| 第9話 再会は戦いの中で | |||
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空から大地を照らす太陽の光が眩しい中、森の木々はその光を反射して色鮮やかに風の中で踊っている。 誘うように流れる風が心地いい。芝生があれば大の字になって昼寝をしたくなるようないい具合の陽気である。今なら10分としない内に心地いい夢の世界に旅立てるだろう。 だがそんな森の中で優雅とはかけ離れた舞いを踊る者たちがいた。 血と汗が入り混じり、生の瀬戸際でもがく抗いの苦行。戦いという名の血生臭く、恐ろしいダンスパーティーは開催されていた。 森の中に舗装された街道の真中で立ち止まる馬車を囲むように陣取り各々の武器を構える男女。 それを前後から挟み撃ちにするように群がる異形。 その異形は巷で言う所の魔物と称されている者達だった。 「キリがない! 一体どれだけいるんだ!」 声を荒げながらこの状況を嘆く青年は朝倉純一という。 その顔立ちは祐一に比べれば劣るものの、いやむしろ祐一とは比べてはならない気がするがこの際は置いといて、それでも十分かっこいいという部類に属される容姿をしている。 髪の色は薄く茶色に染まり、整った顔立ちをしている。 そんな純一は剣で目の前に広がる魔物の群れを薙ぎ払いながらぼやいている。 「文句はいいですから、この状況をどうにかしましょう、兄さん」 その傍らで寄り添うようにして手にしたロッドを構えているのは朝倉音夢。 名字が示す通り純一の妹で茶色い髪が肩より少し上の辺りで切りそろえられ、黄色いリボンがアクセントの少女である。 首につけられた鈴が印象深いが、戦いの最中は居場所が割れて危ないのでは?と思うかもしれないがその辺はさらりと流してもらいたい。 「純一さんじゃないですけど、流石にこれだけいれば文句の一つも言いたくなりますよ」 更に聞こえる少年の声。 見た目が幼げに見える少年の名は倉田一弥。 中性的な顔立ちが目立ち、女装すれば男だと言う事がばれないのではないかと思うほどに優男である。肌の色も男にしては白く、髪もサラサラしている。 「それよりどうするの? このままじゃ拙いよ」 青のロングヘアーをなびかせながら言う少女は水瀬名雪。 戦いの最中だというのにどこか眠気を誘うような惚けた声が特徴的な少女である。今にも立ったまま寝てしまいそうな雰囲気を帯びている。 そして四人の服装は全身を薄い紫色で統一されていた。その姿がどこかの組織の一員であるということを示していた。 四人は馬車を背にしながら会話をしているがそれでも目の前に広がる魔物の軍勢が減る事はない。むしろ増えているのではないのかと疑いたくなるほどだ。 「とにかく今は倒すしかない!」 いい加減愚痴をこぼすのも億劫になった純一は剣を片手に魔物の群れに特攻する。 やがて聞こえてくるのは肉が裂け、血飛沫が舞い、地面に肉塊が転がる音だった。 だが、そこには不自然な点が一つ、存在した。それは魔物の断末魔が全く聞こえない事である。 あの耳の奥に響き、鼓膜を刺激する地獄の叫びが全く聴こえてこないのである。 「いい加減しつこすぎるぜ!」 それでも尚、剣を休めることなく勇猛果敢に敵に立ち向かう純一。 だが、地に伏せていく魔物も時間が経つと立ち上がりその猛威を再び振るい始める。 「サンダーアロー!」 それをサポートするように音夢が放つ魔法は光り輝く雷の矢だった。 数本の矢は魔物の群れに飛び込み、その体を射抜くと電撃が駆け巡り焼け焦げる匂いが辺りに漂う。 しかし、音夢の魔法を受けても断末魔は純一の時と同じように聞こえてはこなかった。 「やはりこいつらはアンデットモンスターのようですね。倒しても何度も立ち上がってくる」 一度後退し、馬車に気を配りながら忌々しげに言う一弥。 アンデットモンスターとはいわゆるゾンビと呼ばれる存在で、死体が何らかの力により動いている魔物の事だ。 操られていたり特殊な力で意思を持っていたり様々だが、とにかくその特徴は生半可な攻撃で死なないという事だ。 剣で斬られた位では所詮肉の塊が動いているようなものなので再生してしまう。対処法としては再生できないほどにバラバラにするか、強力な炎のような力で灰に変えてしまう、もしくは 光魔法ならイチコロである。 だがこの場にいる純一達に光魔法を使えるものはいない。おまけに魔物を完全に灰に変えてしまうような強力な魔法を使える者も少ない。 それらしい魔法が使える者でさえも再生不可能の領域まで辿り着くには魔法のレベルを上げなくてはならないが、そんな暇を相手が与えてくれるなどという希望的観測も望めず、突貫し て切り抜けられるほど甘い状況にも見えない。 だが、このまま何もしないでいても状況はいい方向に進むどころか暗転するだろう。それだけは明らかなことだった。 このままではどの道死を間逃れる事はできないと判断した純一は数を減らす作戦に出る。 「音夢! 俺が時間稼ぐから一発デカイの頼む!」 「判りました!」 音夢もその策に応じ、音夢が魔法の準備を、純一が目の前に群がるゾンビの大群を相手することになる。 「はあぁぁぁッ!」 流水の如く滑らかな動きで敵の間を縫うように駆けながら剣を振る。 その道筋を示すように飛び散る鮮血が醜悪な華を咲かせる中で純一は返り血など気にすることなく一心不乱に剣を振り続ける。 「“神々の怒りを象徴する雷鳴よ 目の前の悪しき敵をその雷光で滅ぼしたまえ!”」 そんな攻防がどれほど続いた時だろうか。一分に満たない時間だっただろうが、純一には長い時間だっただろう。 音夢の準備が整い、合図を送る。 「兄さん!」 純一はそれを聞いて何も言うことなく無言でその場から飛びのくと、音夢のいるもとへと舞い戻る。 それと同時に音夢は純一の健闘に応えるべく雷の力を解き放った。 「“サンダーボルト”!!」 カッ、と眩い閃光が天を穿ち、一条の光が大木のような規模で突き刺さる。 それはまさに、神々の怒りが雷として降り注いだ鉄槌であると表現するに相応しい光景だった。 体の芯にまで届くような轟音とともに魔物の群れに突き刺さる雷光。それは辺りに土煙を撒き散らし、森ごと街道を穿つほどの巨大な力。 周りの森が多少燃えているように見えるが今は気にしてはいられない。 そして神の鉄槌の余波が風となって肌へと切迫する中、徐々に開ける視界の先にあったのは灰となった魔物の死体と更にその後ろから増援として送り込まれた魔物の軍勢だった。 「おかわりってか? ふざけやがって!」 思わず愚痴を洩らしながらその額から流れる汗は事の重大さを物語っていた。 しかしその時だった。 突如爆発音のような衝撃が純一のいる場所から馬車を挟んで反対側、名雪と一弥のいる方から轟いた。 「今度はなんだ!?」 「わかりません! 何かがいきなり落っこちて着ました!」 「これ以上面倒事は勘弁してくれよ・・・・・・」 頭を抱える思いで嘆く純一。 そのとき見知らぬ声が純一に話し掛けてきた。 「心配するな。ただの助っ人だ」 「ッ―――!? いつの間に・・・・・・」 咄嗟に剣を構えながら声の主を睨む。 そこには音夢も含め純一の気づかぬ間に剣を携えた一人の青年が立っていた。 時は遡る。 祐一達が今いるのは空の上である。何でこんな所にいるのかといえば、それは勿論この方のおかげだった。 「助かるよ、白翼神」 「気にするな。これくらいは何てこともない」 「本当に助かります」 どうしていつも修行をかねて地上を行く二人が空の旅を満喫しているのか。 それは更に遡ってブルーテンの街でのこと。 魔族退治を終えた二人は往人に『夢水の流れ』の事を尋ねてみると、帰ってきた言葉はことりにとってこれ以上とない返事だった。 「そいつならファンシスタの街にいるはずだ。幻想の騎士団四天王の一人のギルドネームが確かそんな名前だったと思う」 この言葉を聞いてことりは血相を変えて慌て出し、祐一も落ち着かせるのに一苦労だった。 そして時間としてはもう二時を過ぎたくらいだったが、ことりが有無言わせぬ剣幕なので祐一も逆らうことなく速ブルーテンの街を出発。 そして街から少し離れた場所で祐一が白翼神を呼び出し、快適な空の旅へとなったのだ。勿論、低空飛行などしたらその姿を発見されて大騒ぎとなるのでかなり高い所を飛んでいる。 おかげで太陽の光が普段よりも強く暖かく感じるが、高度がある分肌寒さも感じるので丁度いいくらいとなっている。と言いたい所だが、ことりのリクエストでなるべく急いでとの事となりでき る限りのスピードを出しているので風がものすごい。 身を切るような風が正面から来る中、二人は白翼神の背に乗り一路ファンシスタを目指していた。 「しかし、主もことりに頭が上がらない時があるのだな。将来尻にひかれないように注意しておかないと後が恐いぞ」 何故か微妙に、いやかなり爆弾発言だった。 「ちょっと待てい! まるで俺とことりがいつか結婚するような言い草じゃないか!?」 「おや、違うのか? てっきり二人はそういう仲だと思っていた」 「いつどう見たらそうなる! ことりもなんか言えよ!」 と、話をことりに振る祐一。 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・ことりさん?」 そこには頬を赤らめながら煙を出していることりの姿があった。 よく見れば何かブツブツと口を動かしていっているようだが、風のせいで何を言っているのか分からない。 まるでゆでだこ状態で思考回路がショートしていることり。 祐一もそれを見て白翼神に言い返す気力が失せてしまった。 「フフッ。意外と満更でもないようだな、ことりの方は」 「頼むからからかわないでくれよ」 「それで、主の方はどうなのだ?」 「だーかーらーっ!」 「そう怒らないでくれ。冗談だ」 祐一から見て表情は分からないが白翼神は楽しそうに会話をしている。 我が子を失い、仮初めの命で生きているなどとは思えないほど生き生きしている。 「洒落になってねぇっ!」 祐一のぼやきが風に流される仲で、この闘いの軍配は使い魔である白翼神に上がった。 意外と茶目っ気のある白翼神に上空でからかわれながらも旅は続く。 ブルーテンから一時間ほど飛んできた頃だろうか。既に国境を越え、ファンシスタの国に入って首都であるファンシスタまではあと三十分くらいという所で、白翼神がふと洩らす。 「主よ。下の森で人間が襲われているようだが」 「本当か? というかこんな所からよく見えるな・・・・・・」 こんな所とは勿論上空の事である。 雲と同じくらいの高さから見下ろす大地は全てがミニサイズ。まるでミニチュアの模型を眺めているようだ。ガリバーもビックリである。 そんな遥か下で起きている事を肉眼で確認できるなどはっきり言って人間には不可能だ。 だが白翼神は人間ではなく空の皇帝スカイエンペラーである。上空から獲物を狙うその目は常識の枠から逸脱していておかしくはない。 「それよりどうする? かなりの数を相手しているようだが」 「勿論決まってるだろ。な、ことり?」 「勿論っすよ」 息がピッタリと合う二人。 既にやる事は決まっていた。 「いちいち降りるのは面倒だ。姿を見られないように降りながら白翼神を魔玉に戻す。ことりはどの位の高さからなら着地できそうだ?」 「風護障壁を使えば結構高い所でもいけるよ」 「オッケー。それじゃ、降下してくれ」 「了解した」 祐一とことりの意見は見事まとまりこの後の行動は即決し、白翼神もまたその意見に従うと遥か上空から降下を開始した。 スカイダイビングのようにすさまじい勢いで急降下。そのまま地面に突っ込むのではないのかという勢いで地上を目指す。 そして地面まで残り五十メートルと言う所で地上と平行になるように飛び方を変えると、二人は白翼神の背から飛び降りた。 祐一は魔玉に白翼神を戻すと、空中で臨戦体勢を整える。 一方ことりは白風を使って風護障壁を展開すると、風で全身を覆いさしずめ風の隕石となって地上を目指す。 そして祐一はどうやったらできるんだと思うほどに軽やかに、ことりは大地を揺るがすほどの衝撃とともに地面に降り立ったのだった。 と言うことで純一の目の前に現われた祐一は周囲を見渡すと純一に問い掛けた。 「アンデットか。それにその馬車はさしずめ護衛対象って所か?」 「誰だか分からんが察しがいいな。そのとおりだ」 まだ抜けきらない警戒心を見せながら純一は祐一に答える。 音夢はそれを見守りながらわいて来る魔物たちに気を配っている。 灰となった魔物の後方からぞろぞろとわいてくる魔物の追加オーダー。そのペースが思いのほか遅いのがせめてもの救いだった。 「とにかく、俺も参加するとしますか!」 祐一はそう言った瞬間その場から消えた。 すると、純一達の前方に塞がっていた魔物たちが次々と地に伏していく。刹那の単位で何体もの魔物が地べたを味わっていた。 「スゲェ・・・・・・」 「誰なんでしょうか?」 その様に圧巻される二人。 その間にも祐一は魔物たちを剣の錆にしていく。 「でもアンデット相手に剣は効かないんじゃ」 「いや。どうやらちゃんと考慮しているようだ」 見れば祐一の剣の錆と成り果てていった魔物たちは起き上がる気配がない。それどころかその亡骸が塵に還元されていく。 「おそらく光の魔法を使っているんだ。こっちは任せておいてよさそうだな」 「信用しているんですか?」 「こんな危険地帯に首突っ込んでおいて得するヤツがいるか?」 「それもそうですね」 こちら側は祐一に任せると、二人は馬車を挟んで反対側に回る。 すると、そこに待ち受けていたのはこれまた驚くべき光景だった。 上を見れば飛んでいるのは魔物の群れ。 地面を叩く音とともに舞い上がる魔物たちは軍勢の真中にいる何かによって上空へと弾き飛ばされていった。 「おいおい。こっちもまたすごい事になってるな」 「純一さん! 反対側はどうしたんですか?」 いきなり現われた純一に対して一弥が目を白黒させて驚く。 「あっちもとんでもない助っ人が来たから大丈夫だ。こっちも結構な助っ人が来てるようだな」 「いきなり何かが落ちてきたと思ったら、魔物が空に飛ばされてるんだよ」 「一体誰でしょうか?」 既に魔物の標的は群れの中央で暴れる異分子に対して狙いが定められており、はっきり言って四人の出番はない。 ただ傍観、そしておこぼれを始末する程度だった。 そのとき突如宙に舞う魔物たちに紛れて中から飛び出してきた人影が純一達の前に降り立った。 それは白風を携えたことりだった。 「こ、ことり!?」 「どうしてことりが!?」 「へ? 朝倉君に音夢! やっと会えたよ!」 顔を合わせるとピンチの真っ最中と言うのにもかかわらず再会を喜ぶ三人。 「知り合い?」 「ええ。行方知らずだった友達です」 その流れにマイペースな名雪も便乗する。 戦いの最中にもかかわらず音夢の表情は至極嬉しそうだった。 「それより今はこっちをどうにかしないと。向こうは祐一君がいるか安心だけど」 「さっきのヤツはことりの知り合いか?」 「はい。それじゃ、こっちも相手しないといけませんね!」 そこで会話を打ち切ると、ことりは手にしていた白風を解き放ち魔物の体を貫きながら奥へと侵入させていく。 まるで串に刺された団子のように魔物の体は白風に貫かれている。 「疾風砕!」 白風に瞬発的に竜巻が発生すると、一気に風の力を受けて魔物の四肢は肉片となって飛び散る。流石のアンデットもここまで粉々にされれば再生は難しいだろう。 「久々に会ってみれば強くなってるじゃないか」 「それは色々とありましたから」 そう言いながら一瞬脳裏によぎる祐一との特訓の日々。それによって心なしか顔色が悪くなったのは気のせいではないだろう。 「それじゃ、そろそろこの状況をどうにかしましょうか」 「そうですね」 「とりあえず、反撃開始!」 ことりの参戦を機に活気を取り戻した純一達はアンデットモンスターを相手に反撃を開始したのだった。 To be continued・・・ |
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