ななつがたけ北 天文台 製作記


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「ななつがたけ北 天文台」は当初、公共天文台として設計しましたが、途中から個人天文台として設計し直しました。公共天文台としての設計はボツにしたものなので、ここでは紹介しません。個人天文台としての設計をご紹介します。

   

基礎


多くの小規模天文台は、天文台内やその周りを人が歩くと揺れます。個人天文台というのは、天文台設計のプロが作るわけではなく、オーナーが根拠もなく、「こんなもんでいいだろう」と考えて設計します。そもそも天文台設計のプロという人が日本にいるのかどうかも定かではありません。たいていの場合、完成してから「地面て、こんなに揺れるのか!」と気が付きます。
望遠鏡がのる支柱は、建物の他の部分から独立していた方がいいというのはわかると思いますし、自分で作る場合、きっとそうするでしょう。しかし、独立していればそれでいいというものではありません。鉄筋コンクリートも長くなると、しなります。細くて長い独立した支柱では、揺れて使い物になりません。実例で言うと、直径50cm高さ4mの独立支柱はだめです。その上に総重量約100kgの望遠鏡をのせると、指先で赤道儀を押しただけで全体が揺れます。低倍率ならなんとかなりますが、惑星を見るときだめです。
自宅の屋上(2階の上とします)に天文台を作りたいと夢見ている人は、下手な独立支柱を作ろうなどと考えないで、望遠鏡の真下に通し柱と梁の交点が来るような設計にし、家全体で支える構造にした方がいいでしょう。だいたい、一般家屋の中に独立支柱などあったら、1階・2階の同じ場所にデッドスペースができてしまい、家族から大ひんしゅくです。
また、地盤そのものの強度も大切です。かつて湿地だったようなところは家を建てるだけでも、相当な地盤に対する強化工事が必要です。そこに天文台は無理でしょう。建築屋さん経由で、専門家に地盤の強さを測定してもらえます。天文台建設に向くところはそう多くないようです。地盤がどうあれ、近く(目安として100m以内)に交通量の多い道路がある場合は、そこに天文台を作るのはやめた方がいいでしょう。車が通ったときの振動というのは、想像以上に大きいです。

「ななつがたけ北 天文台」は、幸運にも岩盤の上に厚い粘土層が堆積した地質でした。理想的な地盤です。そこに基礎にお金をかけた、同程度の天文台としては日本一と思える基礎を作りました。日本一なのは基礎だけです。

図の灰色の部分(ドーム直下を除く)はすべてコンクリートで、一番下は 8m x 8m 厚さ1m
図の方眼は10cmです。
コンクリートが3層になりますが、すべてに多くの鉄筋が入り、間も鉄筋で連結され一体化しています。

コンクリートは全体で300トンほど使います。これは個人天文台としては途方もない量だと思います。
大型ミキサー車が10トン積めるとすれば30台分です。これが土の中に埋まります。

観測室の床は地上約3mです。その支柱は四隅に20cmx20cmの鉄製コラム(肉厚四角パイプ)を柱として立てます。その外側に内径45cmのヒューム管をかぶせて、中にコンクリートを流し込みます。ヒューム管の下にはスぺーサーを置き、2段目の基礎と一体化しています。
望遠鏡の支柱も同様ですが、床を支える支柱から独立した、内径70cmのヒューム管です。中心に20cmコラムが2本平行に溶接されて立っています。ここはコラムの中にもコンクリートが流し込まれています。

完成時に見えるのは、5本の支柱と望遠鏡の支柱をとり囲む一番上段のコンクリートの一部のみです。まさに氷山の一角。






このくらいのことをしないと「人が歩いても揺れない天文台」にはなりません。また、ドームや望遠鏡の値段に比べて、コンクリートというのは結構安いものです(コンクリートよりも穴掘り・鉄筋にお金がかかりますが)。多めに使ってもさほど費用はかさみません。












上から見た図
左が北、上が東

鉄筋コンクリート基礎の一番下を含む図は大きくなりすぎるので省略します。
2段目から上を表示します。

望遠鏡ベースが中心から南にずれているのは見て明らかですが、よく見ると西にもずれています。

赤道儀や鏡筒、観測室の構造によっては、赤道儀ベースの位置は南にだけではなく、東西方向にもずれます。観測室がきちんと東西南北を向いていない場合は、特に気を付けてください。
いずれにしても、望遠鏡ベースの位置は、必ず観測室中心から外れます。どのくらいずれるかは、赤道儀や鏡筒によります。
基本的には、赤道儀の不動点がドームの中心に来るように望遠鏡ベースの位置を決めればいいわけですが、片持ちフォーク式や変形赤道儀の場合、鏡筒を天頂に向けたとき、主鏡が観測室の中心に来るようにすべきでしょう。
また、観測室がきちんと東西南北を向いていない場合は、不動点が西寄りか東寄りに振れ、多少南にも寄るわけですから、さらにずれます。このずれがどちらにどれだけかは、望遠鏡のベースの位置を決めるときにきちんと計算しなければなりません。四角形の観測室の場合、それ以前に、観測室が真北から何度傾いているかを正確に測定しておかなければなりません。

観測室のベースになる四角形は、20cmx20cmのH型鋼です。図を見ると1辺が3.2mとなっていますが、この図を建築屋さんに渡して製作してもらうと、完成時には1辺が3.2mにはなっていません。
柱と梁の接続部分は鉄板を溶接するのですが、それが約25mm外にはみ出します。1辺が5cm大きくなります。はみ出さない工法も可能なようですが、ななつがたけ北天文台は、作業依頼時に「完成時に外側へのはみ出しがないようにしてほしい」とお願いしたにもかかわらず、しっかり一辺が26mm程度はみ出していました。
また、左写真をご覧の通り、上側の面にも鉄板とナットが出っ張ります。


基礎や支柱の大きさがどのくらい必要かは、観測室の高さによります。素人の場合、図を描いてみるのが一番です。人間の目分量というのは結構たいしたもので、目で見て「これなら安定するだろう」と思える大きさにすれば、当たらずとも遠からずになります。一番上の図をちょっと離れたところから見てどうでしょう。私には、これで最小限、もう少し大きくてもいいかな、という感じに見えます。しかし、大部分の基礎が土に埋まっており、土の重さと粘りも加わるので、安定性は増します。さらに、土がクッションになり、周りを人が歩いても、ダイレクトに基礎に振動が伝わらないことが期待できます。








観測室

観測室は四角形の方が、角に物が置けて何かと便利です。最近の天文台は、写真撮影機材やパソコンが必須ですから、物を置く場所はいくらあってもいいです。しかし、ドームは円形ですから、四隅がはみ出すため、その部分の天井の処理が面倒です。素人が適当にやると雨漏りして、見えないところから徐々に朽ちてきます。気づいたときにはほとんど手遅れです。通常は観測室まで含めて、ドームメーカーさんにお願いするべきでしょう。
私のところの場合、豪雪地帯という特殊事情があるため、ふつうの角形観測室は不適です。四隅に雪が積もって固まっていき、スリット部分が引っかかって回転できなくなります。固まる前に、こまめに雪を落とせばいいわけですが、四隅の雪落としは大変面倒な作業になります。また、角にのった雪が、まれにある暖かい日に溶けると、積もった雪の下の方がシャーベット状になります。これがまた固まって氷になったら、もう剥がれなくなります。
多少たりとも雪を落としやすくするため、下は角形、上は円形という観測室にしました。こんな観測室はドームメーカーさんの規格にありませんので、自分で作ることにしました。

観測室への出入り口は、側面の壁ではなく、床に人が出入りするのに不自由のない大きさの穴をあけ、はしごと階段の中間ぐらいのものを作り、昇り降りすることにしました。開口部には閉じると床になる丈夫なふたが付きます。出入り口は側面の方が良さそうな気がしますが、側面の壁は以外に低く、出入りしづらくなります。そのうえ、扉を作るとその部分の壁面強度が低くなります。
とはいえ、床に穴をあけるというのは、個人天文台だからこれでいいのであり、公共天文台で同じことをやってはいけません。
観測室の床の位置は、茶色の外壁の一番下ではありません。外壁が、床下にある鉄骨製の観測室ベースを覆い、さらにその下にスカートとして伸びています。雨の吹き込みを防ぎ、観測室床下の鉄骨等に露が付きにくくしてあります。外壁の下端は、背の高い人でもぶつかることのない位置になっています。







望遠鏡

自分専用の観測所をつくりたいと思う人は、当然それを何に使うのか、目的があるはずです。それによって望遠鏡も決まってくるので、ここで一般論としての「望遠鏡の選び方」を書いてもほとんど役に立ちません。
私の望遠鏡選定基準を紹介するだけにします。

天文台を作る第1の目的は、きれいな空の元で、小口径望遠鏡では見ることのできないすばらしい天体の姿を自分の目で見るためです。

この天文台を作る以前に、私は45cmF4.1ドブソニアン望遠鏡を所有しています。これを使って、空の良いところで見る星雲星団は、「すばらしい!」の一言です。
M104やNGC4565の暗黒帯が直線ではなく、ギザギザしているのがよくわかります。主な銀河は、天文雑誌で見る天体写真と同じように見えます。球状星団は、中心部分がつぶれずに星に分離して見え、明らかに写真よりきれいです。ただ、ドブソニアンなので天体の導入が大変です。入っても、日周運動で流れていくので、落ち着いて観望できません。やはり、赤道儀で自動導入がないと不便です。目的の天体を手動で導入することも楽しみの一つという考え方もできますが、それを何度も何度も繰り返す必要はないでしょう。
目的の天体を素早く導入して、視野の中心に置いてじっくり見てみたいと思います。同じ天体でも、繰り返し見ていると、だんだん正確に、細かく見えるようになります。正確に見えるようになり、それを人に伝えられるようになったら、藤井旭氏の「星雲星団ガイドブック」のような「45cmドブソニアンのための星雲星団ガイドブック」を作ってみたいと思います(本として出版するようなものではありませんが)。

そのためには肉眼で見たイメージに近い写真も必要です。天体写真はインターネットで探せばいくらでもでてきますが、それらはみな美しすぎます。肉眼でも同じくらいに見えるとはいえ、眼視とはイメージがかなり違います。公開されている天体写真は、美しく見せるための画像処理がかかりすぎているように思います。色がほとんど付いていない、もっと弱々しい画像がほしいわけです。また、焦点距離やCCDサイズがいろいろで、スケールが全くわかりません。自分で撮るしかないのでしょう。
撮るのは比較的簡単です。美しい画像でなくていいわけですから、短時間露出のワンショットでOKです。現実には、とりあえず写真を撮ってから、ドーム内で、望遠鏡で目的の天体を覗いてはパソコンモニタを見て、眼視に近い感じになるよう画像処理をすることになるのでしょう。それも普通とは逆のコントラストを下げる処理になります。

望遠鏡は、眼視でも写真撮影でも楽しめる必要がありますが、1つの望遠鏡で星雲も惑星もというのは難しいので、主望遠鏡は惑星を捨てて星雲星団に特化しました。惑星はサブ望遠鏡を同架して対応します。というのは、惑星は望遠鏡の口径よりもシーイングによって見え方が全然違います。30cmを越える大口径では、その能力を生かせる夜はかなり少なくなります。25cmぐらいまでだと、能力を生かせる機会がぐんと増えます。

手軽に短時間で写真撮影可能で、眼視の場合、よく見かける天体写真に近い姿の星雲星団が見られる望遠鏡。行き着いたところが、35cmmF4ニュートン焦点反射望遠鏡。もちろんお金の都合もあります。F4というのは短焦点すぎると思われますが、テレビューの「パラコア」(コマコレクター)をほとんど常時付けようと思っています。パラコアを付けるとF4.6相当になります。
45cmF4.1ドブソニアンにパラコアを付けて眼視の場合、コマ収差がほとんどなくなって周辺まできれいな点像に見えます。安物の広角アイピースでもパラコアなしの場合とは雲泥の差が出ます。これは優れものだと思いました。ただ、写真撮影に使おうとすると問題がありました。パラコアは2インチスリーブ差し込みのため、当然レンズの直径が2インチ未満です。そのため光がかなりけられて、100%の光量が入るのは中心の12mmφ程度です。所有するCCDが、だいたいその程度の大きさのST2000XCMですからよしとします。
惑星用の副鏡はビクセンのVMC260Lにしました。35cm主鏡に26cm副鏡というのはちょっと大きいと思われますが、口径の割には軽く短くできているので問題ありません。この鏡筒を見たことはなかったのですが、ビクセンにいる大学の先輩が作ったものですし、良い評価は耳にしましたが、悪い評価を聞いたことがなかったのでこれにしました。・・・と、自分で購入したかのようですが、オーナー2が購入してくれました。これ以外にあるとすれば、ミードの25cmF10リッチークレチアン鏡筒でしょう。こちらの方が価格は安いでしょうが、まだ当分、ものが手に入りません。

良質なレンズで見る星像は、反射系よりあきらかにきれいです。いい屈折鏡筒も欲しかったのでタカハシのTOA130も同架することにしました。結果的には、これ以外にも私とオーナー2が所有する鏡筒がいろいろ集まって、副鏡は選り取りみどり状態になりました。









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