| 第6話 力は誰のために | |||
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ブルーテンの街は今日も爽やかだった。 吹き抜ける風は一足早い夏の香に染まり、道に林立する緑の若葉がその風を更に演出する。 街行く人の顔は今日も笑顔で、つい最近まで絶望のどん底でもがいていたとは思えないほどに明るく活気がある。これもこの国の政治や騎士団の治安管 理がうまくいっている証拠だろう。 そんな街の中を祐一とことりは肩を並べて歩いていた。 昨日、ことりは晴れてSランクハンターとしての資格を取得し、今日は必要な荷物を買い揃えて次の街へと移動しようとしていた。 目指すは食料などの生活必需品の置いてある雑貨屋や、だいぶ服がボロボロになってきたので服を仕立てに行くところである。 そんなわけで人の波に紛れながら二人も道を歩いていると、突然見知った顔に声をかけられた。 「おっ、いたいた。お〜い! お二人さ〜ん!」 こっちに駆け寄りながら赤い髪を揺らしているその姿は間違うことなく昨日ギルドの闘技場兼騎士団の訓練施設で出会った晴子の姿だった。 「晴子さんじゃないですか。おはようございます」 「おはようさん。それより二人ともちょっとええか?」 「どうかしましたか?」 「実は二人に相談があるんやけど、ここじゃ何かと不便やから城まで来てもらえへんか?」 街の往来では話す事の出来ない内容という事で祐一は若干厄介ごとに巻き込まれるのだろうと予感していた。 しかし、なにやら切羽詰っている晴子の様子を見てこのままというのも気が引けたのでやむなく承諾する事にする。 「構いませんよ」 「ホンマか!? それじゃ、早速ついてきてくれんか?」 快い返事を耳にすることが出来て一安心しながら顔を緩ませて喜ぶ晴子。 二人は晴子の勢いに流されるままその場所から連れられていく。 と言うわけで、せわしい晴子に連れられて二人の行く先はブルーテン城へと決まったのだった。 ブルーテン城へと案内された二人は晴子の後について城の中を歩いていく。 物珍しげに周りを見渡す二人だが、その視線の先にあるのは流石は城といった装飾品が所狭しと並んでいる。 壁には芸術的な絵画が掛けられ、廊下は綺麗な絨毯が敷かれ、廊下の端には小さなテーブルの上に花瓶が置かれ花が生けられている。天井を見上げれば 豪華なシャンデリアが煌めき、その豪華さはまさに一国の中心に相応しい建物となっている。 独特の気品が漂い、嫌でも意識してしまいつつ緊張を隠せない二人を気にすることなく晴子は二人の前を歩いていく。 そして二人は案内されるがままついていくと、とある一室に通された。 そこには往人や観鈴の他にも見知らぬ顔ぶれが揃い、既に席についていた。 「お、連れてきてくれたか? 早速だが座ってくれ」 往人は二人に席を勧めると、二人もそれに従い席に座る。 席につくとすぐに祐一は呼び出された用件の本題へと入った。 「それで、用件は手短に頼む」 「用件自体は手短に片づきそうにないんだが、二人に頼みたいことがある。ここ最近魔族がこの国のとある町に突然姿を現し、町を破壊して住み着いて いる。その殲滅を試みたいのだが、なにぶん戦力が足らないので応援を要請しようと考えていた」 「それが俺達というわけか」 「そうだ」 「気配からして国崎以外はAAかそれ以下程度だな。それで倒せない魔族ということは中級が複数か上級が出たか、どちらかだな」 「ご明察。相手は複数。おまけに全員中級以上ときた。詳しいことはそれくらいしか分からないが、とにかく力を貸してもらいたい」 中級一体なら往人のSランクという実力で片が付くが、それ以上の実力ないし複数となると話は別だ。 複数の中級魔族を相手にして生き残れるほど現実は甘くない。 その辺りのレベルはSSランクハンターにならないとなしえない芸当だ。 「その件に関しての決定権はことりにある」 「わ、私!?」 いきなり話を振られて焦ることり。 目を丸くしながら自分の顔を指さしながら祐一を見る。 「俺達の旅の目的はことりの目的とイコールだ。ことりが時間を取りたくなければ俺達は先を急がなくちゃならない」 「決まってるじゃないですか。勿論協力しますよ」 決断を迫られると、さも当然といった様子でことりが答えるその表情に躊躇いも迷いも感じられない。 「いいのか? そっちもやることがあるだろ?」 「いいんですよ。私の力は困っている人達を一人でも多く守るために授かったんですから。自分のためだけに使っていい力じゃありません」 笑顔で自分の意思をはっきりと伝えることりの姿を見て横に座る祐一は微かに顔をほころばせていた。 「その答えが聞けてよかった。ことりは間違った道に進んでいなかったようだな」 ことりの言葉を聞いて、祐一も自分がことりに手を貸したことに喜びを感じていた。 私利私欲のためにことりに力を授けたのではない。大切な姉を今度は自分の力で護りたいという願いがあったからこそ、祐一はことりを強くしたのだ。 ここでの決断は特訓前に見せた強い決心を確認するには良い機会でもあった。 目先の現実に決心を疎かにし、周りが見えなくなるなどということになってはならない。例えそれがことりにとっては目的を先延ばしになるという辛い 選択であっても。 だがことりは祐一の期待に応えていい返事を返してくれた。それは祐一にとってとても誇らしい限りの態度だったのだ。 「二人とも感謝する」 テーブルに額がつくほど深くお辞儀をすると、礼を言う往人。 「それじゃ自己紹介をしないか? これから背中を任せるかもしれない人の名前を知らないのはちょっとな」 「そうだったな。それじゃ、端から頼む」 「遠野美凪です。よろしく」 ミステリアスな空気を漂わせる黒いロングヘアーの少女が静かに自己紹介をする。 落ち着いているとも暗いともとれる雰囲気の持ち主だ。 「私は霧島佳乃。よろしくね。こっちはポテト」 「ぴっこ〜!」 美凪とは逆に活発で明るい水色のショートヘアーの女の子が自己紹介を済ませると、足下から白い毛玉が言葉を発しながら現れた。 毛玉の生き物は元気よくテーブルに上ると、愛嬌を振りまいているような仕草をしながら祐一とことりの元まで歩いてくる。 「可愛い〜!」 ことりにはかなりウケたらしい。 小さな子供のように目を輝かせながらポテトへと手を伸ばし、引き寄せると、その手触りを楽しむように撫でまわす。 「何だこの珍妙な生き物は? 魔物か?」 反対に祐一はポテトを見るなりその不思議な出で立ちに困惑していた。 魔族と遭遇してもこんな驚き方はしないだろう。 「大丈夫だ相沢。これは毛玉生命体X。宇宙外生命体だ」 「その辺が妥当だろう。この世界に存在し得ない姿だ」 「ちなみに佳乃曰く犬らしい」 「・・・・・・コイツが犬なら全世界の犬に申し訳が立たないぞ」 「むしろ全ての生き物に申し訳が立たない気がする。生物の何たるかを否定された気分にさせてくれるヤツだ」 「まったくだ。誰か一人くらいは一度こいつの事を調べようとしたヤツがいるんじゃないか?」 「約一名いたが、止められたため謎はいまだ謎のままベールに包まれている。おそらくこの先も佳乃がそれを許さないだろう」 「そうか。それは残念だ」 脱力気味な会話を展開しながらポテトについて論議をかわす祐一と往人。 ため息混じりにポテトを眺めると、そこにはことりと戯れる謎の生命体が確かに健在だった。 「すまないがそろそろ先に行ってもいいか?」 長い髪の女性が痺れを切らして言う。 まだ自己紹介は終わっていなかった。 「すまない、聖。」 聖と呼ばれた女性は気を取り直して自己紹介をする。 「私は霧島聖。一応医療関係に携わっているからケガしたときは言えば診てやろう」 何故かニヤリと笑う聖。その袖には何かキラリと光る物が見えたとか見えなかったとか。 「それじゃ、私は白河ことりです。よろしくね」 「相沢祐一だ。よろしく」 二人も例の如く自己紹介を済ませると往人が祐一に尋ねた。 「所で相沢の実力はどの位だ? おそらくかなりの実力を持っていると思うんだが」 「俺か? SSランクだ」 しれっと言う祐一に対して天空の騎士団が驚きの声を上げる。 「マジか!?」 「すご〜い」 「ホンマかいな!」 「凄いで賞。と言うことで進呈」 「すごいね、ポテト!」 「ぴっこ〜!」 「ふむ。興味深い人物だな」 それぞれリアクションをかます中で何故か美凪から進呈される祐一。 封筒を受け取ると、その中には何故かお米券が封入されていた。 それを見ると、祐一は何を言ってよいのか分からずに言葉を失う。 むしろ旅の道すがら米屋を目にしたことがあっただろうか、などと考えていた。 「これならいけるぞ」 そんな祐一のことなど気にもとめず一人意気込んでいる往人。 祐一は美凪から貰ったお米券に対する反応にいまだ困っている中でことりが話を進める。 「所でメンバーはどうする気ですか?」 「今のところ俺と白河と相沢の三名がいいと思っている」 「それが妥当だろう。ここの守りが薄くなるのは得策じゃないし、半端な力じゃ足手まといだからな」 いつの間にか通常起動した祐一が話しに加わる。 後半の方は厳しい意見のように聞こえるが、それは仕方のないことだ。 晴子達もそのことは理解している様子で、自分達の実力の至らなさに悔しげに顔を歪めているが、決して文句を言うような真似はしていない。 「それじゃ、明日の朝にここを発つとしよう」 「明日の朝に城の前に来ればいいか?」 「ああ。それじゃあ頼んだ」 「わかった。それじゃまた明日な」 「それじゃ、さようなら」 出発の朝について簡単に内容を確認すると二人は部屋から退室していく。 そして二人は退出した後、再びブルーテンの街へとやって来ると、本日の目的であった用事を一通り済ませ、宿へと引き返して行った。 そして明日に備えて体を休めるために早めの眠りにつくのだった。 明けて翌日。 天気は例のごとく晴天の中で三人はブルーテンの街を発ち、歩いて二日弱程の場所にある町に向かっていた。 その一つ前の町で休み、翌日目的の町に向かう予定だ。 そしてその予定は滞ることなく進行していった。 街道を通って進むにつれ徐々に人の気配が薄れるとともに、他とは違う何か異質な空気が漂い始める。 辺りに静けさに似たものが感じられ、緊迫感が高まっていく。 「そろそろだ」 往人の声にあわせるように見えてくるのは町の荒れ果てた姿だった。 家々は瓦礫と化し、人気は全くない。所々に生える木はなぎ倒され、よく見ればあちこちに火災の後らしきものまで見える。 瓦礫に黒く変色した住民と思しき血痕がいたるところに発見されると生々しさが更に増していく。 「非道いっすね」 「まったくだ」 複雑な表情で素直な感想が二人の口から漏れる。 町の中に入っても静けさはなお続く。寧ろ、より一層増したような気さえする。 人の温かみの変わりに感じられるのはまったく逆の冷たい空気。それが町の中を風とともに流れるだけだった。 三人はまるで魔性の気にドームの如く包み込まれたような感覚を感じながら歩みを止めずに進み続ける。 そして人気のない壊滅した町の中を三人は歩きながら気配を探るが、魔族とおぼしき気配は感じられない。 もうここにはいないのかと思い始めた矢先、町の外から近づいてくる気配が三つ感じられた。 「お出でなすったぜ」 祐一が剣を抜きながら言うと、二人も同じようにそれぞれの武器を構える。 そして姿を現したのは三体の魔族だった。 全身を赤き炎に包まれた魔族、やけに正しい服装をした悪魔、そして剣を片手に持つ剣士風の魔族の三体である。 どれもこれも人間とはかけ離れている姿が魔族であることを裏付けている。 「何のようだぁ? 人間」 炎の魔族が口を開く。 それに臆することなく往人は応えた。 「この街をこんなにしたのはキサマらだろ?」 「ええ。少々遊ばせていただきました」 嬉々として悪魔が言うその表情は不気味な笑みで歪んでいる。 背筋が凍りつくような嫌な笑い方だ。 「ここで暴れればより強い奴が来ると思った。それだけだ」 剣士の魔族が石像のような厳格な表情と口調で続けて言う。 「んで、キサマらは俺達を殺しに来たんだろ? だったら始めようぜ。楽しい宴をよ!」 威勢のいい炎の魔族の一言が戦闘開始の合図となり、闘いの火蓋は切って落とされた。 炎の魔族は手近にいた往人へと詰め寄る。 「それでは私はこのお嬢さんのお相手をさせて貰いましょうか」 スーッ、と宙に浮きながら、まるで幽霊のように静かにことりによってきたのは紳士的なコミュニケーションだがどこか冷淡さを感じる悪魔だった。 「てことは、俺の相手はお前か」 「そのようだな」 互いに同じ様なロングソードを構えながら対峙する二人はある程度の間合いを置きながら睨み合っている。 相手も自然と決まり、廃墟の街を舞台としたデスマッチが始まった。 往人は襲いくる魔族の炎の一撃をかわすと、なるべく広い場所へと移動することを試みる。 巧みに放たれる炎の雨をかわしながら、二人の場所から少し遠ざかったところで足を止めた。 「鬼ごっこは終わりかい?」 相手を見下すような視線が炎の魔族が往人に向けられると、往人はそんな視線を気にかけることもなく話しかける。 「まあな。俺は国崎往人。キサマの名は?」 「俺の名はフレイル。テメエの体、消し炭にしてやるぜッ!」 「生憎、暑いのは苦手でね!」 往人は氷の力を剣に宿し、フレイルは自らの腕を剣に変えて正面から斬り込む。 僅かな時間だが競り合いが続くと、二人の間に水蒸気が発生し、熱気と冷気のぶつかり合いが繰り広げられる。 瞬きするような間の力のぶつかり合いが瞬時に崩れ、往人の剣をフレイルが力押しで弾き返すと、往人はやや後退するがすぐに体勢を立て直す。 「燃えろッ!」 剣となったフレイルの腕が振られると、およそ直径50センチ位の火球が数個襲いかかってくる。 往人はそれをかわしながら詰め寄ろうとするが、爆風、熱風、衝撃がそれを邪魔してなかなか前に進めない。 「どうした! 逃げてばかりか!」 調子づいたフレイルはなおペースを上げる。 ランダムに移動しながら機を伺うが、それにあわせてフレイルの火球が爆音と共に炸裂する。 「弾けろ!」 さらにその言葉に反応して火球は砕け、炎の雨となって往人に降り注ぐ。 「クソッ!」 更に広範囲にわたる炎の攻撃に愚痴をこぼしながらもチャンスを見極めるが、状況に変化は訪れずに時間だけが流れていく。 だが往人もただで終わりはしない。 今まで回避するのに徹していたが、今度は火球に突っ込んでいくとそのまま魔法を詠唱する。 「アイスストーム!」 白銀に輝く氷の渦が往人を取り囲むように発生すると、火球の群れをそれで防ぐ。 ぶつかった銀と赤が熱を含んだ靄を海だし、辺りの視界をさえぎる中でその機に乗じて往人はフレイルへと接近し、蒸気に紛れて攻撃を仕掛ける。 一瞬の手際の良さに往人もこれはいけると確信している中でその手に握られている剣がフレイルに向かって走った。 「もらった!」 気配をたどりフレイルへと辿り着くと同時に迷うことなく剣を一閃し、その右腕を斬り落とした。 ザシュッ、という確かな感触に往人は深手を負わせた事を確信していた。 「アガッ?!」 刹那、気を許した瞬間、背中に激しい痛みを感じて苦悶の声を洩らす往人。 その背には焔が針を形作り、見事に突き刺さっていた。 そして、徐々に視界も元通りに晴れてくると、そこにはフレイルの姿が。 「おしかったな。けど、いい一撃だったぜ」 「なッ!?」 煙の中から余裕の様子で姿を現したフレイルの右腕は往人が攻撃を仕掛ける前と同じようにしっかりとそこに存在していた。 それはまるで往人の攻撃が無意味であると嘲笑うようにしかと存在していた。 往人は背に受けたダメージをも上回る驚愕を覚えていた。 「さあ! もっと戦いを楽しもうぜ!」 氷と炎の戦いは終幕にはまだ早すぎたようだ。 To be continued・・・ |
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