HYPERION ASPHERIC 31mm

HYPERION ASPHERIC 31mm2本セットを買いました。
このアイピースの最大のメリットは細いことです。日本人の大人の目幅は、平均的な人で最小55mm程度です。双眼装置や双眼望遠鏡の場合、アイピースの外径がそれ以下でないと双眼にはできません。HYPERION ASPHERIC 31mmの外径は、金属部分が56mm弱で、そのまわりにゴムリングが付いており、そちらの外径は58mm程度です。2インチスリーブのアイピースでこの外径は貴重です。ペンタックスのXW30mmや40mmはいいのですが、外径が大きくて双眼にはできません。毒キノコなど問題外です。さらにHYPERION ASPHERIC は、31.7mmスリーブも付属しており、見かけ視界は55度と狭くなりますが、双眼装置に付けられます。

国際光器のWebサイトにある説明は、「Hyperion-Aspheric 31mmは視野全体に極めてシャープで、収差や歪が最小限におさえられた良質な像を結びます。Hyperion-Aspheric 36mmのほうは周辺像を多少犠牲にすることで、実視野の結像性を向上させています。」 本体の細さとこの説明を見て、31mmを買うことにしたのですが、実際に星を見てみたら...
中心部の星像は非常にシャープです。これほど小さい星像は滅多に見られません。しかし、それは視野中心の星でピントを合わせたときの中心部分だけです。7割程度から外側は星が三日月型になります。うたい文句ほどではないじゃないか...と思ったのですが、視野周辺の星でピントを合わせてみたら、視野全体の星がほぼ点像になりました。この場合、中心部のシャープさは落ちますが、それでも星は「点」と言っていい範囲内です。説明書に「ピントは周辺の星で合わせろ」と書いておいてもらいたいものです。視野周辺にある明るい星は、ピント調整ノブを回していくと形が「−」から「+」、さらに「 l 」型に変化します。「+」になったときピントが合ったということで、「点」にはなりません。

このアイピースは見かけ視界が72度で、広角アイピースが増えてきた現在ではそれほどでもないですが、全視野の星が点像になるかどうかが問題です。これはギリギリ合格といえます。ギリギリでも、私の知る限りでは、双眼用として「合格」はこれ一本だけで、他にはありません。焦点距離が30mmを超える2インチ広角アイピースの中では、これが最も双眼に適したものだと思います。もっと短焦点で良ければ、パン・オプティック27mmとイーソス13mmがあり、イーソスは別格の文句なしです。イーソスの外径はHYPERION ASPHERIC 31mmよりも多少太いですが、双眼で使用できる人は多いと思います。31.7mmスリーブのアイピースでよければ、XWやナグラー、パンオプティックなど選択肢はいくつかあります。

HYPERION ASPHERIC 31mmが2本あるので、TOA130(f=1000mm)とTEC140(f=980mm)に付けてみました。中心にある星でピントを合わせるとやはり非常にシャープな点像になります。明るい星は、点のまわりにきれいなディフラクションリングが光っています。TEC140の方は、視野全体がほとんどすべて点像になっていました。シャープでクリアなコントラストの良い視界です。最外周にある明るい星は形が崩れますが、周辺でも星像の悪化はほとんど気になりませんでした。湾曲も少ない方です。TOA130の方は、中心の星でピントを合わせたつもりなのですが、自分の目が不安定で、望遠鏡にはさわっていないのに、覗きなおすたびにピントが違います。もちろん、微妙な違いです。ピントがきちんと合えば、TECと同様、シャープな星像になります。中心と周辺ではピントの位置が違います。TECで見てもED80Sで見ても同様なので、HYPERION ASPHERIC 31mmの焦点位置が湾曲していると思われます。ピントが平均的な位置にいけば、視野全体の星がほぼ点像になります。覗きなおすたびにピントが違うというのは、視野内の中心と周辺ではピント位置が違うため、目の方がどこにピントを合わせて良いのかわからずに、オートフォーカスが前ピン後ピンを繰り返して収束しないようなものなのでしょう。
TEC140で視野全体の星がほとんどすべて点像になったのは、偶然そういう位置にピントがいったのか、それともレンズ同士の相性が良いのかは確かめていません。TOAよりもTECの方が、対物レンズ側の像が平面に近いような感じです。

バーダーの双眼装置をTEC140に付け、HYPERION ASPHERIC 31mm2個の双眼で見てみました。この場合、2インチスリーブは使えないので、それを外して付属の31.7mmスリーブに交換します。当然視野がけられて、72度の見掛け視野が55度になります。31.7mmスリーブにも視野絞りがありますが、その先の内径の方が細いため、視野絞りの役目を果たしていません。縁がぼけます・・・というより、強い周辺減光です。視野絞りの直径をその先に合わせて小さくすればいいのに。見掛け視野55度というのは、どこを測っているのか疑問です。
これで星を見てみたら... ピントが合いません! ドローチューブを一番奥まで入れても、まだ光路長が足りません。他の31.7mmスリーブのアイピースならピントが合うのにこれだとダメです。付属の31.7mmスリーブを見てもらえばわかるように、長い! ティーパーの付いた部分が無駄な長さです。これがなければピントも合うだろうし、視野のけられも少なくなるはずです。しかたないので、双眼装置に1.25倍のリレーレンズを付けました。これでピントが合いました。
中心の良いところしか使わないわけですから、視野全体の星がすべてシャープな点になります。見かけ視界が一応55度ということですから狭くは感じません。両目で見ると片目の時よりも視野外周の円が大きく見えるので、見かけ視界が広がったと錯覚します。そういうこともあって、2インチの片目から、31.7mmの双眼に替わっても視野が狭くなった感じがしませんでした。双眼にしてもこれはこれで、シャープでコントラストが良くて覗きやすい良い接眼レンズです。
しかし、HYPERION ASPHERIC 31mmを双眼装置に使うのは、できるだけ低倍率にしたいからなのに、1.25倍のリレーレンズを付けなければならないのではありがたみがありません。TOAだとピントが合うかどうかは試していませんが、双眼装置を付けたときのドローチューブの余裕が同じくらいだったので、やはりダメかもしれません。VMC260やシュミカセならこういうことはありません。

31.7mmスリーブは、もっと単純な構造の短いものに換えてもらいたいものです。このスリーブを壊していいなら、短く作りかえる方法を考えましたが、2個で15000円ぐらい(国際光器)の部品が必要なので高くつきます。実は、2個で15000円のうち、1個は手元にあって使い道がありません。でも、1個だけでは意味がないし・・・ と思っていたら、同じものが笠井トレーディングで1個3200円で売っていました。

その後、やはりやってしまいました。31.7mmスリーブを壊して作り替えました。それに至るまでには、いろいろ計算したりシミュレーションたりして、付属の31.7mmスリーブは今後使うことがないと判断しました。31.7mmのねじの部分だけを残して他を切り落としました。
一方、これまで使うことのなかったSBIGのST2000XCMに付属していた31.7mm取り付け用スリーブを少し加工しました。この2つを組み合わせると写真の通り、新しい31.7mmスリーブができました。これにも、付属の31.7mmスリーブにあった視野絞りよりも内径の小さい視野絞りを作りました。この場合、見かけ視界は52度程度になったと思われます。しかし、元々の見かけ視界55度、周辺減光ありのスリーブよりも実質的に良くなりました。
SBIG ST2000XCM付属の31.7mm取り付け用スリーブと同じものを1個注文して、もう1個のHYPERION ASPHERIC 31mmも同じスリーブを作ることにしました。
バーダーと国際光器さんには、こういう労力とお金を使わないで済むようにしてもらいたいと思います。






レポートトップへ