| 第20話 あなたを支えたい | |||
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「それじゃ、行こっか」 「ああ」 そんな他愛のない言葉を交わすのは祐一とことり。二人は宿を後にすると、人で賑わうファンシスタの街へと出向いていった。 今日も変わることなく活気と人で賑わう街並みは平和の象徴である。人々の尽きない笑顔が全てを語る街並みは、過酷な現実を忘れさせてくれる ほどに明るかった。 そんな明るいファンシスタの街を祐一とことりは肩を並べて二人で歩く。 「そういえば、今日はどうして俺を誘ったんだ?」 「うん。ちょっとね。とにかく、今日は気分転換ということで。ここに来てから祐一君あんまりのんびりしてないでしょ? それに私もここに来て間も ないから、色々と見てまわりたかったし。それに一人だとつまんないしね」 「そういうことね。さしずめ俺はお姫様の付き人って所か?」 「そ、そんなんじゃないよ〜」 頬を朱に染めながらことりは目の前で大きくてを振りながら照れ隠しをする。そんな姿が戦いの中で死線を駆けるでもない年相応の少女の姿に見 えて微笑ましい。 「それじゃまずはどこから行こうか?」 「それじゃあね」 その後二人はお店を転々としながらウインドウショッピングを楽しんだ。服やアクセサリー、小物などありとあらゆるものがそろうこの街を飽きるまで見 てまわった。 そんなとき、見慣れた二人の姿を発見する。 「朝倉君に音夢!」 「ことり、それに相沢じゃないか」 「お二人ともこんにちは」 「よっ、二人とも」 軽い挨拶を交わし、道端で少し話し込む。 「兄弟仲良くお出かけか? それともデートかな?」 「ま、そんな所かな」 「に、兄さん!」 茶化しを入れる祐一に対して純一は正面切って堂々と答える横では、音夢が顔を真っ赤にしながら純一に向かって言葉を詰まらせている。 その表情は先ほどのことりを凌駕するほどに赤くなっていた。 「そうだったんですか。音夢は昔から朝倉君一筋ですからね」 「ことりまでそんなことを・・・・・・」 既に音夢に味方はいなかった。声の語尾も弱々しくなり、反論する気力も残っていない様子だ。 「冗談のつもりが大当たりか? それにしてもやるな、朝倉。禁断の愛の領域に踏み込むとは」 「待て待て。俺は禁忌なんて侵しちゃいないぞ。もともと俺と音夢は血が繋がってないんだからな」 流石に実の妹にムラムラきて手を出しちゃいました、などというオチはないらしい。ド外道の道だけは進んでいないようだ。 義理の妹と愛を育む。 果たしてこんな夢のようなシチュエーションに何人の飢えた野郎たちが声高らかに羨望の声を上げるだろうか。おそらく多くの野郎たちが過剰に反 応し、荒れ狂うに違いない。 「・・・そうだったのか。どおりで出来た妹の割にはだらしない兄貴だと思ったぞ」 「ぐっ、その辺りは否定できんのが悔しいが、とにかくそういうことだ」 ちなみにもともと血の繋がっていない二人は悲劇を生き抜いた末に結ばれたとか。知り合いの間ではちょっとした有名な話というが、それは定かで はない。 「私も初めて知りました。兄弟にしては中が良いな〜、とは思ってましたけど」 「あの頃はまだ俺が音夢を妹と見ようとしていたからな」 勿論、あの頃とは純一達がハンターの養成スクールに通っていた頃の事である。 「うん? 今の言い方では昔から音夢のことを意識していたように聞こえるのは気のせいかな?」 悪戯な笑みを浮かべながら純一に詰め寄ると、純一は後退りをしながら汗を一筋、いや、徐々に雨のようになりやがては滝のような汗に変わってい く。 「うっ・・・それはその・・・・・・」 「そうだったんですか、兄さん?」 「さあ、白状してもらいましょうか」 「朝倉、潮時だな」 純一の思わぬ墓穴を掘った言葉に音夢は驚きながら問いただし、ことりは色恋沙汰に興味があるのか楽しそうに詰め寄り、祐一も救いの手を差し 伸べることなく容赦無く観念するように言う。 悪い汗が滝と形容に相応しいほどの量で流れる純一。既に八方塞り、四面楚歌、孤立無援の純一は最終手段に出た。 「こうなれば! 逃げるが勝ち!」 「兄さん! 待ってください!」 「あ! 待ってください、朝倉君!」 「ちっ、逃げ足の速いヤツめ」 体を180°回転させ、踵を返して人ごみを掻き分けながら純一は逃走を謀ると、音夢はその後を追いかけて行き街の喧騒の中に消えていった。 取り残された祐一達は純一の心の内を聞けなかったことに残念な思いを捨てきれないままだったが、二人の邪魔になるので追いかけようとは思わ なかった。 余談ではあるが、その夜朝倉家では二人の間で愛が語られたとかそうでないとか。 家の明かりが一室だけ遅くまでついていたという事だけ追記しておこう。 その後、祐一とことりは一通り見てまわると、近くにあった公園で一息入れる。 ベンチに二人座りながら不意にことりは言葉を洩らした。 「祐一君て優しいよね」 「いきなりどうしたんだ?」 思いもよらぬ言葉に祐一は思わず訊き返した。それほどにことりのアクションに前触れがなかったのだ。 「ここに来るまで一緒に旅して、色々助けてもらって、今日一緒にいて改めてそう思ったの」 「買いかぶりすぎだ。俺はそんなに出来た人間じゃないさ」 「そんなことないよ。祐一君は優しいよ、すごく。でも」 そこまで言うとことりは一度言葉を切った。 そして改めて語り始めた。 「でも、その優しさが時に悲しく感じるのは、どうしてかな・・・・・・」 淋しげな表情で一字一句噛み締めるように語ることりの横顔を見て、その瞬間祐一の表情は凍りついたように見えた。 だがそれもすぐになくなり、いつも通りとなる。 「私、思うんだ。きっと祐一君が優しいのは悲しみを知っているからなんだ、って。だから人一倍優しくできるんだって。でもね、その優しさがとき に痛いくらい悲しいいと感じる時があるの」 祐一は黙ったままことりの言葉に耳を傾け続ける。 ことりもまた祐一に聞いてもらいたいと言わんばかりに話を続けた。 「時々、祐一君は自分の価値を過小評価、ううん、無下に扱ってさえいる。自分なんて、って自分の存在を投げやりに扱ってるときがある。でも ね、それはよくないと思うよ。だって祐一君を慕ってくれる人にそれは失礼な態度だと思うもん。」 痛かった。 祐一は心の中を掻き回されるような気がして痛かった。 痛かった。 ことりは祐一の心に土足で上がり、掻き乱している気がして痛かった。 血の流れない痛みは自分を内側から抉られるような感覚の痛み。 相手の奥に入り込む痛みは自分も相手の痛みを感じるような感覚に苛まれる痛み。 両者痛かった。 頭で感じるのではない、心で感じる痛み。 まるで心をスコップで掘り返されるような、後ろめたさに背中を刺されながらも止まる事の出来ない痛みを感じながら二人は時を過ごす。 しかし互いに静止をかけなければ止めようともしない。 何も語らない二人だが、その言葉に必然性を感じているからだろう。 「だからね、もしひとりじゃ辛かったら頼っていいんだよ。私、祐一君の支えになりたいから」 「・・・ありがとう」 祐一はそっと一言だけ感謝を言葉にすると、その後は重い沈黙だけが鎮座した。 数秒だったかもしれない。数分だったのか、それとも数十分、はたまたアワーの単位で時が流れたのかもしれないと感じるほどに長い沈黙は幻だ った。 それはほんの少しの間だった。 そして長く感じられた短い沈黙をことりが破った。 「ゴメンね」 「いいんだ。気にしないで」 そのゴメンという言葉は何に対して述べられた言葉だったのだろうか。 はたまた謝るという行為から生まれた言葉だったのだろうか。どっちつかずの言葉に祐一はただ返事を返す。 「それじゃ、行こっか」 それを機に、まるで今までの出来事がなかったかのようにことりの態度は不自然な程いつも通りだった。 「あ、ああ」 突然の変わり様に戸惑いを覚えながらも、ことりの勢いに流されるまま手を引かれ公園を後にする祐一。 太陽が夕日に姿を変える頃、二人は公園を後にし、再びファンシスタの街の中に姿を消していった。 そして二人が辿り着いたのは、『白河』という表札のついた一戸建ての家だった。 周りを見渡せば二階建ての家々が建ち並ぶ住宅街の中で一つだけ一階建ての小さめな家。 平凡すぎるほどに一般的なこの家こそが暦が今まで一人で時を過ごした、そしてこれからは二人で過ごしていく家である。 「到着っす」 「いきなり引っ張って来たと思ったら唐突だな、自宅に招待とは」 「これまでのお礼に食事をご馳走しようかと思って」 「お礼って、そんなの気にしないでいいのに」 「とにかく、それじゃ私の気が済まないから黙って従う!」 「りょ、了解」 何故か招待しておいて命令口調なのが気になりながらも、祐一はことりの勢いに押され言葉を詰まらせながらも中に入っていった。 そしてことりに案内されるがままリビングに通される。 「準備するからちょっと待っててね」 「うい」 そして笑顔を浮かべながらことりはキッチンへと姿を消していった。程なくして小気味よい包丁の音と鼻歌交じりのことりのご機嫌な声が聞こえ始め る。 祐一はことりに言われた通り、準備が整うまでイスに座りながらくつろぐ事にした。 「誰かと思えば相沢君じゃないか」 「どうも暦さん、お邪魔してます」 するとそこに暦が姿を現した。 以前城で会った時とは違い、白衣ではなく私服であるその姿は大人っぽさが感じられる。そこにことりとの年の差を感じ、姉であるという要素が見ら れた。 「こうしてゆっくりと君と話がしたかったんだ」 「俺とですか?」 不意に暦がそんな事を漏らした。 あまりにいきなりのセリフに祐一も一瞬きょとんとしてしまいながら、姉妹揃って唐突だな、などとひとり思っていた。 「ああ。君から見てことりはどうだったかな? あの子は結構頑固でね。時々無理しがちなところがあるから」 「確かにそうでしたね。初めて会った時は魔物に襲われてましたし」 「本当かい?!」 「でも大丈夫ですよ。ちゃんと助けましたから」 「そうか。何から何まですまなかったね」 祐一の懐かしむような声とは裏腹に、妹の命の危機を聞かされ驚きのあまり声を大きくする暦だったが、祐一の二の句を聞いて安心したようだ。暦 は恐縮気味に礼を言いながら祐一を見つめている。 「気にしないで下さい。俺が勝手にやった事ですから」 そんな暦の言葉に対してあくまで謙遜な態度を貫き続ける祐一。 「それともう一つ、訊いていいかい?」 「何ですか?」 「君は、ことりのことをどう思っているんだい?」 その言葉に祐一は少なからず反応を示した。 一瞬の躊躇いともとれる静止。 そして言葉を紡いだ。 「とてもいい子ですよ。これ以上ないくらいに」 「もう一つの答えは聞かせてはくれないのかい?」 「・・・今は、何も言えません」 祐一はそう言い残して口を結び、黙り込んでしまう。 「そうかい。それと最後に一つ。君はこの後どうするつもりだい?」 「当分はここにいます。その後は」 「また旅に出る、だね」 「はい」 「ふぅ・・・。そっか」 大きく息を吐きながら曖昧な言葉で天上を仰ぐ。 そこには複雑な思いが混在していた。自然と暦の表情に力が入るのが分かる。 「君をここに繋ぎ止めてはおけないけれど、たぶんあの子もそれを望んでいる。そしてあの子の願いは私の願いでもある。できることなら、君にここ を離れて欲しくはないが、強制も出来ない。君はまだ、何かに縛られているんじゃないかい?」 妹の願いと他人の人生。 人の生きる道を阻害する権利など誰にもありはしない。 しかし、できることなら自分の妹の願いを叶えてやりたい。暦の心の中には二つの螺旋が交わることなく永遠と描かれ続けている。 暦もまた、ことりと同じように祐一の中に秘められた何かに触れたのだった。 「姉妹揃って鋭い勘を持ってますね。確かにあなたの言う通り、俺は今も縛られ続けている。未来永劫、この呪縛からは逃れられないかもしれない。 俺は臆病だ。きっかけを待ち続けて自分で何もしようとしないし、変わろうとしない。今もまだ闇の中を彷徨い続けている」 前半は言葉となり暦に向けられていた。 そして後半は独白のようにただ口を動かし頭の中に浮ぶ文字の羅列を語っているように見えた。 そんな祐一の表情は口数に比例して暗く沈んでいく様は、まるで迷子の子供のように、淋しげな、そして何かを追い求め、切望するような表情が浮 かび上がっていた。 「いつかその闇から抜け出せた時、本当の君の心の声を聞かせてくれないかい?」 「俺の心は常に叫んでますよ」 「でも、それは偽りの叫び、だろ?」 「・・・ですね。敵わないな、暦さんには」 力のない言葉から出された祐一の誤魔化すようなセリフは暦には通じなかった。 例え力を持ち、ドミネイターなどという勲章を世間から与えられた強者であろうとも、ことメンタル面の経験では暦の方が一枚上手だったようだ。 祐一は疲れたようにして白状すると、イスに少しだけ深く座り直した。 「私は何もしてやれないし、する気もない。ただ、気がついた時には遅かった、って事もあるということを覚えておいてくれ」 「わかりました」 遠まわしに伝えられた暦の後悔だけはするなというメッセージを受け取った祐一は、ただ顔色を変えずに返事を返した。 それからことりの料理が出来上がるまでの間二人の間に言葉はなかったが、食事の席になると大いに言葉を交わし楽しいひと時を過ごした。 ことり手作りの料理を口にしながら笑顔で言葉を交わし、時間を過ごしていく。 夢のように温かで、幻のように幸せなひと時を共有しながら白河家での夜を過ごした祐一達。 いつまでも、あたりまえの幸せが続きますように・・・・・・。 To be continued・・・ |
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