こころが育つとき
                                西水代  皆川三重子  伸び盛りのみなさんは「あらら、去年の服小さくなっちゃった」と自分で驚くほど、体が 大きくなっていますね。目には見えませんが、心も同じくらい成長しているのです。ちょう ど竹の子が伸びるように。  一生のうちで二度とない若竹のような十代の感性や好奇心は、自然界からの贈りものでは ないでしょうか。たとえ、生活環境や家庭事情が悪くても体が弱くても、同じように心の成 長は約束されていると思うのです。  いまあなたが、不思議だなアと思ったり、空想したり、嬉しいことや悲しいことに出会っ たり、毎日しているそんな当たり前の小さな体験や想いが積み重ねられて、“ここぞ”とい う時のエネルギーになるのです。大きな感動、小さな驚きをどれだけ味わってきましたか。  −通学道路から見える美しい田園風景、男体山・太平山の上の夕焼け雲、季節を忘れずに 咲く野辺の花、写生に行って初めて見た牛の大きかったこと、給食のパンで飼っていた子猫 が死んだときのこと、秋の空の飛行雲、本屋でめくった写真集のシルクロード、好きな人へ 書いた手紙、読み返したことのない日記−どれも大事な心の栄養素です。  心の栄養はなぜ必要なのでしょうか。これからお話するK少年の中に答えが見つかるかも 知れません。 ◇小鳥とギターを持ってやってきたK君  国道50号線の高架橋付近はもと一帯が林でした。林の中に養鶏場を築いて、私達一家が 住んでいた頃のことです。  雪の降る夕方、見知らぬ少年が玄関前に立って、学生服の雪を払いながら、「家を出てき た者ですが、仕事をさせていただけますか」 といきなり……。にわとりの鳴き声がしたのでと。「学校は?」とたずねると、「勉強は大 好きです。でも、今の学校へ行っても意味がないのです。ぼくの夢の実現のために時間を無 駄にしたくありません」ときっぱりという。聞けば、都立高1年生だとか。  私達夫婦はその晩一泊させて話を聞いた。  小学生のときから、朝夕の新聞配達と、図書館で一日一冊の本を読むのが日課。学校の勉 強は学校で覚えるという。遊ぶことを知らない小学生や惰性で通学している中学生、通り一 ぺんのカリキュラムに失望していた。そんなK君の夢というのは、大自然を相手に汗を流し て働く“大規模農場経営主”を目指していた。  家を出てはきたが「家出少年」ではない。コロンブスのような冒険家に似ていた。その情 熱に私達も、K君の両親も学校もカブトをぬいだ。栃高へ通う条件で同居を許した。K君の 瞳は澄んで輝いていた。朝夕、大声で歌いながら鶏に餌をやる。夜は赤ん坊のめんどうもみ てくれ、ギター片手に遊んでくれた。インコに言葉を教えたり、虫の拡大写真を撮るのが得 意。近所の子ども達も集まってきて日曜日はカレーライスの作り方と試食……。  翌年、「自信が持てたから」とK君は、目的地とする九州大分へ発った。  滝廉太郎のふる里竹田で、K君は現在13ヘクタールもの農場主として有機農業の先端を 走っている。