|
第18話 黒幕 |
|||
|
野望。 それは久瀬政仁という一人の人間が夢見た欲望の形。深層心理に内在するものがありのままの姿となって具現化、そしてその感情は 自己の行動を決めていった。 野望という動力炉は欲望を糧とし、日々その動きを持続させる。そうして今日に辿り着いた、はずだった。 だがその野望は今、音を立て、ただの瓦礫と化した。 全ては予想していなかった第三者の出現。水瀬秋子という聴聞者の存在によって全てが水泡と帰したのだ。 政仁の息がかかった兵士達は総司に向ける剣に戸惑いを表わし、政仁は愕然と現実を目の当たりにする。野心家は既に言い逃れをす る気力すら残されていないほどに枯れ果てていた。 そしてこの状況下で依頼人である総司もまた驚きを隠せずにいた。 それはもちろんの事である。なぜなら秋子を呼んだのは祐一なのだから。 「悪かったな、総司。一芝居打たせてもらったよ」 「芝居?」 祐一の言葉を聞いて事態を把握しきれていない総司は目を点にして呆然と呟いた。 「不穏な気配があったから決定的な証拠を作るために一芝居打ったのさ。秋子さんを特別出演させる事でね」 「そういうことです」 つまり、総司をつけていた政仁側の人間の気配を察し、秘密裏に秋子に応援を要請していたのだ。 応援とはいっても名ばかりで、ただ現場で事の真相を耳にしていればいいだけの事である。 秋子を証人という役に抜擢する事で政仁の行く手を塞ぐという完璧な封殺の形を取ったのだ。騎士団、王宮を通して秋子の発言力は 絶大であるため、その効果は言うまでもない。事件の当事者である政仁の顔色が全てを物語っている。 「は・・・ははっ・・・私は・・・これで終わりだ・・・・・・!」 顔からは血の気が抜け、狂った笑みを浮かべながら放心する政仁は、無様にも地面に膝をつき、体を小刻みに震わせながら呪詛を唱 えている。 抜け殻となった欲望は既に風化し始めていた。 そんな哀れな父親の姿に視線を落とす総司は複雑な気持ちだった。これで佐佑理の安全は保障される代わりに父親の存在を欠くこと となるのだから。 「久瀬政仁大臣」 抑揚のない声で政仁の名を呼ぶ秋子。 膝をつきながら震える政仁はその声に反応すると一度大きく肩を揺らし、怯えた表情で秋この方に面を上げる。 「あなたを重罪人として身柄を拘束します」 政仁にそう言い渡すと、今度は視線だけを兵士の側に向ける。 「あなたたちも同罪です。今すぐその剣を納めなさい」 秋子の指示に従い剣を納める兵士達。彼らもまた政仁の悪事に手を貸したとして法のもとで裁きを受ける事となるだろう。 「それでは、失礼します。このたびはお世話になりました」 「いえいえ。こちらこそご苦労様です」 「それでは」 軽く会釈をして秋子は政治たちを連れて部屋から出て行った。 そこには祐一と総司が取り残される形となり、夜の静けさが再び二人の間に流れ始める。 「気にするな。お前は愚か者なんかじゃない」 「・・・ありがとう、ございます」 父親から息子に送るには酷すぎる言葉の数々に総司は痛く傷ついていた。 そんな様子を察してか、祐一が慰めの言葉をかけるもあまり効果は見られないようだ。 「これで僕は犯罪者の息子として生きていく事となる。でも、僕はこれで満足だ」 体から抜けきらない悲しみを押し殺し、自分を嘲笑うかのような言い草で自分のこれからを語る総司。 だがそこには自分の信念を貫く事で護られた最愛の人がいるということに自己満足かもしれないが満たされるものがあった。 「それは違います」 「えっ・・・?」 無音の室内に木霊する声。それは総司にとって天使の声に等しいものだった。 「佐佑理さん。倉田大臣・・・」 そこには倉田親娘がいた。 「総司君。君は一つ間違いを犯しているよ」 「間違い?」 「そうだ。君は父親の汚名を背負って生きるのではなく、久瀬総司という一人の人間として生まれ変わったのだよ。今日、この日が、君にとって新 たなる門出であり、一人前となるための第一歩だ」 「門出、ですか」 「そうですよ。総司さんは総司さんです。親とかそんなことは関係ありません。あなたはあなたとしてこれからを生きていけばいい んですよ」 母親が子供をあやすように暖かく、日向の匂いのように安らぎをくれる慈悲に満ちた笑み。少なくとも今の総司にはそう見えている。 ズタズタに引き裂かれた心を癒してくれるその笑顔に、思わず総司の目から涙が零れ落ちた。 「くっ・・・ううっ・・・ううっ・・・・・・」 嗚咽を噛み殺しながら最後まで自らの理性と抗う総司に佐佑理はそっと手を差し伸べた。 「今は、泣いていいんですよ」 「くぅっ・・・ぅあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・・・!」 佐佑理の一言が久瀬の涙で満たされていたダムを決壊させた。 歯止めの気かなくなった感情が涙となって頬を伝い、服を濡らす。総司自身の服に留まらず、側で支える佐佑理の服までも濡らしな がら泣きじゃくる姿はまるで子供のよう。そんな総司の頭を撫でながら佐佑理は側に寄り添っている。 方や愛娘を奪われてしまった慶吾は軽い嫉妬心を胸に抱きながらも、今日ばかりは大目に見ようと決め、ただその光景を眺めるだけ だった。 それから数分後、総司はようやく我を取り戻した。 「・・・すいません。お恥ずかしい姿を見せてしまって」 「いえいえ、構いませんよ」 赤くなった目に染みる佐佑理の太陽のような笑顔。 その後ろから近寄り、慶吾は総司の名を呼んだ。 「総司君」 「倉田大臣・・・」 「先ほども言った通り、君は自分自身を貫いて生きればいい。君はまだ若いし、過ちを犯すかもしれない。困難にぶち当たり挫折もするだろう。 だが、それをバネに前に進む事をやめたとき、それこそが君の人生の終わりだ。それまで、君は生き続けるんだよ。いいね」 「はい」 先ほどまで自分の弱さを露呈していた時とは違う力強い声で総司は慶吾に返事をする。 「私自身、君のことは気に入っている。君の努力次第で、いつか家族として君と語り合える事を楽しみにしているよ」 「あ・・・はいっ!」 慶吾は総司に背を向けた状態で最後にそう残すと、総司は覇気のある声で返事を返した。 総司の人生は父の呪縛から解放された今こそ真の始まりを迎えたのである。 新たなる門出を称えるのは最愛の人の笑顔と将来本当の家族となることを思い描く人からの励ましの言葉によって迎えられた。 「相沢さんには御礼を言わないと・・・・・・あれ? 相沢さん?」 周りを見回しても祐一の姿は見当たらない。 首をかしげながら辺りを見渡す総司だったが、後日改めて礼を言う事を心に決め、佐佑理達とともにその場を後にした。 夜風が冷たい夜。 月が顔を覗かせ、世界を照らす中で佇む不穏な影がファンシスタ城の屋上に存在していた。 「ちっ、ここまでか。ま、それなりに役には立ったか」 舌打ちをしながら影はそんな言葉を吐き捨てる。そして踵を返し、その場から立ち去ろうと振り返るとそこには別の影がいた。 「もうお帰りか?」 祐一が話しかけると、その影は後退りをしながら硬直する。 「キサマが今回の黒幕か。欲望を食らい自らを満たす魔族―――デザイア」 「ふんっ、随分と物知りな人間だな」 鼻を鳴らすデザイアだが、その実額からは汗が流れていた。 「場所が場所なら有名な話だ。姑息な手段で快楽を貪るカスがいるってな」 「テメェッ!」 祐一の挑発に乗り、怒りを露にするデザイア。だが祐一の表情は冷ややかなままだ。 そして相手の感情など眼中に入れず祐一は続きを語り始める。 「久瀬大臣の欲望につけこみ、黒田に知識を与え、己の欲望に従順な人間に仕立て上げ、その欲望という感情を食らう。そうやってお前は私腹を肥やしてたわけだな」 「キサマ・・・・・・!」 デザイアは怒りが自然と鎮圧していくのを感じる代わりに背筋を悪寒が走るのを覚えた。自然と言葉が喉に支えてしまう。 だが祐一は何も語らずにデザイアに歩み寄っていく。 それは緩慢な足取りで、明らかに相手を焦らし、威圧していた。 そしてその圧迫感と沈黙に耐えられなくなったデザイアはその爪を立てて強襲した。 だが祐一はデザイアの動きを読み腕を掴んでそのまま背負い投げると、地面に背を叩き付けられたデザイアに馬乗りになりながら殺気で押し潰さんとする。 こんな至近距離はかなり危険な状況だが、今のデザイアは祐一の殺気に押され完全に萎縮していた。 目を合わせれば精神を壊されてしまいそうなほどに濃密な殺気を受け、デザイアは金縛りにあっているように動けない。 「キサマのした所業、ただで済むとは思っていないだろうな?」 「ひっ!」 祐一は慣れた手つきで魔法を創造し、光を短剣のようにしてデザイアの両手、両肩、腹部、両ももを突き刺す。 「ギヤアァァァァァァァァァァ、ッッッッッ!」 「黙れ。五月蝿い」 激痛のあまり叫ぶデザイアに祐一はさらに強めた殺気とともに口を手で抑え、黙らせる。更に生み出した短剣を今度はデザイアの喉へと突き刺した。 そうしてデザイアは悲鳴を上げることさえ許されない状態となり、恐怖と絶対なる死の予感の前に屈服した。惨めな醜態のまま半壊状態のデザイアは既に死体同然の様相をしている。 「悪夢に溺れて死ね」 それがデザイアが最後に耳にした音だった。 「ナイトメアイリュージョン」 祐一は邪悪な光をデザイアに向けて放つと、やがてデザイアはもがき苦しみ始めた。 「ひぐぁあっ! あ、あ、あ、うおあああぁぁぁぁっ! あぁあァァァァァァァァっ!!」 叫び声が夜空を駆け巡る。 恐怖に歪んだ表情のなかでデザイアの瞳は光を失っていった。発狂したように荒れ狂い、それだけしか知らないようにただ叫び続けている。 「いいザマだな」 既に自我を壊され狂い続けるデザイアには届かない声を添え、祐一はその場を去る。 残されたデザイアはただひたすらいつ解放されるか知れない苦しみに苛まれ続けるのだった。 ――ナイトメアイリュージョン―― それは悪夢を相手に見せつける魔法。 精神がいかれ、狂い、自我を失うまで悪夢に取り憑かれ続ける。 そんな悪魔のような、悪夢そのものの魔法。 その魔法の属性は―――――闇。 翌日、屋上を訪れた巡回の兵士が見たものは、体のいたる所に穴が開き、この世の闇を全て吸い込んだような形相で死に絶えていた一体の魔族の姿だった。 後日、城内に地獄からの死神が舞い降りたなどという噂が流れたという。 To be continued・・・ あとがきみたいな言い訳 ようやく以前の更新内容を上回り始めたこのLegend of Moonですが、なんつーかぬるいですね。 自分でいうのも何ですが、正直これでいいのかかなり不安です(汗 最近この後の展開がこれでいいのか自責に駆られている始末。とはいえ連載を中断するほどの勇気もなくこのまま突っ走り続けることを決意したりしつつ一部 を手直し。 今回の話もかなり閑話的な内容で、あまり面白くないかもしれません。 ですが自分の中でやりたかったことを実行したのでとりあえず自己満足は出来ました。 それに以前の事件との関連性をこの辺で少しは利用しないとストーリー的によろしくないかと感じ、こんな形になりました。かなり強引な所もあったかもしれませ んけど(汗 そんなわけで、何だか自分のダメさ加減が露呈され始めているんですが、それでも気長に付き合ってくれる人はありがとうございます。見放しそうな人は・・・何 も言えません(泣 とりあえず頑張ります。努力します。ですから応援よろしくお願いします。 なんだか泣き言ばかりのあとがきだったな・・・。 By 零式 |
|||