高史明 岡百合子 インタビュー |
高 一番最初の出発点は、自分たちの子どもがあまりにも早く死んじゃってね。この子のために、こういう子もいたということを、ひとりでも知ってほしい、そういう感情があったんですね。だから、香典返しのように自費出版して、こういう子でしたと。彼の残したものは。詩の手帳ぐらいなものでしたからね。あとは、ほとんどなにもやらないうちに死んじゃったからね。 * 岡 息子が生きていれば、いま45歳ですけどね。いまのような世の中で、まともにいくタイプじゃないから、何をやっていたかしらと思いますね、ほんと。 * 高 われわれ二人が話をして、あの子はいつも聞き役なんだ。だから、すごく背伸びを自然にしてね。そうでないと、自分が話のなかに入れないからね。 岡 ときどき怒鳴ってたわね。「ねずみだ!」って。 高 自分の存在を認めろって、怒ってた。こっちはね、二人とも頭に血がのぼってるから、一生懸命話してるけど、あの子はいつもお客さんになって。だから、ものすごく背伸びしてたんだ。 岡 身体性がなくて、アンバランスだったんでしょうね。 * 高 悲しみというのはね、心が割れるというのはね、仏教の場合では、「慈しみ」にこの字をつける。これは、増やしていくという意味なんですよ。心が割れてどうにもならなかったのと、生んで増やしていくという字がひとつにならないと、仏教にならない。 |
高 史明 Ko Samyong [作家] 岡 百合子 Oka Yuriko |