| 第4話 使い魔 | |||
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「私は一体どうなったのだ? 目の前に私の体があるというのに」 そう、目の前には紛れもなくスカイエンペラーの体が血濡れで横たわっている。 死を目前に控え、もはや自分の命の灯火が消え去るという最中、祐一によってこの世界に留まったスカイエンペラーはただ自分の身に何が起こったのか 分からずに困惑している。その横でことりも同様に驚いていた。 唯一この状況を引き起こした祐一本人だけが自然と振る舞っている。 「それを今から説明するよ。ストレートに言えば、お前を俺の使い魔として復活させたんだ」 「私を使い魔として復活させたと?」 「そう。この魔玉の中には大量のコアが詰められていて、それにお前の魂を移し替え、羽根を媒介として再構成し、魂を魔玉の中に封印したんだ。そし て、魔玉から解き放たれるときは俺のコアを使って具現化し、その姿へと変わるというわけだ」 「つまり私の魂はお前の魔玉に封印される変わりに生き延びられたと言うのか?」 「詰まるところそう言うことだ。お前は俺の意志によって魂を解放されない限り死ぬことはない。たとえ死んだとしても、魔玉に戻り再度呼び出すこと が出来る。その体も所詮はコアで作り出したまやかしだからな」 淡々とスカイエンペラーにことの事態を説明する祐一。 「すっごーい! 祐一君て、なんでもできるんだね」 「そんなことないさ・・・・・・」 スカイエンペラーの横でことりは祐一のした事に驚いているが、祐一本人の表情はあまりいいとはいえないものだった。 言葉と表情が曇っているように一瞬見えたが、それもすぐに消え去りいつもの顔に戻る。そんな些細な変化にことりは驚いているばかりで気がつくこと はなかった。 「よく分かった。お前は私の主ということだな」 「一応そうなるかな。お前はどうする? 子供の成長を見守るか? それとも一応俺が主になったわけだから俺についてくるか? どっちかの道を選ぶ ことになるだろうけど」 「そうか、とりあえず感謝する。まずは坊や達の所へ戻らなくては。置いてきてしまって、心配しているだろうから」 スカイエンペラーは首を曲げて礼を言うと翼をはためかせる。 「俺達も行っていいか? 聞きたいこともあるからさ」 「構わない。背中に乗れ」 「サンキュ。さ、ことりも乗りな」 「う、うん」 まだあまりこの状況をしっかり飲み込めていないことりを後目に、祐一はさっさとスカイエンペラーの背中に乗る。 続いてことりも戸惑いながらも後に続くと、スカイエンペラーは大空高く羽ばたいていった。 「お前さ、人を襲ったって聞いたけど本当か?」 大空を優雅に舞う中、祐一は背中に乗りながらその主であるスカイエンペラーに話しかけた。 祐一はこの依頼の確信に当たるスカイエンペラーが人を襲ったかどうかについて尋ね、事の真相を確認しようとしていた。 「それは誤解だ。私は子供達に危害が及ばないように見回りをしているときに人が私を見るなり襲いかかってきたのだ。正当防衛にすぎない」 「やっぱりな。スカイエンペラーが人を襲うなんて普通はないのに。まったく、これだから人間てのは・・・・・・」 スカイエンペラーの白い羽根にくるまれた背の中で会話を交わす二人。 ことりはそれをただ聞いているだけで何も言うことはしなかった。ただ人の勝手な行いがこの家族を苦しめているということを知り何ともやるせない様 子である。 「人は我々魔物に恐怖する。それは仕方のないことだが、決して我々も凶暴な者だけではない。生まれた世界が違うだけで本来は心優しき者達も大勢い るのだ」 哀愁帯びた声で話すスカイエンペラーの姿は心に響くものがあった。 祐一にはそれが痛いほど伝わり、悲しいほどに胸の奥が締め付けられるのを感じながらそれを押さえつけた。 「あそこだ」 その時、どうやらスカイエンペラーの子供がいる場所に辿り着いたようで、ゆっくりとそこへと降下していく。 徐々に見えてくる巣を目前としてスカイエンペラーは呟いた。 「そ・・・そんな・・・・・・」 現実はあまりにも厳しいものだった。 二羽の幼い鳥。おそらくスカイエンペラーの子供はその首を残して体だけが無くなっていたのだ。 「非道い・・・・・・」 首だけを残し、何も残っていないその場所にスカイエンペラーは近寄ると、我が子の首をくちばしで優しくつつくが、当然反応は返っては来ない。 そこにあるのは既に命のない生首にすぎないのだ。 スカイエンペラーの悲しみを帯びたソプラノが山々に木霊する。 祐一はその近くに寄るとスカイエンペラーの子供の首に触れる。そして、その場から何も言わずに立ち去った。 祐一達がいる場所から山を下ったとあるところに二人の男がいた。 「へへっ、ラッキーだったな」 「まったくだ。運がいいことに厄介な親鳥がいなくて助かったぜ」 卑下た笑いを浮かべる男が二人。その手には五十センチ程度の物体が握られていた。 純白の羽に覆われた二羽の鳥の死体。スカイエンペラーの雛鳥である。 「コイツを売れば儲かるぜ。最高級の素材だからな」 スカイエンペラーの羽根は高級な羽毛布団やコートなどの素材にはもってこいではあるが、なにぶん大人の方は並の人間では敵う相手ではない。そのた め子供の方を狙うのが大半だ。 更に大人の方は成長にあわせて羽根の質が固くなるが、子供の方は質感が柔らいのも理由の一つである。 スカイエンペラーは空に近い山岳に生息することが多いので、見つかることも少なく高値で取り引きされるのだ。 それは人生の半分は楽に遊んで暮らせるのではないかという額が手に入る場合もあるくらいである。 「とっとと帰ろうぜ。売って金に換えたら一杯、な」 「へへっ、そりゃいいや」 男たちはこれから酒場でいっぱいやる姿を思い描きながら顔をだらしなく緩ませて歩く。 「おい」 その時後ろから声をかけたのは祐一だった。 「ッ!―――ってなんだよ、人か。驚かせやがって」 魔物か何かが現れたのかと思い、驚いて武器を手に掛ける二人だが、祐一の姿を見てそれを止めた。 「聞きたいことがある」 「あ? なんだ?」 祐一の声には明確に怒気が含まれているがそれを押し殺して話しかけている。 そんな祐一のことなど露知らず、男は間抜けな返事をした。 「その手に持っているのはスカイエンペラーの子供か?」 「そうさ。すげぇだろ?」 自慢げにその亡骸を持ち上げると、嬉々として話す男。 祐一はそれを見て顔を歪める。 「そうか。それなら、報復の覚悟は済ませてるんだろ?」 「なッ!?」 瞬時に剣を抜き片方の男の首をはねる。 瞬く間にその首をはねられ、隣で息絶える姿を見てもう一人の方も恐怖で顔を崩した。 「なななな、ナニすんだ?!!」 ガタガタと体を振るわせながら恐怖で怯える中で絞り出した精一杯の声量で祐一に問いかける男の顔は、既にこれでもかと言わんばかりに恐怖で塗り潰 されていた。 その手に在る武器は、既に握られているだけで役目を果たそうとはしない飾りと化していた。 「理由? 無垢な命を奪った。それは、純粋にして汚れなき白。それを汚した罪は、重い」 首へと放たれた斬撃によりズシャッ、という鈍く嫌な音だけを残し、男は絶命する。 スカイエンペラーの子供と同じように首と体を切り離された二人の男の死体を足下に、やりきれない表情の祐一。 「ちっ、胸くそ悪い」 悪態をつきながら言葉を吐き捨てると、男の死体をそのままにスカイエンペラーの子供の死体だけをその手に拾い、魔法を唱えた。 「聖なる光に導かれ、安らかに眠れ。ホーリー」 光の柱に飲み込まれ天国へと導くロードは天へと昇り、やがて消えていく。 二羽の美しき鳥達もまたその光に導かれて天へと召されていったことを祐一は切に祈りながらその場を後にした。 再びスカイエンペラーの巣へと戻ってきた祐一。 ことりの表情はさえない中でスカイエンペラーはこちらを向く。その顔は泣き疲れた女のような顔に見えた。 「ありがとう」 先ほどよりはマシのようだがその声には明らかに力がない。 そんな状態でスカイエンペラーはただ一言だけそう告げた。 「何がだ?」 「あの子達も安らかに眠れるだろう」 「・・・・・・・・・気にするな」 既に感づいていたスカイエンペラーは祐一に短く感謝を述べた。 その声は未だに沈んでいるのは変わらなかったが、先ほどよりはだいぶマシと言えるものの、それでもまだ悲しみが抜け切れていないのは明白だった。 「これからどうする気だ?」 「既に私の目的は無くなってしまった。そして私は既に魂だけの存在。この世に止まる理由も未練もない」 「そうか」 「・・・・・・・だが恩を返さなくてはならない。あの子達とのあの世での再会はもう少し後だ」 既に生への執着心を失い、この世への未練など残されていないはずのスカイエンペラーから思いも寄らない言葉に祐一も一瞬耳を疑った。 「ついてくるのか?」 「ああ。お前は、いや、主はどこか私を癒してくれる。そんな気がする。これは逃げかもしれないが、今はそばにいさせて欲しい」 「構わないさ。それじゃあ改めてお前のこれからの名は『白翼神』だ。よろしくな」 「よろしく、主よ」 首を曲げて祐一のそばへと顔を寄せる白翼神。 祐一がその頭を数回優しく撫でると、白翼神は気持ちよさそうに目を瞑りながら身を委ねている。 「それでは、必要なときに呼んでくれ」 「わかった。しばしお休み」 白翼神はそう言って光の粒子となって元の魔玉へと戻っていった。 去り際に微かな微笑を見えたその顔はとても嬉しそうに見えた気がした。 「なんか、可哀想だね」 「魔物も生き物だ。魔物だからといって悪ではないことを覚えておいてくれ」 「うん」 ことりは祐一の意味する言葉を胸に刻む。それは、人としてとても大切な在り方だとことりは思った。 祐一はホーリーで首だけ残された子供達の残りの躯を手厚く葬るとその場を後にした。 同じように白翼神の元の体がある所に立ち寄って羽根を数枚回収すると、その躯も同じように光の魔法で手厚く葬った。 新たな仲間を加えた代償としてはあまりにも代価の大きい出来事だった。 そして二人は街へと戻って来ると、その足でギルドへと向かい、受付で結果の報告を行う。 「ほれ、証拠の羽根だ」 懐から先程回収したスカイエンペラーの羽を取り出すと、受付に差し出す。 「・・・・・・本物だな。ホレ、賞金だ」 受付はそれを吟味すると本物と確認し、どこからか賞金である報酬を取り出した。 祐一はそれを懐に納めると、受付に呟くようにこう言った。 「なあ、本当に悪いのって何だと思う?」 受付の男は何を聞くのかと不思議そうな顔をして回答に詰まっている。 「変なことを訊いたな。すまない」 苦笑しながらそう言って祐一はその場所を後にしようとした。 「たぶん」 その時後ろから受付の男の声が聞こえてきた。 それに反応して足を止める祐一。 ただ振り返らずに次の言葉を待つ。 「こんなくだらない世界を創った神様だろ」 「フッ・・・良い答えをありがとう」 祐一はその答えに満足した様子でギルドから去っていった。 受付の男もその後ろ姿を見守りながら、その背中がギルドから出ていくまで見つめた後仕事を再開した。 「ことりはどう思う?」 ギルドの中から出てきた祐一はことりに尋ねた。 「さっきの受付の人に聞いてた質問のことっすか?」 「そう。それ」 「う〜ん・・・・・・たぶんね」 ことりは悩んだあげく絞り出した答えを口にした。 「きっと誰かを悲しませるようなことをするのが本当に悪い何かだと思う」 ことりが『何か』と表現するのは人間だけではなく魔物、魔族、全ての生きとし生けるものを示していた。 「それも一つの答えだな」 祐一はことりの答えに納得しているようだ。表情こそ何も変わらないで無関心に見えるが祐一なりにその答えを解釈していた。 「祐一君はどう思うの?」 「俺か? 俺は・・・・・・全てが悪だと思う」 「全てが?」 「『善』の裏には『悪』がある。『悪』の裏には『悪』しかない。時に『悪』の中にも『善』が存在することもあるが、そのケースは稀だ。裏を返せ全 てが『悪』になり得るのさ」 「全てが『悪』、か。そうかもね」 「それでも、所詮人間も魔物も魔族も何かしら『悪』と呼べるものを内包している。全てが『善』という要素で構築されている生き物はいない。生きは 何かを犠牲無しに生きられない。その時点で生きる者は小さな『悪』となっているのさ」 それはとても悲しい考え方なのかもしれない。 この世界には善人など存在し得ないと言うのだから。 それはある意味正論であり、人として生きるならば必要な考え方かもしれない。 犠牲に必然性とその裏にある命の重みを理解しているからこそ言える言葉であり、軽々しい気持ちで口にすることは出来ないことだ。 「小さな犠牲を無視しろとは言わない。だがそれを大きく受け止めすぎても生きる道を阻むだけだ。その辺の加減をしながらうまい具合に人は生きてい かないと心がつぶれてしまう。だからこそ命の重みを理解し、前向きに生きていかないと今の俺を成すために知らないところで消えた命に示しがつかな い」 「祐一君は人一倍命を大切に考えるんだね」 「失った代償の代わりに手に入れた考えだ。ちと、代価が大きかったけどな・・・・・・」 そう言って一瞬だけ暗い顔を見せる祐一にことりは何の慰めも言えなかった。 ことりはその言葉が逆に祐一の心を締め付ける呪縛となってしまいそうな気さえしたのだ。 そして祐一のそんな表情も一瞬で消え去ると元の表情へ変わる。 「さて、この話はこの辺で終わり。とりあえず、明日からブルーテンを目指して出発だ」 「うん」 沈んだ会話の内容を打ち切り、この旅最初の目的地であるブルーテンを目指すべく気合いを入れる。 既に傾きかけている太陽が夕焼け色になりながら町を照らしている。 その光が優しく包み込んでくれる、そんな幻想に浸りながら祐一は今日あった出来事を思い返しながら宿へと向かっていった。 To be continued・・・ 白翼神 魔物(スカイエンペラー) 上級魔物 『空の皇帝』の異名を持つ魔物で、本来人語を理解しない魔物ですが、スカイエンペラーは知能が高く、その美しい羽は高級品として取引されていま す。高山地帯でしか姿を確認されないため、めったに取引されません。オマケにその強さは上級魔物に部類されるだけあって高いものを持っています。 瀕死の状態になり、祐一の力によって白翼神と言う名を与えられ復活。今は祐一の使い魔として生きることとなりました。注意が一点。口調があんなな ので間違えるかもしれませんが、白翼神はメスです。レディーなのです。お間違えの無いよう。 |
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