラは不意にダイアナの口癖を思い出す。なぜか急に口元が緩んだ。

K’さんの時だって、何で炎が出せるんだろうって羨ましく思ったッスよ!」

K’?」

クーラはK’の名前を聞いて、彼が真吾と同チームを組んでいた事があったのを思い出す。

K’って…あなたから見てどうだった?」

真吾はしばらく考えた後、言った。

「恐そうな人だったけど、何だかほっとけない人でした」

「シンゴは…優しいんだね」

「えっ、いやそんな、照れるッス!実は一番思ったのは炎が出せて羨ましいって事で…」

「シンゴは、改造されても炎、出したい?」

「えっと…確かに…いや、やっぱりそうは思わないッス。あっ!そういうのがズルいとかじゃないッスよ、努力すればいつか自分にも炎が出せるって信じてるから!」

「わたし、炎はきらいだけど…出せるようになるといいね。炎」

「ええ、いつかきっと!まずは、本気のクーラちゃんと対等に闘えるようにならないと!」

「じゃ、明日また勝負しようね」

クーラは初めて真吾の方へ振り返り、微笑んだ。

「ええ、今度は負けないッスよ!よーし、寝るぞーっ!」

真吾はクーラの微笑みを見てようやく、雑念なしで寝られそうだと感じた。

「おやすみ」

そう言うとクーラはまた真吾とは逆の方向へと向き、目を閉じた。

「(明日は力を隠さないで、本気で勝負しよう…)」

クーラはそう心に思いながら、静かに眠りに落ちていった。

 

ここで、初めてこの空間に本当の静寂が訪れた。

鳴り響いていた時計の秒針も今やその音を弱めていた。

KOF開催まで、あと少し…。


To be continued…


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