I子さんの生涯学習新 粂川 妙子 大平中のすぐ近くに住むI子さんは、小柄な美人で三十代にしか見えませんが、間もなく 五十になるおばさんです。三十数年前に大平中を卒業、その後すぐに就職し、やがて結婚、 三人のお子さんに恵まれましたが、早くに母子家庭となりました。その三人を育てあげ、今 は近くのゴルフ場のキャディをしています。女手一つでこれだけでも大変なことなのに、こ の間にIさんは、自分でも定時制高校と夜間大学を卒業しています。 I子さんは学歴や単位がほしくて高校や大学に通ったのではありません。「学びたかった から、活動したかったから」昼間の疲れをものともせずに、夜の学習を続けたのです。続け てこられたのです。 高校では二十も年の違う若者たちに交じって、生徒会の役員をやり、 みずから編集長となって機関紙を発行しました。そこには同級生の若者たちへの温かい理解 と励ましの言葉が盛り込まれていました。 県下の定時制高校生による英語の弁論大会にもすすんで出場しました。実生活に根ざした その生き方考え方のすばらしさに、審査員から特別の賛辞が送られました。 中学時代、成績きわめて優秀というほどではなかった、見たところ普通のおばさんのI子 さんを、そこまでかりたてるものは一体何なのでしょう。「学習意欲」というものなのだと 思います。I子さんは「学ぶ楽しさ」というものを知ってしまったのです。だから、ゴルフ 場での仕事を終えたその足で、学校に向かったのです。普通なら、お風呂にでも入って、疲 れた体を休めるところを。 定時制高校を卒業したI子さんが次に選んだ進路は、H大学の夜間部でした。その初等教 育科の中に音楽がありました。ピアノなど弾いたことのなかったI子さんは、そこで「四十 の手習い」ピアノ教室に通い始めました。時間は睡眠時間を削って作り出す以外にありませ んでした。でも、 「先生、わたし今ピアノ教室に通っているんです。」 と、I子さんは楽しそうでした。 この春I子さんは、そのH大学をも卒業しました。なんと成績優秀学生表彰の、その代表 まで務めて。 I子さんは、間もなくぶどう農家の実家に戻ります。ご両親が高齢のため、キャディの仕 事に加えて、そちらの方の手伝いもしなければならなくなったのです。でもI子さんは、そ のままでは終わらないことでしょう。また何か学ぶものを見つけて歩み始めるに違いありま せん。 「生涯学習」ってこういうことを言うんだなあとしみじみ思います。![]()