| 第3話 空の皇帝 | |||
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祐一がことりと旅を始めて早二週間の時が流れた。 ここはよくある山道の下り。ブルーテン国は何かと山岳地帯が多いため、こういった道はよく存在している。 それは一言で言えば人気があまりない自然な場所であり、美しいと賛辞を贈ることも出来るのだが、それと同時に魔物がよく出る、いわば魔物の住処が 集中している場所ともなっていた。 「はッ!」 そんな場所で定石通り魔物と遭遇し、戦闘を繰り広げることりは白風を鋭く一直線に突き出す。既にその動きは鞭と呼ぶには限度を超えた動きだ。 的確に貫かれた魔物の心臓はその役目をまっとうすると魔物は息絶える。 そしてもう片方で地面を砕き飛沫を眼眩ましにすると、視界が塞がれて魔物の姿も見えなくなるが、ことりは瞬時にその場所を把握しているので迷うこ となく狙いを定める。 「てやあぁぁッ!」 二本の鞭が天から振り下ろされると、ブシュッという血飛沫の容赦ない音が木霊した。。 すぐさまその軌道を直角に変えて横薙ぎへと変化すると、また別の鮮血のメロディが煙の中から聞こえた。 やがて、煙が晴れるその中から姿を現したのは肉の塊と化した躯が五体。血の水たまりを作り、転がっていた。 「上出来だ。手際がよかったし、何より以前よりスピードがある。欲を言えばもう少しフットワークが欲しいところだな。足場を固めて戦うといざとい うとき対応できなくなるからな」 後ろで闘いの様子を見守っていた祐一が感想を言う。そして的確なアドバイスを授ける光景はあの特訓の時を思い出させる。 「それは私も思ったよ。もし懐に入られたらたぶん、対抗できないと思うな」 「今度暇なときにそっちの方も鍛えてやるよ」 「それはありがたいけど、もうあの特訓みたいなのは勘弁だよ」 「それなら両手両足に重りをつけたらどうだ? 日常生活の中で鍛えられる上に力をセーブしているから力任せな戦法を取らなくなるぞ」 「それはナイスなアイディアっすね」 山道を下りながらそんな会話をしている内に山の麓に街が見え始める。 既に時間も日が傾きかけ、そろそろ辺りが夕焼け色に染まる頃。すぐさま今日の宿泊はこの街に決まり、二人は颯爽と街を目指して駆け出していった。 翌朝。 爽やかな日の光に瞼が刺激されると、祐一は目を覚ました。 それと時をほぼ同じくしてことりも別の部屋で目を覚ます。 その後朝食を取り、街へ出向いた頃にはだいぶ日も昇り暖かくなった頃だった。 そして祐一とことりは今、ギルドへと向かっている。情報収集と路銀を求めて仕事探しである。 旅には路銀が必要不可欠な上に、ことりの実戦経験を積むにはまさに一石二鳥なのだ。 街の真ん中に位置する建物へと足を踏み入れると、中にいるのは物騒なものを肌身離さずに持っている連中ばかり。 独特の緊迫感が漂うこの空間の中を二人は気後れすることなく受付へと向かっていく。 受付の前に祐一が立つと、受付役の男がこちらを向いた。 「いらっしゃい。仕事探しかい?」 「その前に『夢水の流れ』というギルドネームのハンターの情報はないか?」 『夢水の流れ』というのはことりの友人、朝倉のギルドネームだ。 ギルドでそれに引っかかる人物の情報を得ることで所在を割り出そうと考えたのだが、街にあるギルドで片っ端に探してはいるものの今のところヒット はない。 「夢水の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ないな」 「そうか」 今回もまたはずれだった。 その裏でことりが残念そうな顔をしている。 「それじゃ、仕事のリストを見せてくれ。これハンターカードね」 ハンターカードとは身分証明書のようなものである。 一般人もこれを持ち、ハンターではないにしろ個人の情報はギルドに登録されている。全世界で全ての人間がハンターカードを身分証明書として持ち歩 いているのだ。 「はいよ、ってアンタ、若いのに強いねぇ」 カードに記されている祐一のランクを見ると不意にそんな言葉を漏らす受付の男。 「そんなことはどうでもいい。リストをくれ」 「スマンね。これだよ」 「サンキュ」 祐一はリストと称される仕事の詳細が書かれた書類の束をめくりながらチェックを入れる。 そして難易度Sランクと称された書類で手を止めた。 仕事のランクはその仕事をこなすのに必要とされるハンターランクを指している。Sランクの仕事とはかなりの危険を要するものを示唆しているのだ。 「これにするよ」 そのページを見せ、受付に手渡す。 「スカイエンペラーの退治ね。証拠として羽根を数枚持ってくれば仕事完了。報酬は二十万。場所はこの近くの山岳地帯だ。健闘を祈るよ」 「ああ」 短くそう一言告げるとことりを連れてギルドを後にしていった。 そして外に出たときことりが尋ねた。 「どうしてその仕事にしたの?」 「ちょっとおかしな依頼だっからさ」 「おかしな依頼?」 依頼に不審な点など見受けられなかったことりには何のことだか分からなかったようだ。 捕捉するように祐一は説明をする。 「元々スカイエンペラーは『空の皇帝』と呼ばれる巨大な鳥の魔物で、その力は強大だ。おまけに人語を理解するというとても頭のいい魔物なんだ。部 類としては上級魔物に位置する中でもトップクラスだろう」 「凄いね。それじゃ、依頼が来てもおかしくないよ」 「いや。元々スカイエンペラーは温厚な魔物で、人を傷つけるような真似もしなければ、襲ったりもしないんだけど、依頼の中には人間が襲われたと書 いてあったんだ。それが不自然なんだよ」 「魔物にも優しいのがいるんだ。知らなかったよ」 「他にもそういう魔物は結構種類がいるよ。とにかく、その場所へ行ってみよう」 「うん」 所変わって、依頼を受けた祐一達は現場である山岳へと向かって行った。 流石は険しい山道なだけあって登るのも一苦労だが、それ以上に出てくる雑魚の魔物達。 その中でことりの動きが先ほどより鈍く感じるが、その両手両足には魔石を使って作られたパワーアンクルが装着されていた。 魔石とはコアの詰められた石の事で、加工する事で色々と便利な道具が作ることができる。 このパワーアンクルもまたそんな道具の一つだった。 その状態で山道を登り、敵と戦っているのだから動きも鈍るのは当然。 だが、ことりは精一杯祐一について戦っている。 形としては祐一が前衛、ことりが後衛となり連携を組んでいる。 攻撃のサポートしつつ攻撃を加えることり。 祐一もそれに乗じて次々と獲物を狩っていく。 そんなことを何度か繰り返していくうちにだいぶ上の方まで上がってきたようだ。 空気が少し冷たくなり、澄み切った空間が広がっている。 「そろそろだな」 そう言った矢先、頭上が影に覆われる。 「なに!?」 ことりは咄嗟に頭上を見上げると驚愕した。巨大な影がこちらへと落下してきたのだ。 地を激しく揺らす轟音と共に大地に衝突する影。大きく大地を震撼させながら煙を巻き起こし、大地に沈む。 そして、煙が晴れると同時に中から姿を現したのは巨大な白い鳥がその身を赤く染めながら大地に横たわっている姿だった。 「スカイエンペラー!? どうしてこんなケガを・・・・・」 そばに駆け寄ると弱々しい声が聞こえてきた。 「何故人間がここに・・・・・?」 「喋った!」 祐一の話を聞いていたとは言え、実際に魔物が口を利く光景にことりは驚きと感動を覚えるが今はそんな状況ではない。 傷だらけの体で全身血塗れになりながら横たわる美しい鳥。それは種族云々以前に人として見過ごすにはあまりにも辛い光景だった。 「今治療をしてやるか―――――ッ!」 言葉の途中で祐一の視線が上空を射抜く。 そこには人間のような体の形をしているが鋭い爪と大きな翼を生やした生物が佇んでいた。 「魔族か」 虚空に響く祐一の呟きと共に、魔族はこちらへと降り立つ。 その威圧感は魔物の比ではなかった。 ビリビリと刺激する殺気は邪悪な色を帯びているのが感じられ、その瞳の色は冷徹に染まっている。 「お前がこれをやったのか?」 「ああ。我々鳥人にとってスカイエンペラーの血はさらなる強さへの糧となると言う言い伝えがあってな。たまたま見つけたそいつの血を貰おうと思っ たのだが、思ったよりも抵抗するので少々痛い思いを味あわせてやった」 冷たく響く魔族の言葉に耳を傾けながら無表情でそのセリフを聞く祐一。 その表情はどんな感情に染め上げられているのか分からない。 だが徐々にその威圧感が増していくのが魔族に伝わったようだ。 一瞬体を硬直させ、祐一を鋭く見る。 「キサマ何者だ? 並の人間ではないようだが」 「そう言うときはそっちから先に名乗るものだぜ」 「生意気な。まあいい。俺はルドラ。さあ、人間、キサマは何という名だ?」 「俺は相沢祐一。今から貴様を冥土に送るものだ」 「人間ごときが生意気なッ!」 祐一は言葉と同時に腰から剣を抜き、ルドラは祐一のセリフにプライドを傷つけられたようで襲いかかってきた。 祐一もまたルドラへと駆けると、スカイエンペラーから離れたところでの戦闘に持ち込む。 剣と爪がぶつかり合い、せめぎ合いを続ける中で衝突の際に生まれる衝撃が空気を伝って振動する。 鳥人特有の風のようなスピードが祐一へと襲いかかるが、祐一はそれをものともせず互角の戦いを繰り広げている。 「やるな人間。これならどうだッ!」 両手両足の鋭い爪による攻撃に加え、更に翼が牙をむく。 その翼はまるで研ぎ澄まされた剣が羽根となっているようにギラギラと輝きながら太陽の光を跳ね返しているようにさえ見えるほど鋭かった。 翼を巧みに動かし、攻撃を仕掛けるルドラは六方向から攻撃を繰り出している。 しかし、祐一も表情に険しさを増してはいるが、決して引けを取っているようにも見えない。 「このくらいの速さならアイツの方がまだ速かったな!」 祐一もペースを上げると、瞬時にルドラのスピードを上回る。 「なに!!?」 流石のルドラも自慢の速さを破られて取り乱している。 それに構うことなどあるはずもなく、祐一の剣舞は容赦なくルドラを攻め立てる。 「これ以上キサマに付き合うつもりはない。こっちは後が控えているんでな!」 祐一は剣の方にばかり注意の向いているルドラの腹に蹴りをくらわせると、一メートルほど間隔を作りだし、間髪入れずに魔法を唱える。 「ホワイトチェーン!」 白い光を放つ鎖が何本も絡みつきルドラの体を拘束する。 「何だこの鎖は!? ぐっ、くそっ!」 ルドラは鎖に動きを封じられ、ほどこうと試みるがなかなか思うように壊す事の出来ない光の鎖を見て焦りを募らせながら完全に死に体をさらした状態 でもがき苦しんでいる。 「言ったはずだ。俺はキサマを冥土へと送ると」 そして剣を構える祐一の身体からは今までにないほどの威圧感、覇気、殺気、剣気、闘気。ありとあらゆる気があふれ出しているのがわかる。 既に周りの空気は肌に電流が流れるような錯覚を起こしそうなほどの強い圧迫感を帯びている。 絶対とも呼べる支配下に納められた祐一の周囲はまさに一種の結界と化している。 「死ね」 そして、ただ無慈悲な死刑宣告は成された。 「神魔夢幻流 奥義壱式 爆ッ!」 剣は太陽の光を跳ね返しながら眩い閃光となり、ルドラへと一閃される。 爆音を連想させるほどの激しい斬撃。それは全てを攻撃のみに集中させた恐ろしいほどに力強い一撃だった。 それは祐一が生み出した光の鎖の上から炸裂すると、鎖を砕きながらルドラの腹へと沈んでいった。 そしてルドラの肉体へとその剣が入ると同時にその四肢は上下に爆ぜた。斬れたのではない、爆ぜたのだ。 体の中から爆弾で爆破されたように腹の部分が細かく爆ぜ、原形をとどめているのは腰から下と胸から上の部分だけだ。 その中間に存在した肉体のパーツは綺麗にミンチとなっていた。 「バ・・・・・・バカ・・・ナ・・・・・・」 一瞬の出来事に何が起きているかも分からないルドラは力無くそう呟いただけだった。 地面に転がるも大地の感触を確かめる余裕などない。 自分の身に何が起きたのかを理解しようも、納得できない様子だ。 「命の重みを考えろ。あの世でな」 何も語らなくなってしまったルドラは塵へと還元され、残されているのはどす黒い血が溜まっているのみだった。 虚しく山岳に吹く風が塵をさらっていく。 祐一は剣を納めるとスカイエンペラーの元へと駆け寄る。 「オイッ! 大丈夫か?」 「・・・・・・人間か。フッ・・・私の命など、もう灯火よ」 「これだけの巨体じゃ魔法では時間がかかり過ぎて手遅になっちまうな・・・・・・」 「もう助からないの?」 ことりも人間に脅威となる存在、魔物を前にしながらも傷ついた姿を見て助けたいと思うが、自分の力では何も出来ずに無力感に打ちひしがれている。 「ここまでか・・・・・・せめて・・・坊や達にお別れを言いたかった・・・・・・」 「子供がいるのか?」 「ええ・・・坊や達が大きくなるまでせめて近くにいて守って上げたかった・・・・・・」 「・・・・・・助かりたいか?」 「・・・出来ることなら・・・・・・」 既にその声も弱々しく、死へ続くロードをひた走っている。 瞳の色が薄れ、徐々に力がなくなっていくのが手に取るように確認できる。 「わかった。生かしてやろう。お前の魂、俺が貰い受ける」 すると懐から直径三セン程の何とも不思議な色の玉を取り出す。 その玉は言葉では表現し難い不思議な色の輝きを放っていた。 「はッ!」 そして祐一はそれを思いっきり握りつぶし、砕いた。 砕け散った玉の破片が風に乗りスカイエンペラーの身体を包み込む。 その中で祐一は言葉を紡いだ。 「我が名『相沢祐一』の名の下に『スカイエンペラー』のその御霊を大いなる魔の力と換え、魔を秘めし宝玉に封じ、汝が魂と欠片を贄とし新たなる命 としてこの世界に君臨させよう。此処に魔の力を以って魂の契約を交わす。汝が魂は我と共にあり、共に朽ち果てよう。今より、新たなる魂の契り結ば れた。今より汝が名は『白翼神』なり」 刹那、玉の欠片が輝きはじめ、幻想的な光と共にスカイエンペラーの身体を包み込む。 やがてその光は白く透き通るような輝きへと変化し、徐々に輝きは収束していく。 祐一はスカイエンペラーの身体から一枚の羽根を抜き取ると、光の中へとそれを放った。 やがて、光は羽根に集まるようにして収束していき、徐々にもとあった玉の形へと変化していった。そして、完成した玉は白く透き通るような透明感の ある色の玉となり、中には羽根が埋め込まれているのが見て分かる。 それを手にする祐一の隣からことりが尋ねてきた。 「祐一君、今のは一体・・・・・・」 「それは今から見せてやるよ。いでよ! 白翼神!」 再び輝きと共に玉が光を放つと、その中から巨大なシルエットが姿を現す。 やがてその形はより明確なものへと変わっていき、巨大な鳥の姿となる。 「スカイエンペラー・・・・・・?」 それは間違う事なくスカイエンペラーの姿だった。 白く美しい体に巨大な翼を羽ばたかせているその姿はまさに優雅という言葉が似合っていた。 「私は・・・一体どうなったのだ?」 当の本人であるスカイエンペラーが一番驚いていた。 突然の出来事ながら、巨大な空の帝王は復活を遂げたのだった。 To be continued・・・ |
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