2006/7/22 肉のふきあげ

 

古舘:暮れなずむトワイライトタイム。本日の会場、栃木県栃木市「肉のふきあげ」であります。さあ、今年も真夏の祭典「ステーキ祭り」がやってまいりました。

男たちよ、本能を呼び覚ませ!日常から解き放たれ、己の狩猟本能を供養するときがやってきた!焼ける鉄板が放つその音は、閉塞した時代の終焉を告げるカウントダウンか!

店内は早くも異様な熱気に包まれております。ここで本日の対戦カードを見てみましょう。

第1試合

NWA世界ジュニアヘビー級選手権 30分1本勝負

Aステーキ vs ザ・グレート微熱

第2試合

45分変則イリミネーションマッチ

Aステーキ&Aステーキ vs 愚乱アツシ

第3試合

IWGP ヘビー級王座決定戦 45分1本勝負 

わっしょいステーキ vs マスク・ド・たま

古舘:この第2試合は選手が2対1になっているように見えるんですが……小鉄さん、いったいこれは?

小鉄:プロモーターの発表によりますと、愚乱アツシ選手一人で二人からフォールを奪わなければならないルールで、アツシ選手の希望によるものだそうです。

古舘:それにしても、Aステーキ&Aステーキというのは芸のないリングネームですね。せめて、ホークウォリアー&アニマルウォリアーみたいにならなかったんでしょうか。それはさておき、愚乱アツシ選手いったいどのような思惑でありましょうか。2対1のハンディキャップは前人未到の領域であります。!それでは第1試合です。

古舘:「移民の歌」のテーマにのって、Aステーキ選手の入場です。280gという巨体に似合わぬやわらかさ。そしてとめどなくあふれ出る肉汁は、まさに肉のアクアスフィアだ!続きまして、ザ・グレート微熱選手の入場です。戦いに勝つ自分探しの旅人、闘いの人間交差点だ!そして今、ゴングが鳴った!ザ・グレート微熱選手、おだやかな動き出しであります。まるでダンスを舞うかのごとき軽やかなステップから、今攻撃を繰り出した!平成の過激なセンチメンタリズム!鉄板の肉を整然と切り分け、順序良く口へと運ぶその手際の良さは、まさに地獄の現場監督か!

古舘:ザ・グレート微熱選手勝利であります。15分48秒、危なげない戦いでAステーキを下しました。

小鉄:余裕の勝利でしたね。しかし、世の中には上には上がいますからね。ザ・グレート微熱選手も油断せず、精進を続けていただきたいと思います。

古舘:さあ、それでは第2試合です。「アイアンマン」のテーマとともに、Aステーキ&Aステーキ選手の入場です。これは不可解な現象だ。愚乱アツシ選手の目の前に、まったく同じ2枚のステーキが並べられたぞ。小鉄さん、これが変則イリミネーションマッチの正体というわけなんですね。

小鉄:ええ、どういうわけかですね、次の試合に控えている、500gのわっしょいステーキのセット価格よりも、280gのAステーキセットを2セット食べたほうが安いという、ここ数年来の疑問に対するひとつの答えとして、愚乱アツシ選手の希望によりマッチメイクされた試合なんです。

 

古舘:常に自分自身に問い続け、答えを探して旅を続ける闘いのホームレス、愚乱アツシ!それにしても2枚のAステーキ、私の足し算が合っていれば、あわせると560gであります。一人の人間の前に、まったく同じ2枚のステーキが並べられるという、日常生活では想像し得ない狂った現象が私の目の前で、今繰り広げられているわけであります。さあ、今、ゴングです。

 

古舘:愚乱アツシ、休むことなく攻め続け、10分54秒Aステーキ1枚目をフォールしました。さあそして、2枚目に取り掛かる!結構強いボスキャラを倒した直後、まったく同じボスキャラがもう一回出てくる、といったたちの悪いシューティングゲームをプレイしているかのようであります。愚乱アツシ、再びステーキにナイフをいれます。私、さきほど似たような光景を目にしたような気がするわけであります。肉のデジャブ現象か!!いえ、たんなる現実の繰り返しであります。

 

 

古舘:開始から25分、2枚目のステーキをフォールし、愚乱アツシが変則イリミネーションマッチを制しました。どうですか、小鉄さん、今の試合を振り返って。

小鉄:すばらしい試合でしたね。アツシ選手の、休みなく攻め続けるその戦いの姿勢には、驚嘆するとともに、感動すら覚えます。今後、アツシ選手がどんな戦いを見せるのか、興味を持って見続けて行きたいと思います。

古舘:ありがとうございました。それでは第3試合です。

古舘:さあ、「ジャイアント・プレス」のテーマにのって、わっしょいステーキ選手が入ってまいります。あまりに巨大なその様は、肉の二世帯住宅か!!リングである鉄板と同じ大きさであります。対するはマスク・ド・たま、仮面の選手でありますが、その体格や肌の色から、東洋系の選手であろうということ以外、何もわかっておりません。中にはいったい誰が入っているのでありましょうか。ネコの顔を模したその仮面ですが、最近では「それが本当の顔では?」という説さえも出てまいりました。さあ、ゴングであります。

古舘:マスク・ド・たま、好調に飛ばしておりましたが、ここへきて攻撃の手が止まりました。切っては食い、食っては切る。未来永劫続くかと思われるその繰り返しは、肉の賽の河原だ!いささか、グロッキーな様子であります。華やかなこれまでの戦績にもここで泥がつくのでありましょうか。セコンドもタオルを投げる準備をしております。

 

古舘:おおーっと!!マスク・ド・たま、エプロンからリングサイドへエスケープだ!!そして、いったい何を思ったか、隣のハンバーグに手を出した!!

小鉄:たま選手、違う味のものを食べて気分を変えるつもりですね。しかし、いくらハンバーグを食べても、わっしょいステーキは減っていきませんよ。山を上るには、その山を正面から登り続ける以外の方法はないんです。

古舘:マスク・ド・たま、リングへ復帰いたしました。気分を変えた効果があったのか、再びわっしょいステーキと対峙する!さあこれがとどめとばかりに、ジャーマンスープレックスホールドばりに美しい弧を描いて、最後の一切れを今、口に運んだ!!カウント3!27分16秒、マスク・ド・たま、苦戦の末に勝利をもぎ取りました。小鉄さん、たま選手の四次元殺法にも翳りが見え始めたでしょうか?

小鉄:たま選手、年齢を重ねるとともに実力も下降線をたどっているのかもしれませんね。できるだけ現役を続けてもらいたいものですが……。

古舘:それでは次回の放送までお別れです。さようなら。