ビクセンつちのこ  「VSD100F3.8」


カメラ用のオートフォーカス&手ブレ補正付きレンズ、特に望遠レンズは、天体写真撮影には不向きです。
一瞬にしてピントを合わせて、手ブレ補正しなければならないので、レンズ移動に抵抗があってはなりません。そのため、レンズがガタガタの状態で鏡胴に組み付けられています。レンズが天頂を向いているときはいいですが、45度ぐらいに傾くと、内部のレンズが「カタッ」と動いて、ピンボケ、片ボケ、片色収差などが出ます。
所有しているキャノンのサンニッパも、向きによっていきなり片ボケになるので捨てることにしました。でも、300mm望遠レンズというのは、オーナー1のささやかな天体写真撮影用途にはなくてはならない焦点距離なので、代替品を購入することにしました。それがビクセンのつちのこ「VSD100F3.8」です。口径10cm、f=380mm レデューサー付きで300mmF3。こちらの方がレンズ枚数が少ないので、キャノンのサンニッパと同等の光量が得られると思いました。

まず、ビクセンつちのこの見た目ですが、安っぽいです。とても60万円以上する製品には見えません。三基光学館に行って初めてこの鏡筒を見たとき、「この鏡筒はなに?」、それがVSD100F3.8だとは思わず、10万円以下の安い鏡筒に見えました。ビクセンには製品を高級そうに見せる技のノウハウはないのでしょう。そういうものを作ったことがないわけですから。
ついでにもうひとつダメなのは、対物キャップ。この安いキャップは外すのが大変。爪が折れます。また、架台に載せたままキャップを閉める気にならないくらい力が必要です。
でも、私は鏡筒コレクターではないので、星がきれいに見えてシャープな星像に写ればそれでいいのです。


この写真のような形で使用します(写真上左)。銀色の鏡筒バンドは、昭和機械のアリミゾキャッチ(15cm)に穴開け加工して取り付けてあります。これは鏡筒バンドとして使っているわけではありません。斜めから見るとこんな形(写真上右)。すき間が空いています。
ファインダーのように、前後とも3本のM8ねじ(先にクッションが付いている)で押して固定しています。主望遠鏡に同架したとき、向きを微調整できるようにするためです。単体で使うときもこのまま。赤道儀側を右写真のようにします。アリガタアリミゾを上下逆に使用しているわけです。
天文台で使うサブ望遠鏡はすべてこの形になっていて、主望遠鏡の周りにワンタッチで取り付け取り外しができます。それを自宅に持って帰ってきても、SXP赤道儀に同様に取り付けできます。

ピント調整は直進ヘリコイド。リングを回す量とピントの移動量の関係は、キャノンのサンニッパと同程度です。問題はありませんが、天体用ならもう少し、ねじのピッチが小さくてもよかったと思います。

接眼部は眼視用のときが写真下左。焦点引き出し量が小さいので、天頂ミラーは使えません。逆に、無いとは思いますが、ヘリコイドをいっぱいまで出してもピントが合わないときには、写真下右のように、この部分が伸びます。ここは精度が良くて、ガタ無しでスライドします。
スリーブは31.7mmのみ。1本のネジで横から押すだけの、なんの工夫もないものです。この鏡筒を眼視に使う人はいないと思ってのことか、ここも安すぎます。

レデューサーを付けるとこんな感じ(写真下左)。スケアリング調整機構があります。押し引きねじが6組ありますが、調整に使うのは3組。どの3組を使うか選択できます。EOSマウントを介してα7sを取り付けるとこうなります(写真下右)。

ビクセンつちのこ+レデューサーがすばらしいのは、レデューサーを付けても眼視できること。F3ですから、アイピースへの入射角が大きいため、対応できるアイピースは限られるでしょう。イーソスなら大丈夫と思われましたが、接眼部は31.7mmのみなので取り付けていません。XWは良いです。デロスの方がさらに良い感じなので、デロス10mmを付けてみました。覗いてみると、レデューサーを付けた方が、無しよりも星像がきれいな気がします。この状態で30x100の単眼鏡!


これで星を写せば、キャノンサンニッパと同等かそれ以上の写真ができそうな期待が高まりました。
でも、ななつがたけ北天文台は雪に埋もれてシーズンオフ。光害の少ない空で写した方がいいのは山々ですが、自宅でSXP赤道儀ノータッチガイドで星を撮ってみることにしました。α7s 、ISO6400、5秒露出。SPXを極軸望遠鏡のみでセットしてノータッチガイド。20コマ撮って位置合わせせずにコンポジットしても全くズレませんでした。


でも、撮ってみたらいろいろ問題があることがわかりました。
  ・スケアリングがずれてる
  ・多少の色収差がある
  ・周辺減光が大きい

  ・周辺の星像にくさびが入る

スケアリングは、α7s をビクセンのEOS用ワイドマウントアダプターを介して接続しているので、接続箇所がいっぱいです。どこか1カ所、または、全体がたわんでズレるということがあるのでしょう。レデューサーにスケアリング調整機構があるので、調整はできますが、取り付け直すたびに違うということもありそうです。
案の定、後日、取り付けをやり直して撮影したら、スケアリングズレは少なくなりました。色収差が実質的になくなるピント位置もありました。
でも、周辺減光が大きいのはなんともなりません。周辺減光というのは、放物線型に減光していくのが普通なのだと思います。ですから、ステライメージの周辺減光補正は二次関数なのでしょう。ところがビクセンつちのこは、周辺減光レベルのグラフが三角形になります(写真右)。二次曲線ではなく、直線2本です。これだとステライメージでは補正できません。フラット補正が必須です。

レデューサーを外しても周辺減光の傾向は同じでした。だったらレデューサー付きで使います。焦点距離380mmなら、TV76+レデューサーの方がいいです。


実際に星を撮影した画像がこちら(写真下左)。
α7s、ISO6400、5秒露出を10枚コンポジット(加算平均)しただけで、画像処理はなにもしてない状態。
周辺減光がひどいし、さらに中心がずれてます。

また、光軸から外れたところにある明るい星がこういう形になります(写真下右)。星に両側からくさびが入ります。なにかの回折像ですね。
対物側から覗いても、接眼側から見ても、途中に障害物的なものは何もないのですが・・・


これはビネッティング(口径食)による回折像でした。これを説明します。

光軸上にある星の焦点位置から対物レンズ側を見たとしたら、星からの光が通過してきたすべてのレンズは円形に見えます。円形のレンズを通過した星の焦点像には、同心円の回折リングが出ますが、写真レンズの場合、それは問題になるものではありません。
一方、光軸から離れた位置にピントを結んだ星の焦点位置からレンズ側を見ると、一番前のレンズは、十日月型に見えます。一番最後のレンズは反対の二十日月型に見えます。中間にレンズがあった場合は、レモン型です。円形ではないレンズを通った光は、強い回折像を出します。たとえば、八角形のレンズを通った星の光は、8本の強いスパイダー(回折像)が出ます。これは多くのみなさんが経験済みでしょう。
光軸から離れた位置にある星の光は、円形ではないレンズを通過します。さらに、一番前のレンズと一番後ろでは、形が対称(に近い)であるため、回折像も対称に出て、星の形がこうなります。

これはどうしようもありません。こうならないようにするには、後ろにあるレンズを大きくして、カメラの撮像素子より遥かに大きなイメージサークルを持つようにレンズ設計するしかありません。イコール、設計が難しい上に高額になります。タカハシのFSQはそれを考慮した設計をしているらしいですが、ペンタックス=ビクセンはそうしなかったわけです。


ビクセンつちのこ+レデューサー+35mmフルサイズカメラで撮った写真が、やっと見られる状態になりました(写真上 M45)。
ふた昔前の天体写真みたいですが、これは良い光学系と最高に暗い空の下で肉眼で見たM45そのものです。光害いっぱいの自宅で、こういう写真が撮れるのはすばらしいことです。
このシステムを運用するには、鏡筒とカメラの接続、ピント合わせ、画像処理など、多少のノウハウが必要です。でも、ノウハウというのは難しいことではありません。いろいろなことを適当にやらないで、常識的な当然やるべきことを普通にやる王道を行けばいいというだけのことでした。
この光学系の周辺減光補正は、ステライメージではできません。フラット補正するしかありませんが、それができない場合は、全体を暗くするか明るくするかして、トーンカーブでごまかします。この写真は暗くしてごまかしました。

そうこうしているうちに、Sonyα7s を SEO-SP4 改造しました。クリアフィルターです。屈折光学系で撮影する場合は、常時、何らかのフィルターを付けて撮影することになります。天体写真専用カメラとなりました。
また、自宅でお手軽にフラット画像を撮るにはどうしたらいいかと考えていたら、簡単に撮れる場所と方法がありました。α7s SEO-SP4 とフラット補正のテストを兼ねて、自宅からバラ星雲を撮影してみました。


つちのこ+レデューサー+α7s改
2015.1.18 0:05 〜20秒間隔インターバル撮影
IDAS HEUIB-II フィルター
ISO6400 8秒露出x18枚 加算平均

フラット補正以外にもいろんな補正を重ねましたが、空が明るい自宅で撮ったにしてはバックグラウンドが黒くできて、とりあえず見られる写真になりました。フィルターがHEUIB-II なのでバラ星雲が真っ赤になっていますが、それはいいことにしてください。
ここにアップした写真は縮小したため、暗くなりすぎるので、あえてバックを多少明るくしてあります。


つづく・・・





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