| 第19話 祐一対秋子 | |||
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翌日、祐一が宿で目を覚まし、少し遅めの朝食を楽しんでいる所に突然の来客が現れた。 「おはようっす、祐一君」 「ことりじゃないか。どうしたんだ?」 「ちょっとしたお使いを頼まれまして、何でも祐一君にお城の闘技場の方まで来て欲しいって朝倉君に頼まれたの」 「また何か面倒な臭いがするな・・・・・・。しゃあない。とにかく行ってみるか」 祐一は残りの食べ物を口に放り込み、最後にコーヒーを口にして手っ取り早く朝食を片付けると、ことりとともに城内の闘技場へと 向かっていった。 「祐一さん、お手合わせお願いできますか?」 「ホントにあなたって人は唐突ですね・・・・・・」 闘技場につれてこられて秋子に会うなり開口一番のセリフがこれだった。 祐一も秋子の唐突振りにややお疲れ気味である。 「無理は承知の上ですが、私としても久々に力のある人と刃を交えてみたいですから」 それは遠回しに秋子に見合う実力者が騎士団の中にはいないということだろう。 団長を含めた騎士団の面々は実力で推し量れば間違いなく高位に位置するだろう。だがそれでもSSランクを冠する秋子にしてみれば 物足りないのが現状だった。 さらにこのご時世である。自分の腕を錆び付かせないためにも自分と同等、もしくはそれ以上の手練れと刃を交える必要があった。 そのための手合わせである。 「それならギャラリーは必要ないと思いますが?」 振り返ればそこには幻想の騎士団の中でも腕の立つ者達、舞、北川、香里、純一、そしてことりの姿があった。 ちなみにことりは騎士団関係者ではないが、話の流れ上ここに居合わせているだけである。 「一つの経験です。彼らには実力のある人の戦いを目で見て、耳で聞いて、肌で感じて欲しいんです」 「なるほど。総指揮官としての務め、ですか」 「そんなところです」 「そちらの意図はわかりました。ですがこちらとしても無闇にやたらに自分の戦うスタイルを見られるのは気持ちいいものではあり ませんね」 「でしょうね」 予想していたとはいえ、祐一の返答に秋子は言葉の歯切れが悪くなる。 祐一の言葉が的を射ているからこそ、そうなってしまうのだ。 「ですが、今回はオマケしておきます。借りもありますしね」 「ありがとうございます」 沈んでいた秋子の表情に明るさが戻り、丁寧にお辞儀しながら礼を言う。 顔を上げたときの笑顔といったらおそらく悩殺ものだろう。これで一児の母と誰が思うだろうか。おそらくこの街最大の謎だろう。 「女性を困らせるのは心苦しいですから」 「随分と紳士的なんですね」 「母の英才教育の賜物ですかね」 「随分と立派な親御さんですね」 「そのあたりは少し言い切れないところがありますけど、おおむねはそうですね」 これから死を背負うほどの戦いを繰り広げようとしているにしてはのほほんとした雰囲気である。だが、それでも二人の間には先ほ どとは異なる空気が流れ始めていた。他愛のない言葉のやり取りでさえ相手の腹の内を探る前哨戦ということだ。 「さて、そろそろ始めましょうか」 「そうですね」 笑顔で言葉を交わしていると、二人の顔つきが鋭く変わり会話に終止符が打たれる。 言葉とともに剣を抜く祐一。方や秋子はその両腕についている腕輪が淡く光り出すと、その形状を変えていく。やがてその姿はトン ファーになった。 ただしそのトンファーの形状は一般的な物とは異なっている。 「面白い武器ですね、サーベルトンファーとは」 「ご存知でしたか。流石に博識ですね」 「オマケに伝説級の武器ですね。おそらく、『ディプシーブルー』」 「―――! ご明察です。そこまで見抜けるなんて凄いですね。祐一さんの言う通り、海王の加護を受けたとされる伝説の武器の一つ、『ディプシーブルー』に相違ありません」 探偵が推理で犯人を追い詰めるような口調で秋子の持つサーベルトンファーの正体を見破ると、秋子の表情は驚愕に染まる。 (まさか言い当てられるとは・・・・・・。祐一さんは一体何者なんでしょうか?) (まさか当の本人から話を聞いた、なんて言えないよな・・・・・・) 更に警戒心を強める秋子と苦笑混じりに心中で呟く祐一。 だが祐一の言葉が更に秋子のプレッシャーに質を加えさせたのはそのすぐ後のことだった。 ここで秋子の武器、サーベルトンファー――ディプシーブルー――について解説しよう。 この世界に数えられているだけで二桁存在するか否かというほどの数しか存在しない伝説の武器。その中の一つが今、秋子の手中に あるディプシーブルーである。 文字通り、トンファーにしてサーベルの役割を持つその武器は、本来トンファーの打撃を与える部分が鋭利な刃となっている。その 刀身とも呼べる部分は名称が指し示すように海のように深みのある青色をしている。 そして刃という機能を用いるため、打撃ではなく遠心力を使った斬撃により攻撃するという特殊なスタイルの武器である。その分洗 練された技術が要される武器であるため使い手を選ぶのが特徴である。 「それでは、始めましょうか」 「いつでもどうぞ」 互いに間合いの外で武器を構えると、いつでも攻撃に移れる体制で互いを睨みあう。 氷のように凍てついた空気が二人の間を流れる中で、その光景を見守るもの立ちは言い知れぬ緊迫感に冷や汗が自然と輪郭をなぞる。 そしてほんの数秒のはずがやたら長く感じられる静けさは祐一の先制によって終わりを迎えた。 地を蹴り、真っ直ぐ秋子に祐一は直進する。 そしてあと一メートルほどの距離で再び地を蹴り、方向を直角に変えると、秋子の左手に回る。 だが秋子もその程度のフェイントにかかることなく左手のサーベルトンファーで受け止める。 互いがぶつかり合い、金属音が響き渡る中で秋子の右腕に握られているもう一方のトンファーが轟こうとしていた。 「ライティング!」 突如祐一の剣が眩い光を放つと、秋子の視界が光に支配される。 「はッ!」 その瞬間、祐一は秋子を押し切って一撃を加えるがその一撃は浅い。 秋子の左腕を掠める程度に終わった。 「チッ!」 舌打ちをしながら表情を曇らせる祐一もまた秋子の一撃を左の肩にもらっていた。さほど深くはないものの、あの状況下でよく出来 るものだと感心させられる一撃だ。 互いに一撃をくらわせると、すぐさま次の動作に移る。 「はああぁぁぁぁぁッ!」 今度は秋子が先手を打ち、間合いを瞬時に詰めると我武者羅なほどの乱撃が祐一に襲いかかる。二本の細腕から繰り出されていると は思えないほどに重い連撃が嵐のように降り注ぐと、祐一はそれを剣で捌き続ける。 ステップを使い後退しながら受け流し続けるが、祐一も反撃に出た。 「シャイニングアロー!」 「くっ!」 正面からではなく丁度秋子の足元から発生した光の矢が秋子に襲いかかる。 攻撃を捌きながらの魔法の威力は低い。だが秋子の勢いを削ぐには十分だった。 思わぬ方向からの攻撃に一瞬驚くが、すぐに攻撃を中断してその場から飛びのくと今度は祐一のほうが反撃に移った。 「ッ―――!」 無駄を省いた真っ直ぐな攻撃。 だが後退した秋子もまた何もしないわけではない。 「アイスニードル!」 祐一の行く手を阻むように襲いかかる無数の氷の針。 剣山の如く地から姿を現した氷の針に対して鬱陶しげに祐一は顔をしかめながら剣を振った。 「邪魔だ!」 一閃した剣で氷を砕くと、祐一はその欠片を秋子に向けてうまい具合に飛ばす。 だがそこに秋子の姿は存在せず、その気配は間近まで迫っていた。 そして秋子の刃が花を咲かせる。 「朱乱刃!」 先ほどの連撃よりもさらに上のピッチでの乱撃。腕が残像で二本以上に見える様はまさに千手観音のようである。 「くそッ!」 祐一も思わず悪態をつきながら剣を無心で動かす。 捌き切れない斬撃が祐一の体を捉えると、鮮血が宙を舞う様はまさに『朱』が『乱れる』という秋子の技の名に相応しいと言える。 血で描かれた花、という形容がしっくりくる光景だった。 そのまま祐一を押し切ると、追い詰めるために行く手を阻んだ。 「アイスウォール!」 祐一の背後に現れる氷の壁。 祐一は背中をそれにぶつけると、足の動きを止められてしまう。 「せやあぁっ!」 容赦ない秋子の攻撃が祐一に襲いかかる。 後ろを塞がれ、不十分な体制のために受ける事もままならない。 必然的に回避になるが、秋子の左右同時攻撃のため逃げ場は上のみとなってしまう。 そして祐一が跳躍すると、それは格好の的だった。 「アイスストーム!」 凍える竜巻が祐一めがけて襲いかかるが、祐一は空中でできる限り体制を整えると障壁を展開した。 「シャイニングウォール!」 光の壁によってどうにか秋子の攻撃は防ぐ事が出来た。 そして竜巻の勢いに乗じて天井まで押し上げられると、祐一は天井を蹴りアイスストームから抜け出し、再び天井を蹴り地面へと急 降下していく。 これだけでも一般常識の枠を越えた超人的な空中感覚と身体能力である。 「アイスランス!」 急降下する祐一に狙いを定めると、秋子は氷の槍を十以上生み出し一斉に放つ。 「ホーリー!」 「そんな!?」 しかし祐一はその攻撃をホーリーによって防ぐ。 だが真下から来る攻撃を真下からのホーリーで防いでは自爆同然である上に他の技では威力が低く無効化は難しい。この場合相殺で はこの後に支障をきたしてしまうのだ。 故に選択された魔法はホーリー。しかも闘技場の側面の壁から発生させるという素晴らしいコントロールで見事全てのアイスランス を光の彼方に消し去る事に成功した。 こうして祐一の前に活路が開かれた。 流石に何本かは剣でさばかれると覚悟していたが、このように全て回避されると思っても見なかった秋子に一瞬の焦りが生まれる。 祐一はそれを見逃すことなく重力加速度の加わった剣撃を秋子にお見舞いした。 火薬でステージが爆破されたのではと思わせるほどの轟音とともに祐一の一撃が炸裂する。結果として闘技場に衝撃で出来たクレーターが一つ、姿を現すと同時に秋子は地を転がりながら受身を取り素早く立ち上がる。 だがその瞬間、クレーターの中央には祐一の姿はもうない。 代わりに死角から秋子にヤバイと警告を知らせるものが近づいていた。 「―――ァッ!」 焦り半分の状態で秋子の攻撃が放たれると、その攻撃は死角から襲いかかろうとしていた祐一の体を意外なほどあっさり捉える。 「えっ―――!?」 だがその攻撃は蜃気楼のように霞み、消え去ってしまう。 「しまっ―――!」 秋子が言い終わる前にその右腕が斬りつけられる。 咄嗟にかわすが、それでも肩から肘にかけて赤い線が走っていた。それも深く、大きく。 衣服を斬り裂き、血を流しながらも秋子はどうにかその場から離れた。見れば祐一の剣には秋子の血液が付着し、赤く染まっている。 そして祐一は剣を振り下ろした姿勢から膝を尽き、地面に手をつく状態で叫ぶ。 「ホワイトチェーン!」 言葉とともに白い鎖は地面を伝って秋子の背後に現れた。 「アイスストーム!」 だが秋子もそれに応戦すると、自分と祐一がアイスストームの中心になるように発生させ、二つの竜巻の上の部分同士を直結させ る。そうして光の鎖を弾き飛ばした。 だがこの大局で膝をつくという愚行を行った祐一の口元は薄く笑みを浮かべていたことに秋子は気づかなかった。 秋子は一本につながった竜巻の中を跳躍し、反対側にいる祐一に攻撃を仕掛ける。 ここは既に秋子が作り上げた吹雪の檻。故に躊躇いも疑いも存在しない、渾身の一撃が放たれた。 「てやあぁぁぁぁぁッ!」 既に右腕は使い物になるかならないかの瀬戸際のため、左腕のみでの最後の一撃を放つ。 祐一は地に手をついた状態のため姿勢が乱れたまま故に秋子の一撃を不十分な体制で受け止める事となった。 剣で受け止めるが、不完全で競り負けてしまうと悟りアイスストームを突き破って外へと脱出を図るが、秋子は血みどろの右腕を使 って追撃を仕掛けた。 祐一の右足にどうにか一撃を加えることが出来た秋子だが、既に右腕は悲鳴をあげている。すぐにアイスストームを解除すると、こ こぞとばかりに祐一に攻撃を仕掛ける。 「アァァァッ!」 全身全霊をかけた一撃。 祐一もアイスストームを無理矢理突き破り、体中に傷を負いながらまだ十分な迎撃体勢を整えていない。 そして誰もが秋子の勝利を確信した瞬間だった。 「えっ?!」 突如足に覚えた抵抗力。 秋子が自らの足元に目をやると、そこには先ほど地面伝いに生み出された光の鎖が絡みついていた。まだ鎖はその役目を終えておら ず、虎視眈々と出番を待っていたのだ。 そのまま足をからめ取られ、地面に倒れる秋子。 そしてすぐさま立ち上がろうと面を上げた瞬間、秋子の体は宙を舞う。祐一が鎖の片方を握りしめ、秋子の体を片手で振り回しているのだ。 そのまま秋子の体は地面へと叩き付けられ、体中に走る痛みと混濁する意識の中で捉えた視界には、剣を向けながら冷たく見下ろす 一人の青年が映し出されていた。 「チェックメイトです」 「・・・降参です」 「ふぅ・・・・・・」 小さく息を吐くと、祐一は剣を納め秋子もまたディプシーブルーを腕輪の形に戻し立ち上がる。 「動かないで下さいね。今治療しますから。ヒール!」 癒しの光が秋子の傷ついた右腕を包むと、たちどころに傷は塞がり、流血もおさまる。 「ありがとうございます」 「いえ、たいした事じゃありませんよ」 そう言いながら祐一は自分の体に付いた傷もヒールで癒し、傷口を塞ぐ。 「それにしても珍しいですね。親子なのに名雪とは属性が違うなんて」 普通自分の属性とは親から子に受け継がれるパターンが多い。そのため名雪と同じ水の属性を持っているほうが自然であるが、秋子 は氷の魔法を使っていたので祐一は疑問を感じていた。 「昔、属性転換した事があったんです・・・・・・」 過去を反芻するように呟く女の表情は暗かった。その闇は広く、深いものであると祐一は瞬時に悟り、それ以上は言葉を紡ごうとはしなかった。 属性転換とは精神的な要因で自分の属性が変化する現象の事である。 事例の多くが心因的な衝撃、つまり心に傷を負うことで発生することがほとんどである。 「すいません」 「いえ、気にしないで下さい」 たまらず謝る祐一に秋子はわだかまりを晴らすかのように笑顔を向けた。祐一にとってその笑顔は救いとなった。 「それでは、この辺で失礼しますね」 「今日はわざわざすみませんでした」 「そんなことありませんよ。久しぶりに勘を取り戻す事が出来ましたし、ギブアンドテイクって所ですよ」 「そう言ってくれるとこちらも助かります」 「それでは」 「ありがとうございました」 そして祐一は闘技場を去った。 だがそこに残されていたのは笑顔で見送る秋子の姿と、祐一達の戦いに圧巻され、言葉を失っている騎士団トップの面々だった。 だが、その見送る笑顔もこの時ばかりは悲哀と後悔を覆い隠す仮面でしかないということに気づいてくれる人は誰もいない。 戦士であり、女でもある彼女のこころに救いが訪れる日はまだ遠い。 それから城を後にする祐一だったが、城の門をくぐり抜けようとした時、祐一を呼ぶ声が聞こえた。 「ゆういちく〜ん!」 「ことり?」 「ふぅ、やっと追いついたよ」 「そんなに急いでどうしたんだ?」 闘技場で圧巻していたためか、祐一を追いかけるのに出遅れてしまったようだ。ことりは息を切らしながら祐一の前で息を整える 「明日、空いてるかな?」 「明日? 別に用事はないけど」 「よかったぁ。それじゃ、明日の午後に宿に迎えに行くから!」 「ちょ、ちょっと!」 ことりは言うだけ言うと、逃げる様にその場を去っていった。 「・・・なんだかなぁ・・・・・・」 その場に残された祐一は呆然としながらそんなことを呟いていた。 仕方なく街に繰り出すが、太陽の昇り具合からして昼を迎えようとする時刻だろう。 祐一は残り半日を適当に街をぶらついてから宿へと戻っていった。 To be continued・・・ あとがき ごめんなさい。まず、なにはともあれごめんなさい。 めっちゃ更新が遅くなってしまいました。 ちなみに理由は・・・・・・とても公言できるようなまっとうな理由ではないので控えさせていただきます。 煩悩に走っていた、としか言いようがありません。ですのでごめんなさい。 次はもう少し早く更新できるよう努力します。ですのでご勘弁を。 それでは次回また会いましょう。では〜。 By 零式 |
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