初めは…純粋な好奇心だったと思う
気がついたら目で追っていた
だから
『何時から』なんて分からない
もしかしたら、分からないくらい前から見ていたのかもしれない
いつも、視線より少しだけ上にある。
あの、綺麗な『唇』を…――
それぞれの私室や研究室から、広間へと続く薄暗い通路。
大きく回り込んだ通路から、ほんのりと広間の灯りが見え始めた時。
通路に漂う、良く知った甘い残り香
小走りに歩き出せば、前を歩いて行く彼女が見えた。
「ウェンディーヌ!」
思わず彼女の名前をよんだ。
その後で
長いドーンピンクの髪が優雅に靡いて。
灯りの乏しい通路でも、よく分かる。
彼女の透き通るような白い肌と、ベリーレッドの『唇』
「なぁに?」
良く似合うルージュに縁取られた綺麗な唇が小さく動いた後、
両方の口元をきゅっと上げて微笑む。
女のわたしでも、思わず見惚れてしまう程、綺麗な笑顔。
トクリ…――鼓動が一つ跳ねる
なんだろう?
「どうかしたの?」
「んん〜あのねぇ〜いつから思い出したのか分かんないだけどぉ〜」
「なぁに?」
「なんだかねぇ〜すっごく気になるの」
言葉を続けながらも目が、彼女の唇から離せない。
綺麗だな…――
「ま、フラビージョがそんな風に興味を引かれるなんて珍しいわね」
また、口元が上がる。
じっと見ていた唇が、すっと下がり、彼女の瞳と入れ代わった。
「あら?今日の唇の色、悪いわね」
眉間に皺を寄せ、長い指でわたしの顎を捉える。
触れた彼女の指先の感触が、
ひやりと感じられ、自分の頬が無意識に紅潮していたコトに気付く。
わわ、今気付いたら、これってキスするような態勢じゃないの?
「そ、そう?いつもと変わらないよ」
意識するつもりはないのに、一度気になりだしたらどうしようもない!
目を合わせていられなくて、思わずぎゅっと瞼を閉じた。
「わたくしの色を…分けてあげるわね」
と…――唇に、柔らかい感触。
「??」
「…っ」
驚いて開いた眼に飛び込んできたのは。
彼女の伏せられた長い睫。
「!」
「っ…」
数秒後、何事も無かったかのように彼女は離れた。
「え?…ぁ、あー…」
「ん、綺麗」
満足そうに、また口元を上げる彼女。
「さ、行きましょう、遅くなるとサーガインやマンマルバが五月蝿いわ」
呆けているわたしの手を取って歩き出す。
「…うん」
左右に揺れるドーンピンクの髪をぼんやりと見ながら、彼女と触れた
唇を、そっと指先でなぞってみた。
「えへへ…」
「なぁに?」
「ずっと触れてみたいな、って思ってたの」
「ん?」
「ウェンディーヌの唇に」
「あら、奇遇ね」
「え?」
「わたくしも同じコトを思っていたわ」
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