幸 せ
       富 田  大島 晨  皆さんこんにちは。皆さんはこの詩を知っていますか。 山のあなたの空遠く、幸住むと人のいふ。 ああわれ人と尋めゆきて、涙さしぐみ帰りきぬ。 山のあなたになお遠く、幸住むと人のいふ。  これは、ドイツの作家でもあり詩人でもあるカール・ブッセという人が作った詩で 上田敏が訳し、この訳が素晴らしいので日本中に広まったといわれています。この詩 の意味は、人生は悲しいこと、辛く苦しいことが多い。だから、人は限りなく幸せを 求め続けて生きている。また、そうでなければならないといっているのです。この私 たちが求め続けている幸せとはどんなものか、皆さんと一緒に考えてみませんか。 私なりに考えてみると、幸せには二種類あると思います。一つは与えられた幸せで す。例えば、皆さんが好きなものを腹一杯食べて幸せを感じる時があると思いますが お金は親まかせ、ご馳走を作るのは料理人まかせという様な場合です。この与えられ た幸せは一人だけのもの。しかも落とし穴があります。いつもこの幸せに甘んじてい ると、人を頼らなければ生きていけない弱い人間になってしまうということです。 そして、二つ目は自分で作り出す幸せです。皆さんが満員電車の中で、お年寄りや 赤ちゃんをおんぶしたお母さん等に、勇気を出して席を譲った時のことを思い浮かべ てください。席を譲った皆さんは、良いことをした幸せを感じる反面、席を立たなけ ればなりません。特に疲れている時など辛いものです。この辛さに耐えることが、譲 られた人はもちろん、この様子を見ていた周りの人達も、優しい心に触れて幸せを感 じることができるのです。言いかえると、辛さに耐える力が人を思いやる優しい心と なり、多くの人の幸せにつながるということです。私は、この幸せが本当の幸せだと 思っています。ただ最近、辛さに耐え、苦難に立ち向かう心が失われつつあると感じ ています。 ここで、私あるいは私と同年代のことを例にあげながら紹介します。私が子供のこ ろ、約50年昔で、ほとんどの人が貧しい生活をしていたころの話からです。 小学1年生の時のことです。担任は女の先生でした。雪の降る寒い朝、私達は震え ながら授業を受けていました。昔はこの辺でも20〜30cmも雪が積もることがし ばしばあったと記憶しています。先生がいきなり、今から雪合戦をするから、全員裸 足で外に出なさいというのです。私達はビックリしましたが、寒いのを我慢して裸足 で雪合戦をしました。やがて教室に入り、ワイワイ騒いでいるうちに、今まで凍り付 くように冷たかった手足がポカポカと温かくなり、その後は落ち着いて勉強できまし た。 また、昔は何も無い時代でした。家に米が無くなっても、お金が無いから買いに行 けません。そこで、近所に借りに行きその日をしのいだのです。ですから、ご飯の中 にじゃがいも、里いも等を入れて米を節約しました。この様な状態でしたから、私達 はいつもひもじい思いをしながら育ちました。だから、腹一杯ご飯が食べられる時が 一番の幸せでした。 家の手伝いをいろいろしながら年月を重ね、やがて会社に入り、働くようになりま した。このころになると、全体的に一生懸命働けば何とか生活できる状態になってい ました。毎日遅くまで、しかも、週に一日しかない休日の日曜日も出勤し、働きまし た。この様に一生懸命働いているうちに、ある程度食べること以外にもお金を使える ようになったのです。すると、例えばストーブやクーラーを買い、快適な生活ができ るようになった反面、暑さ寒さに耐える力が徐々に失われていきました。また、近所 の人に世話にならなくても生活できるようになると自分のことだけを考え、人を思い やる心を失ってきたように思います。 せっかく、先生や近所の人達が教えてくれた人間として生きるために大切な、辛さ に耐え人を思いやる優しい心、助け合う心を失ってきたように思います。加えて、子 供可愛さのあまり、自分達がしてきた苦労はさせたくないとの思いから、子供達にそ れらを教えてこなかったのです。こうして考えると、一生懸命働いたお陰で物は豊か になり、不自由なく生活できるようになりました。しかし、それよりも大切な人間と しての心を失ってしまったと強く感じ、反省しています。 そこで皆さん、皆さんは21世紀の大平町いえ日本を背負ってたつ人達です。前途 ある皆さんには、ぜひ私達大人が失った、あるいは失いつつある人として一番大切な 人を思いやる優しい心を取り戻してもらいたいのです。それには、幾多の苦難を乗り 越えなければなりません。そして、物の豊かさをある程度失うことになるかもしれま せん。しかし、優しい心をもった人達であふれ、安心して生活ができるようになった 時、これほどの幸せは無いのではないでしょうか。皆さんもこれを機会に、幸せにつ いて考え、あるいは話し合ってみてください。