炎の軌跡
-第3話-

草薙の炎

 

 早朝の陽光差す草薙家道場の敷地内。夏の強い日差しは地上を明るく照らし、敷地内の二つの人影を強く映し出している。

その二つの人影は激しい動きで攻防を繰り広げていた。

「このぉっ!」

「えいっ!」

少女の体が、跳ねた。冷気をまとった上昇する一撃に、学生服の少年は体を吹き飛ばされれ地面に落下する。彼女の得意とする技、クロウバイツだった。

地面に着地する少女の長い髪が動きに合わせて揺れる。

透き通る様なペイルブルーに輝くその髪は、次第に普通の栗色へと色を変えていった。

「また、勝てなかった…」

「まだまだだね、シンゴ」

クーラは息を整え、ニッコリと真吾に対して微笑む。

「はあ、まだまだかなわないッスね…」

「そんなことないよ。だんだんわたしの動きについてこれるようになってるもん」

「本当ッスか!それじゃあもう一本…」

「ダメだよ、もう朝ごはんの準備しないと、サイシュウおじさんに怒られるよ」

「ああっそうでした!」

「わたしも行くよー」

慌ただしく駆け出す真吾を、クーラは追った。数日目の朝の光景だった。

 

 

 

陽は強いが、朝まだ早い早朝。時計は朝の七時にもかからない時刻だった。せわしなく台所を駆け回る真吾を傍目に、クーラは朝刊を置くと布巾を片手に食卓を拭き、食器の用意にかかる。

炊飯器から吹き出す、炊きたての米の蒸気が朝食の用意を急がせた。

「おっ、できとるようじゃの〜」

顎にまでかかる髭を蓄えた初老の男性が食卓に姿を現した。

「おはようございます、柴舟さん!」

「おはよう、サイシュウおじさん」

真吾とクーラが声を合わせて柴舟へと挨拶をする。柴舟は二人に顔を見やりながらうなづくと、指定席の座布団に腰をかける。

盛られた朝食を盆に載せ、クーラが食卓へとやって来た。遅れて食卓に駆けつける真吾。

「いただきます!」

慌ただしい朝の準備を経て、ここに三人が食卓に揃った。

 

 白米に味噌汁、海苔や漬け物といった至って平凡な朝食が食卓に並び、それを一堂に食べ始める三人。その光景の中にクーラも自然に入っていた。

「それにしてもクーラ、普通に箸が使える様になったんじゃのう…」

「えへっ、そうでしょ?」

「外国の人は苦手だって聞いたけど、数日で使える様になるなんてすごいスね」

「日本のゴハンなんだから、おハシを使えないとへんでしょ?」

「その通りじゃ。白米をフォークで食うなんぞ気味が悪いわい!」

雀の鳴き声を背景に、朝の日差しの指す語らいながら朝食を取る三人。クーラはふと辺りを見回した。

「(そう言えば、こんなふうにみんなといっしょに食べたのって久しぶりだな…)」

ふと、出された食事を一人で食べる事の多かった自分を思い出す。ダイアナやキャンディーが一緒にいる事は多かったが、語らいながら食べていた事は少なかったかも知れない。談笑する真吾と柴舟の顔を見て、クーラは思った。

『今年もKOF大会が近づいています。エントリーももう締め切りに近づいて…』

ふと流れたニュースのKOFという単語に、クーラの耳が大きくなる。そう、このKOFに参加する事こそがクーラにとって草薙家にやってきた(偶然ながら)最大の目的なのだった。柴舟に顔を向けるクーラ。

「サイシュウおじさん、KOFのチームの件は?」

「なあに、エントリーまでにはまだ時間があるんじゃ。大丈夫じゃ! たぶん

「…今、ちいさくたぶんってつけたした」

「気にするな、大丈夫じゃって!飛び入りチームもいる位なんじゃから! きっと

「柴舟さん、きっとじゃないッスよ!俺も出たいッスよ!」

「そうあせるな。ワシにも考えている事はある。ごちそうさまじゃ」

「柴舟さん!」

柴舟は箸を置くと、おもむろに新聞を読み始めた。真吾の呼びかけなどどこ吹く風である。この様子ではこれ以上聞いても無駄な事を嫌でも感じずにはいられない二人だった。

「(…本当に大丈夫なのかなあ…)」

溜息をつき不安になるクーラだった。しかし招待状を持っているのが柴舟である以上、どうにもならない。

「ハア…まずは洗い物をしないと…」

「シンゴ、わたしも手伝う!」

空になった食器の載った盆を手に、台所に向かう真吾をクーラは追っていった。その様子を横目に見る柴舟。

「(急に、子供が増えた様じゃのう…体は大きいが孫の様じゃ)」

自分の歳をふと思い、しんみりと考える柴舟。直後に、ちっともかわいくない自分の息子のふてぶてしい顔が浮かぶ。

「(あんなバカ息子では、孫の顔を見るなんぞ叶わん夢なんじゃろうな!)」

柴舟はガサガサと乱暴に新聞をおりたたんだ。

 

 

 

太陽の高さも最高にさしかかろうとする日の下だった。物干し竿には真っ白な衣類や布団が干され、それを乾かす強い日差しが照りつける。まさに、夏の日だった。クーラは洗濯カゴを片手に、額に浮かんだ汗を拭い一息つく。

「クーラちゃん、終わりました?」

「うん、終わったよ。シンゴは?」

「ええ、こっちの掃除もこれで一息つけるッス」

廊下から現れた真吾は、縁側に腰を下ろした。

「サイズ、どうッスか?」

クーラは自分の首から下を見やる。クーラは今、白のTシャツとジャージのズボンに身を包んでいた。Tシャツはやや大きめながら、そう違和感なく身についている。ジャージは裾が長かったためか、まくり上げた状態で着用している。もちろん、真吾からの借り物だ。

「何とか着れてるよ、ウェストはゆるゆるだけど」

「まあそりゃしょうがないッスよねえ…」

クーラはジャージのズボンの腰紐を再度引っ張り、結び直す。

「だけど暑いもん、こっちのほうがいいよ」

「あの服しかないスからね。この季節には見てる側も暑いッス」

足下を気にするクーラに、何かが足にまとわりついた。ふと見ると子猫がクーラの足にすり寄ってきたのだ。クーラはしゃがみこんで子猫の頭を撫でる。

「その猫、この辺りに住みついている野良猫ッスよね。もうなつかれるなんて」

「野良ネコなの?この子、なつっこいよ?」

「ええ、ここが魚の多い家と思っているのか、よく来るんスよ。クーラちゃんは猫に好かれやすいのかも知れないッスね」

「わたしのこと好きなの?そうなの?」

クーラは嬉しそうに笑顔を浮かべ、そっと子猫を抱き上げた。

「いい子だ!」

クーラは嬉しそうに子猫の顔に頬ずりをした。子猫は面食らったのか、暴れるとクーラの体を蹴って逃げていってしまった。

「…逃げちゃった」

「…ちょっとビックリしたんじゃないんスか?」

「え〜、でもダイアナはいつもわたしにやってるよ」

真吾はポリポリと頭をかいた。ふと見た洗濯物に目が移る。

「クーラちゃんがお手伝いしてくれる様になってから、俺も楽になったッスよ」

「そう?ありがと!」

「柴舟さんも色々押しつけるから結構大変だろうに、よくやってくれるッスね」

「大変だけど、わたしそんなにキライじゃないよ」

「どうして?」

「いろいろおもしろいもん。家を出るまではみんなダイアナやキャンディーがやってくれるから、家事とかさせてもらえなかったの」

クーラは何気ないが、どことなく寂しそうにつぶやいた。真吾はそんなクーラを眺める。

「シンゴも、何でもやってくれるけどね」

「そ、それは柴舟さんがやれって言うから…!」

真吾は慌てた様にしゃべり出す。草薙さんがいないのに、なんで自主的にパシってんだろ?そう時々思う真吾だった。

「んじゃ、今日は一緒に買い物に行かないッスか?」

「お使い?行く行く!」

クーラは目を輝かせながら嬉しそうに返答した。

「まだまだ料理をさせる訳にはいかないッスからね、味噌汁に砂糖とか入れられそうで…」

「ひどーい!」

談笑するクーラと真吾の光景を、散歩から帰った柴舟がふと目にした。柴舟はその光景を見て無言でうんうん、と頷いていた。

 

クーラはカゴの中に入った胴着に着替えていた。胴着に袴という、日本の古武術らしい出で立ちだ。恐らくは男子用のものだろうが、細いウェスト部分を除いて長身のクーラは違和感なく着こなしていた。

鏡を見てクーラは胴着に着替えて道場に来い、という柴舟の言葉をふと思い出した。胴着の乱れがないか体を見やり確認すると、草薙家道場の中へと入っていった。歴史を思わせる道場が、重厚な雰囲気をかもし出していた。

「よく来たの。似合っとるではないか」

道場内に既に柴舟はいた。あぐらをかいていた体を起こし、クーラを見やる。

「そう?ありがと。もしかして、サイシュウおじさんがおけいこをつけるの?」

無邪気に問いかけるクーラ。柴舟の顔は普段の不敵ながらも、雰囲気が違っていた。

「いや、違う。試合じゃ」

「えっ、試合?」

「お前さんがワシらとチームを組むにふさわしいか、ワシが直接確かめてやろうというんじゃ」

「ええっ!?」

思わぬ言葉にクーラの目が驚きに染まる。

「胴着に着替えてもらったのは道場に入る儀式の様なものもあるが…お前さんの一着しかない服が燃えても困るじゃろうと思っての事じゃ」

柴舟は右手に赤く燃え上がる炎をちらつかせ、クーラを鋭い眼光で見やる。その言葉は、本気で炎を使うという事に他ならなかった。クーラはその炎の灯火に息を飲んだ。

「本気の勝負じゃ。ワシを負かせてみい!」

「…うん、わかった!」

静寂の空気に満ちる道場の中に、クーラの返答が響き渡った。

 

クーラが身構えると、彼女の栗色の髪がペイルブルーに染まり、跳ね上がった。夏の熱気を切り裂く様な冷気が彼女から放たれる。

「!」

柴舟はその光景に目を見開くと、わずかに口の端をつり上げた。

「(まずは合格という所じゃの…)」

柴舟は手に炎を宿らせると、地面に向かってそれを叩きつける。

「散れいっ!」

熟年の草薙の炎がクーラに向かって放たれた。草薙の奥義、百八式・闇払いである。クーラは横に飛び、それを回避する。

「甘いわ!」

それを見越した様に、柴舟はクーラとの距離を瞬時に詰める。柴舟の打撃がクーラを狙う。クーラは能力で作り出した氷の壁を盾に、防御する。

「ふん!!」

激しい衝撃音が響く。防御した氷の壁が、柴舟の炎で溶けかかり、その熱がクーラの腕に染み込む様に伝わっていた。

「やあっ!」

クーラはハイキックを繰り出した。難なく防御する柴舟。直後、クーラは手の平に冷気を集め、それを息に乗せて柴舟に吹き付けた。クーラの息が吹雪となって柴舟に襲いかかる。

「むっ!」

反撃の体勢に入っていた柴舟は、クーラの予想外の攻撃に反撃を中断し、防御する。クーラはその間隙に飛び退き、距離を取る。

「そこじゃ!」

柴舟は狙い澄ました様にクーラの着地点に闇払いを放ち、クーラを自由に動かせない。そして動きを封じつつ、近距離での連続攻撃に持ち込もうとする。勢いにまかせて手数で押さえ込んでくる真吾の攻撃とは対照的な老獪な戦術に主導権を握れないクーラ。

反撃の体勢は、未だに整わないままだった。

「散れいっ!」

幾度目かの闇払いがクーラを狙う。クーラはそれを狙い澄ましたかの様に勢いをつけて闇払いを跳び越え、柴舟へと跳び蹴りを放った。上空のクーラを見上げる柴舟。

「そう来るのを、待っていた!」

柴舟は腰を引き、炎をまとった一撃でクーラを迎撃した。真吾の繰り出した百式・鬼焼きであったが、熟練された型と炎によって繰り出されるそれは、真吾のそれとは段違いの威力だった。

「くっ…!」

肘の一撃とともに、炎がクーラの胴着を焦がす。身を包んだ炎は既に消えたが、この反撃が封じられた事でクーラの動揺はますます大きくなる。距離を置けば闇払いで狙われ、距離を詰めれば鬼焼きで迎撃される。クーラは柴舟の隙がまるで見つけられなかった。

「どうした、その程度か!?」

柴舟の止む事のない攻撃にクーラの戦意は削がれていき、守りの一辺倒になる。その隙を柴舟が見逃すはずがなかった。クーラの防御をすり抜け、柴舟の拳がクーラの腹部を捉える。強力な拳に体が吹き飛び、転倒する。

熟練の果てに鍛えられ完成された拳法。長い闘いの年季で培われた老獪な戦術、そして正確に技を繰り出す判断力。その総合的な強さは、先代草薙流古武術伝承者に恥じない腕前だった。草薙の炎、その重みを感じずにはいられないものを、草薙柴舟は持っていた。

「(このままじゃ、このままじゃいけない…!)」

クーラはダメージを負いながらもこの状況を打開する術を模索した。せめて、柴舟の攻撃のリズムを狂わせる事ができれば…クーラはそう思った。そう思っている内にも、柴舟の闇払いがクーラを襲わんと迫る。

「いらないっ!」

クーラの振り下ろした手から冷気が放たれ、闇払いを凍らせ氷の塊へと変えた。

「こんなのっ!」

その氷の塊がクーラの蹴りによって柴舟に放たれた。柴舟を氷の矢が襲う。その意外な反撃に驚きながらも、柴舟はすんでの所で氷の矢を叩き落とした。

「!?」

クーラの姿がない。上を見上げると、クーラは再度柴舟に向かって飛び込んでいた。

「(反応が遅れたか…!)」

柴舟は苦々しく歯を噛みしめた。

「(だがまだ間に合わない事はない!!)」

柴舟は短い動作からクーラを叩き落とさんと鬼焼きを繰り出す。

「…っ!?」

しかし、クーラは柴舟の放つ鬼焼きの射程距離ギリギリの手前へと、攻撃を繰り出さずに着地した。着地するクーラの眼前で柴舟の鬼焼きが空を切る。

「(フェイント…しまった!)」

「クロウバイツ!」

クーラの冷気を伴った上昇する一撃が、降下中の柴舟を直撃した。今まで耐えに耐えた、乾坤一擲の一撃だった。冷気に身を包まれ、柴舟は勢いよく吹き飛ばされた。

「ぐほぉあっ!!」

道場の壁に叩きつけられる柴舟。クーラは静かに着地し、起き上がろうとする柴舟めがけ、放たれた矢の様に全力で駆け出す。

「ワシにも切り札がない訳ではない!」

柴舟は勢いよく起き上がると、両手に高熱の渦巻く火焔を滾らせた。草薙流古武術の中でも屈指の威力を誇る大技、裏百八式・大蛇薙の体勢である。

一方のクーラの姿が、柴舟の眼前にまで迫る。クーラは前傾姿勢で勢いよく両手を床へと叩きつける。クーラ個人で繰り出す最大の技、ダイアモンドエッジの体勢だった。

「これで、終わりじゃあ!!」

「行くよ…おっきいの!!」

柴舟の全てを焼き尽くす大蛇薙の猛火が、クーラの床から飛び出した無数の氷の槍と激突する。炎と氷が、爆ぜた。

「ぐわああ〜〜〜!!」

叫び声とともに、柴舟の体が宙に浮いた。柴舟の大蛇薙よりもクーラのダイアモンドエッジの方がほんの刹那の瞬間、わずかに早かった。

そのわずかに遅れた分、大蛇薙の威力は封じられていた。

「(壁のある道場でなければ…負けてたかな…)」

柴舟は壁に激突した分、吹き飛んだ距離が短くなった。それ故に、クーラの詰めるべき距離が短くなった。明暗を分けたのはまさにそこだった。

クーラは目の前に迫っていた大蛇薙の炎を思い出し、鳥肌が立つ様だった。

「大したもんじゃ…見事じゃ」

ヨロヨロと起き上がる柴舟。所々にダイアモンドエッジの裂傷を受けつつも、割と元気そうにゆっくりと起き上がる。

「合格じゃ」

「やったーぁ!」

クーラは飛び跳ねて大喜びした。その姿を苦笑混じりに見守る柴舟。

「お前さんは自分の力に迷いを感じていたのか、あるいは真吾を傷つけたくなかったのか…自分の能力を隠して闘っていた様じゃったな。ワシら格闘家の闘いには、迷いも手加減も許されん。それがともにチームを組むとなればなおさらじゃ。それを今の勝負ではっきりと示した様じゃな」

柴舟から安堵の声が漏れた。クーラはうつむき加減になった。

「あ、あの…サイシュウおじさん、わたし…じつはネスツって組織で…」

「よい」

ためらいながらも自らを打ち明けようとするクーラを柴舟は制した。

「真吾の奴が聞きもせんのに話しておったよ。だからお主の心配事は大体わかる」

「でもネスツは…サイシュウおじさんの子供を…」

「あいつが調子に乗ってるから捕まったりするんじゃ。いい薬じゃわい。…わしも人の事は言えんがの」

「真吾の奴、クーラちゃんをチームメイトとして認めてあげて下さい!とえらく熱心じゃったよ。いい仲間を持ったもんじゃの」

「シンゴが…?うん!ホントにいいチームメイトだよね!」

「ああ、このチームで優勝はいただくぞ!」

柴舟の笑い声が高らかに響いた。それは日も落ちた道場の隙間からはみ出していくかの様に夜空に響く様であった。

 物音を聞きつけたのかクーラと柴舟の声を聞きつけたのか、突然道場に真吾が駆けつけてきた。道場に入ると同時に柴舟とクーラの顔を見やる。

「柴舟さん!どうでした!?」

「シンゴ!」

「してやられたわい。クーラをチームメンバーとしてKOFに参加する事が決まった」

真吾の顔に喜びの色が染まっていく。

「やったッスね、クーラちゃん!!」

「うん、がんばろうね!シンゴ!」

クーラは真吾の手を握って満面の笑顔を浮かべた。

 

ふと思い出した様に柴舟へと真吾は振り返った。

「と決まれば早速参加手続をしないと!柴舟さん、書類は俺が書きますよ!」

「んっ?あ、ああ…」

途端に目をそらしがちに答える柴舟。首をかしげる真吾。

「どうしたんですか柴舟さん、善は急げですよ!」

「いや…それが必要ないんじゃ…」

「なんで?」

クーラもまた不思議そうに柴舟を見つめる。

「実はもうワシと真吾とクーラで登録してあるんじゃ」

柴舟はバツが悪そうに頭をかきながら答える。

「ええーっ!?い、いつ…!?」

「クーラがやってきた次の日からかのう…」

「そ、それじゃあもうわたしが来たころからチーム参加を決めてたの?」

「まあ、そうじゃな…」

クーラは脱力した。一体自分の心配は何だったのだろうか?さっきまでチームを組むための条件と言っていたのに…。そう思うクーラだった。

「もしかして柴舟さん、クーラちゃんもこき使うつもりで勿体ぶってたんじゃ…」

とはなんじゃ、人聞きの悪い!お主…そんな風にワシの事を考えておったのか!?」

途端にクーラの顔から笑いがこぼれた。ごまかす様につられて笑う柴舟と真吾。その笑い声はしばらくの間止むことなく響いた。

 

何はともあれ、こうして混合チームは結成されたのだ。

KOF今大会に、新チームのメンバーが大会参加者のリストに記される事となった。

 

草薙柴舟。

矢吹真吾。

−そして、クーラ・ダイアモンド。

 

――それから、KOF大会前夜まで何事もなく日は流れていった。

 

 

 

 日も既に暮れた夜。虫の鳴き声が響く、暑い夏の夜。街灯の照らす中、二人の男女が話をしながら楽しそうに歩いていた。

「よかったッスね、クーラちゃん!」

「うん!」

クーラは真吾の言葉に対し、とても嬉しそうに返答した。手には柴舟に言いつけられたお使いの買い物袋が下げられている。

「これで俺も大会に参加できるッス、クーラちゃんも!」

「本当に、よかったあ…!」

クーラの参加したいという目的が達成できる事となった。真吾、そして柴舟というチームメイトを得て、チームがついに結成された。

「明日、がんばりましょうね!」

「うん!」

クーラは元気良く答える。遂にKOFは明日に控えていた。そんなはやる気持ちがあったのか、クーラは戦闘時のレザーの服を夏の夜ながら身にまとっていた。

「(明日、セーラに、K’に会える…!)」

クーラはそう思うと胸がドキドキして落ち着かなかった。ふと曲がったその先に、公園が目についた。

「シンゴ、少し休んでいこっか?」

「えっ?ええ、いいッスけど…」

真吾はクーラに手を引かれるままに、公園の中へと入っていく。誰もいない、夜の公園だった。公園のライトと、虫の鳴き声だけが辺りを染めていた。

 

 クーラは、無人の公園のブランコに腰を下ろし、ブランコを前後させる。真吾もまたブランコに腰をかけつつ、クーラを横目で見る。

月明かりが、夜空を眺めるクーラの顔を照らしている。その昼間とは違うクーラのその雰囲気に、ふと言葉を失い横顔を眺めていた。

「どうしたの、シンゴ?」

クーラは笑顔で真吾へと振り返る。真吾はハッと我に返った。

「クーラちゃん、あなたが大会に参加したい理由って何なんスか?」

真吾はおもむろにクーラへと尋ねる。

「わたし…?実はね、どうしても会いたい人がいたの」

「…K’さんのことッスか…?」

「うん…」

クーラは少しうつむき加減に答えた。その反応に、真吾も思わずうなだれた。

「でもね、シンゴやサイシュウおじさんとおけいこしているうちに、ぜったい優勝してやるんだからっていう気持ちになってきたんだ」

クーラはふと顔を上げ、明るい声で真吾へと答えた。

「わたしたち、チームメイトだもん!みんなで優勝をめざすのはあたりまえだよね!」

「そうッスよ!絶対優勝しましょう!よーし、やるぞ!」

真吾は口から思わず声が出た。気付いてみたら腕を上げてポーズまで取っていた。その真吾の姿に微笑むクーラ。

「実は俺にも個人的な目標があるんですよ。どうしても挑戦したい人が…!」

 

「おいおい、そりゃ俺の事か?」

――突然、呆れた様な男の声が、二人に届いた。

 

「!?」

真吾は突然の聞き覚えのある声に、思わず振り返る。

公園の入り口に一人の男が立っていた。白いジャケットとジーンズのいでたちの男。口元には軽いからかいの気持ちを浮かべ、真吾を見つめている。

しかし目元は暗がりに隠れて、よく見えない。

「まさか、いつ帰ってきたんスか?」

「大会前のちょっとした顔見せだよ。お前も相変わらず身の程知らず…」

男の言葉が途中で止まり、目が大きく見開かれる。

その視線の先にあったのは、真吾の隣にいたクーラだった。クーラは呆然としたように口を開いていた。

この時、初めて光が彼の顔をはっきりと映し出した。

 

「草薙…京…!」

「てめえは…ネスツの!!」

彼−草薙京の瞳が激しい敵意に燃え上がり、クーラを捉えた。

虫の鳴き声が鳴り響く。雲ひとつない、暑い夜の日の出来事だった。


To be continued…


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