斑忠義インタビュー
本公演パンフレットより抜粋

世の中で言う、侵略側と侵略された側という構図がいつもあって、人間はそのような一枚の壁で分けられているというところがある。(中国残留婦人の)曾おばさんのことを書いたときも、「なぜ、加害者側の女性に同情するのか」というのが、自分のなかにもあった。でも、人間を見るか、人間の集団を見るのか。私たちはあくまで人間という視点でみることを自然におくべきだと思うんですよ。何の負い目もなく、大々的に表現すべきだと思うんですよ。
(略)
私が大学のとき、1978、79年、中国も共産党の世界のなかで、間違ったら言論統制があるので、批判される。そのようなときに「曾おばさんの海」を書いたんです。そのとき、すごく恐かった。つまり、私の「立場」「アイデンティティ」はどこにあるのか。「こういう人のことを書いていいのか」と。
大学の教授、指導者に「私は、これを日本に投稿したい」と言うと、大学教授は「やめた方がいいです。外国、しかも加害の国の日本がかかわる。つまり、安全のためにやめなさい」と。でも、彼女は普通の人間だ、優しい人間だ、尊敬する人間だと思い、投稿したんですね。
(略)
日本でもね、「なんだ、お前は日本の残留ものばかりやって」と変に見られる。慰安婦問題のときも、「なぜ、慰安婦問題をやるのか」と、差別される。否定されるという目にあう。でも、徐々に認識される。世の中の人の目も、そのときはそのレベル。私たちが、人間中心のレベルで見るのは人道主義で、やはり勝つ。だんだん周りの人を変えるというのが、私たちの仕事じゃないかと思うんですね。
日本でも、中国でも、埋もれた、捨てられた歴史、大事な歴史ね。大事な存在。

班忠義 Ban Zhongyi [映画監督]
1958年、中国・遼寧省撫順市出身。82年黒龍江大学卒業。上智大学大学院、東京大学大学院研究生を経る。82年『曽おばさんの海』(第七回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞受賞)96年『近くて遠い祖国』(ゆまに書房)。
99年、ドキュメンタリー映画『チョンおばさんのクニ』(シグロ製作)を初監督。
06年9月「ガイサンシー《蓋山西》とその姉妹たち」(梨の木舎)出版。
07年ドキュメンタリー映画『ガイサンシーとその姉妹たち』(シグロ製作)公開。