第29話 集いし者達

 

 

 

  祐一達はこの場に堂々と構え、逆に秋子達騎士団の面々が緊張しているのか固い姿勢でいるので秋子達の方が客人のように見えてし
  まう。後から姿を現した男女が祐一や白斗の知り合いという事でそれに見合う力を持っているのだろうと予想して緊張しているのも
  あるだろう。

 

  しかしそれ以上に彼らの纏う空気に違いを感じずにはいられなかった。

 

  その空気を肌で感じつつ萎縮している騎士団たちだが、秋子だけは平静でいた。

 

「それでは聞かせてもらいましょうか」

 

「その前に一つ訊いてもいいですか?」

 

「なんでしょうか?」

 

  いざこれからという場面で出端を挫かれた秋子だが、そんな事を顔に出すことなく祐一の質問に応対する。

 

「街の人たちはちゃんと無事でしたか?」

 

「はい。大丈夫でしたよ。当分は別の街に移住するように指示してありますから身の安全も万全です」

 

「そうですか」

 

  流石は秋子。手配は万全だった。ただ完璧すぎて逆に怖い気もするが、ここではその不可解な完璧さが人々にとっては嬉しい限りで
  ある。祐一は秋子の報告を耳にしてホッとした様子だ。

 

  祐一によって肝心の話のほうは腰を折られたが、とりあえず住民の安全が確保された事が確認できて騎士団の者達も安堵を覚えたよ
  うである。

 

  確認したかった事は出来たようで祐一は逸れた話の核心を引き戻した。

 

「それじゃ、早速話を始めましょうか」

 

  静寂漂う室内に生唾を飲み込む音が響く。

 

  一拍の間を置いてから再び祐一は口を開いた。

 

「まず俺達が何者かという質問から。というか秋子さんは既に検討がついているんじゃないですか?」

 

しれっという祐一に対して秋子の表情は硬かった。固唾を呑んだまま祐一を正視している。それは了解の意を示していると祐一は受
  け取った。

 

「とりあえずそういうことです。ぶっちゃけて言ってしまえばちまたがもてはやす英雄って、俺達のことなんですよね」

 

随分とおちゃらけた発言であるが、その実内容はこの上なく驚きの内容だった。それは周囲の反応が如実に示している。

 

  埴輪。古墳の上や周囲に立て並べられた土製品。様々な種類があるが、ここでは主流である人型の埴輪を想像してもらいたい。

 

  祐一達の目の前にいた人たちは突如埴輪に変貌した。実際に埴輪に化けたわけではなく、埴輪と形容することが過言ではなないとい
  う事である。口はわっかのように丸く開き、目は点になったまま硬直するという具合に皆同じような顔で呆然としている。

 

  そして祐一の発言によって固まっていた面々は復活を遂げた。

 

  「えーーーーーーーーーーーーーーーーーっ?!!」

 

  たっぷり一分弱の時間を使ってフリーズから解放された祐一達六人と秋子を除いたメンツの叫び声が宿屋だけに収まらず街中に轟く
  勢いで木霊した。宿屋ごと宙に飛び上がるような声量である。

 

  宿屋の利用者が何事かと慌てふためく姿を脳裏に浮かべながらも皆混乱を隠せずにいた。

 

「・・・・・・ホント?」

 

  半ば放心状態の舞。

 

「すっげぇ! 英雄が目の前にいるのかよ!」

 

「この目で魔王を倒した人が見れるなんて感激ですね!」

 

  子供のようにはしゃぐ北川と一弥。

 

「びっくりしたよ!」

 

  言葉とは裏腹に全然驚いて見えない名雪。

 

「道理であんなアイテム持ってるはずね」

 

  栞の件をただ一人で納得する香里。

 

「相沢のヤツすげぇな・・・・・・」

 

「兄さん随分気の抜けた言い方ですね」

 

「だって実際に気が抜けてるし」

 

  淡白な反応を見せる純一に律儀にツッコミを入れる音夢。

 

「私凄い人に教わってたんだ・・・・・・」

 

  自分の師匠の真実を知りポカンとすることり。

 

「う〜む。道理で相沢の素性が割れないはずだ」

 

「杉並先輩、調べてたんですか?」

 

「諜報部としての知的好奇心が俺に調べろと語りかけたのだ」

 

「素直に暇だったからといいなよ」

 

「何を言う。俺は日夜世界の平和のために尽力の限りを行っていると言うのに、人を朝倉のように暇人扱いしないで欲しいものだ、
  眞子」

 

  杉並の言葉を筆頭に美春、眞子が漫談に参加。そして話の矛先が純一に向くと、ご本人が参戦する。

 

「ちょい待ち。その言い分では俺がお前以下のようじゃないか」

 

「違ったのか」

 

「断じて違う」

 

「どっちもどっちですね」

 

「同類項」

 

「「ぐはっ!」」

 

  音夢&眞子、愛と友情のツープラトン炸裂。純一&杉並ダメージ1000ポイント直撃。

 

  K.O. WINNER IN NEMUMAKO

 

  ということで雑談にピリオドは打たれた。

 

  ここで、萌の声が聞こえないと思った方々もいるだろう。その理由は単純明快。

 

  つまりは・・・・・・。

 

「く〜」

 

  寝ているからである。

 

  そして二名の尊い命を失い、若干一命の眠り姫を起こす妹の姿を視界の端に納めながらも話しは進む。

 

「勝手に殺すな!」

 

「朝倉よ。俺と同じ墓に眠るのはそんなに不服か?」

 

「不服も何も、お前と土の中までともにする気は毛頭無い。むしろお前の骨は壷に入れて海に流してやろう」

 

「朝倉よ! 親友に対してそんな無碍な扱いをするのか!」

 

「お前と一つ墓の下に収まるくらいなら俺は何でもするぞ!」

 

「力強く断言するなMy同士よ! 俺とお前は永遠の友、エターナルベストフレンドではないか!」

 

  そう言って捨てられた女のように純一にすがりつく杉並。はっきり言ってキショイ。

 

「「「いい加減にしなさい!」」」

 

「「ノォォォォォォォォォォッ!!」」

 

  ことりを加え、三人による正義と勇気のスリープラトン炸裂。

 

  K.O. WINNER IN NEMUMAKOKOTORI

 

  というわけで今度こそ二人の命運は尽き果てたわけである。

 

  ちなみに眞子は純一、杉並両名の討伐を終えると、再び眠りのプリンセスを現実に引き戻すべく長い道のりに旅立っていった。

 

「祐一の知り合い面白いね」

 

「たまにネジが外れるやつがいるが、それ以外は正常だ」

 

  英雄の紅一点が冷や汗タラリと流しながらさりげなくフォローを入れる。

 

  兎にも角にも、こうして二人の悪は三人の正義によって成敗され、室内に安息と静寂が取り戻された。ようやく話が進められるとい
  うわけである。

 

  だがここで一つの疑問が浮上した。

 

「待って下さい。あなた方があのR・S・Fだとしたら矛盾があります。話によるとR・S・Fは五人のはずですが?」

 

「それはあくまで噂の話です。俺達は元から六人ですよ。なんなら証拠を見せましょう」

 

  言うなり祐一は懐から絵柄のあるカードの束を取り出し、テーブルの上に置いた。

 

「トランプ、だね」

 

「ですね」

 

  証拠を見せると言いながら祐一が取り出したのはごく普通のトランプだった。

 

「ただのトランプじゃない。これは『運命のトランプ』と呼ばれるマジックアイテムだ」

 

「確かに魔法の力が込められているようですね。かすかに魔法の気配を感じます」

 

  秋子にはトランプに込められている魔法の力に気がついているが、それ以外にはただのトランプにしか見えないようである。

 

  祐一の言葉を疑う素振りを見せるので、とりあえず実践する事にした。

 

「まぁ、見てなって」

 

  祐一はトランプを鮮やかにシャッフルすると、テーブルの上に扇形を描いて等間隔に広げる。

 

  祐一から順に六人はトランプに手を近づけると、それぞれ一枚だけがまるで引き寄せられるように広げられたカードの中から飛び出
  す。そして六人はそれぞれ飛び出したカードを手にしていった。

 

「面白いですね〜」

 

  物珍しげに間延びした声で萌が呟く。どうやら眞子の奮闘の甲斐あって目を覚ましたようだ。その横では疲労感を漂わせて休息に勤
  しむ眞子の姿がある。

 

「一度徹底的に調べてみたいものだ」

 

  別の所からはいつの間にかツープラトンに加えスリープラトンを受けて天に召されていたはずの杉並が復活を遂げていた。見れば純
  一も同じように息を吹き返している。

 

  ともに目立ったダメージを受けている様子が無い所が素晴らしいのだが、ここでは全く関係ないのでこれ以上語らずにおこう。

 

「このトランプは引く人の運命に似合ったカードが手元に行くようになっている。とりあえずオープンといこうか」

 

  そう言って祐一たちはそれぞれ手元にあるトランプをテーブルの上に置いて見せた。

 

「ダイヤのロイヤルストレートフラッシュ・・・・・・」

 

  そこには確かにダイヤのロイヤルストレートフラッシュが完成していた。ダイヤの10からAまでの五枚がしかとテーブルの上で自
  らを誇示している。

 

「と、ジョーカーのカードか」

 

「つまり、ジョーカーの人は世間に知られていないだけで実際はあなた達のメンバーだった、ということね」

 

  香里がこれまでの話から辻褄の合う憶測を立てる。

 

  実はこれが彼らのネーミングの由来というのはまた別の話。

 

「香里の言う通りだ。俺達はもともと六人だったんだが、なぜか一人足りない事になってるんだなこれが」

 

「とりあえず、何故六人なのかも事情は把握しました。ですがそれが証拠とは言えないのでは?」

 

  確かに秋子の言う通り、たかがトランプ遊びに付き合わせておいて、はいこれが証拠ですなどと言われて納得のいくはずがなかっ
  た。

 

「ご不満ですか?」

 

「確たる証拠にしては不十分ですから」

 

「じゃあ、これでいいか?」

 

  不意に白斗が口を挟むと、次の瞬間には白斗の姿が忽然と消えていた。それは何の予備動作も無くイスに座った状態から消失したか
  のように見えた。

 

  だが実際は超高速で移動しただけで、その出現先はというと。

 

「今ので二回は殺せる。納得いったか?」

 

「・・・・・・は、い」

 

  搾り出すような返事。見れば秋子の額からは嫌な汗が滝のように流れていた。

 

  そう、白斗が姿を消したと思ったら現れたのは秋子の背後。そしてどこから取り出したのか、ナイフを首筋に当てて殺気をぶつけて
  いた。

 

  勿論その周りにいた他の面々は手出しをするどころか気配を感じる事すら出来ずにただ呆気に取られていた。

 

  そして何より驚くべきことは水瀬秋子という幻想の騎士団でトップの実力を持つ人物がここまで追い詰められているという事にあ
  る。

 

  だが、奇襲による強行手段とはいえ、身を持って体験すれば秋子も納得がいったようだ。いまだ止まる事を知らない汗を拭いながら
  蒼ざめた表情で沈黙している。

 

「白斗。あまり強引な手を使うな」

 

「でもこれで話が進められるだろ」

 

「それでもだ。とにかく、これで俺達のことを少しは納得してもらえましたか?」

 

  悪びれることなく言葉を返す白斗にまだ言い足りないというのが本音のようだが、とりあえず祐一は先へ進む事にした。

 

「はい」

 

「そしてすいませんでした。納得してもらうためとはいえ、こんな手段をとってしまって」

 

「いいえ。おかげで嫌というほど納得させてもらいましたから」

 

  けじめという事で秋子に詫びをいれると、秋子もその件に関して咎めはしなかった。だが最後の言葉は皮肉を少し交えるが、祐一は
  それを知っていながらスルーした。

 

「そうですか。まずは自己紹介といきますか。名前がわからないと不便でしょう」

 

「それは助かります」

 

「まずは私から。私は神威紫苑です。雷と風の属性を持つ『穏やかな雷雲』という名のギルドネームを持つSSランクハンターです」

 

「私は蒼馬瑠璃。氷と水属性で、『神水の聖女』っていうギルドネームを持つSSランクハンターよ」

 

「もしかしてラグダスの一件で大きな働きを示したというあの神威さんと蒼馬さんですか?」

 

  瑠璃と紫苑の名を聞くと、秋子は聞き覚えのある名前と合致したため質問を投げかける。だが、その言葉に対する二人の反応は曇っ
  たもので、決して快い表情はしていなかった。

 

「その事に関してはあまり深く追求しないでもらえませんか?」

 

「・・・・・・そうでしたね。すいませんでした」

 

「いえ、助かります」

 

  紫苑の言葉を受け入れた秋子。見た様子から秋子はこの一件を人並みよりは記憶しているのか、すぐに謝罪を述べる。ダグラスの一
  件とは二人にとって古傷のようなものなのだろう

 

「俺は御島白斗。氷属性でSSランク。『戦慄の解体者』がギルドネームだ」

 

「相沢とは兄弟ではなかったのか? 名字が違うようだが」

 

  すかさず白斗の名字が祐一と異なる事から兄弟という言葉に疑いを持った杉並が問う。

 

「決して兄弟とは言い切らなかった。それに近い、とは言った覚えはあるが」

 

  ようは言葉の言いようである。

 

  白斗の言い方も悪かったが、急ぎのため悠長に話をしている暇が無かったため仕方ないといえば仕方ない事である。

 

「それじゃ実際の所はどういう関係なの?」

 

「俺はアニキに育てられた。まだガキだった俺に色々と教えてくれたのがアニキだった。父親にしては年が近いからアニキという境遇のが合ってるだろうと思って親しみを込めてそう呼んでいる」

 

「なるほどね」

 

  とりあえず白斗の事に関しては疑問が解決したので次に進む。

 

「牙蔵轟という。地属性でSSランクのハンターだ。『豪腕の破壊神』がギルドネームだ」

 

「真宮霧火と申します。炎属性でランクはありません。身内には『紅蓮の死神』なんて呼ばれてますがね」

 

  一通りの自己紹介が済んだのでここで終わりかと思いきや、何故か次に口を開く祐一がいた。

 

「改めて、俺は相沢祐一。ランクは変わらないが、本当のギルドネームは『月光の支配者』。属性は、月だ」

 

「月属性? 聞いたことないよ、そんな属性」

 

  この世界に存在する八つの属性。そのどれにも属す事の無い新たな名称の属性に一同は首をかしげる中、ことりが代弁するように質
  問をする。

 

「俺が勝手につけただけだから名称だから知らなくても無理は無い」

 

「具体的にどんな属性なんですか?」

 

「簡単に言えば光と闇の混合属性だ」

 

「待って下さい。相反する光と闇の属性を祐一さんは内包しているというのですか?!」

 

  秋子が血相を変えて祐一に問い詰める。

 

  それもそのはずであり、属性の中でも炎と氷、光と闇は互いに反発する存在とされている。言うなれば水と油のような関係で、そん
  な二つの属性が混在している事は一般的に考えれば異常なのだ

 

「ええ。こんな感じで」

 

  百聞は一見にしかずということで祐一は手の平を上に向け、右手からは光を、左手からは闇の球体を作り出す。それは紛れも無く光
  と闇を祐一が生み出したものであり、相反する二つの力を祐一が束ねている事を証明していた。

 

「夜の闇に浮びその存在の偉大さを示す光。光あればこそその存在意義を見出す闇。まるでお互いを高めあう存在。まさに夜空に浮
  ぶ月のように思えて、それで月属性と名付けたんだ」

 

「なんだか情緒ある由来ですね」

 

「月は永遠に不変であり、常に世界を照らし続ける尊い存在。そして同時に孤独な存在。いつまでも交わる事を知らずに太陽の光を
  映し続ける」

 

  まるで詩を紡ぐように雅な言葉使いで奏でられる祐一の言葉に周囲の者達は不思議な感覚に浸っていた。吟遊詩人のように自分の世
  界に浸りながら祐一が奏でた言葉が聞き入る者達に染み渡っていく。

 

「何だか哲学的ね」

 

「おかげでまだ答えに辿り着きやしない」

 

「相沢は何を追い続けているんだ?」

 

「自分の追い求めるものも、ましてその命題すらもまだ見えていない。一生辿り着く事の無い答えを俺は今も追い求めている」

 

  自嘲気味に答える祐一。

 

まだ祐一の中で定まらない存在が揺れ動いている。ゆらゆらと揺り籠に揺られ続ける祐一の心は穏やかな眠りについているのか。そ
  れとも眠るまいと必死に抗っているのか。それは祐一自身にもわからなかった。

 

  だがそんな落ち込み気味の雰囲気を吹き飛ばすために言ったのか、純一が口を開く。

 

「俺にはそんな難しいことは分からん。だがとりあえず、俺たちは今この世界で生きている。それでいいんじゃないか?」

 

「哲学もへったくれもない発言ですね」

 

「いや、朝倉の言う通りだ。今はそれで充分なのかもしれない」

 

  確かに純一の言った事は音夢の言う通り哲学など無視した楽観的なセリフに思えた。だが祐一にとっては純一の答えもまたこれから
  の道を作り上げる上で役割を持つ一つのピースとなりえるようだ。現にその答えに少なからず頷いている事からも見受けられる。

 

「祐一さんたちが何者かは分かりました。それではもう一つの疑問に答えてもらえませんか?」

 

  秋子にとってはこちらの方が重大だろう。

 

  この異変の原因となる存在。つまりは黒幕が何者かということである。

 

「そうでしたね。この事件の黒幕が誰か」

 

そして祐一は憂いを浮かべたまま、微かな間を置いて語り始めた。

 

「黒幕は―――――」

 

  世界は震撼する。

 

  これから始まる血塗られた宴によって再び時代は輪廻の如く巡り行く。

 

  そして祐一によって告げられた言葉はその始まりに過ぎない。

 

 

 

 

To be continued・・・