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  ダイオキシンってなあに?   

                 

ダイオキシンパンフレット

●環境庁環境保健部環境安全課及び環境リスク評価室
   郵便番号100-8975東京都千代田区霞ヶ関1ー2ー2
  TEL 03-3581-3351(内線6343)FAX 03-3581-3578
    E-mail ehs@eanet.go.jp

●環境庁のホームページでもダイオキシンの情報が
  ご覧になれます。
        http://www.eic.or.jp


 目 次

1 ダイオキシンってなあに?
(1)ダイオキシンとはなんですか。
(2)ダイオキシンにはどんな性質があるのですか。
(3)ダイオキシンはどこで発生するのですか。

2 ダイオキシンにはどんな問題があるの?
(1)ダイオキシンの毒の強さはどのくらいですか。
(2)ダイオキシンはがんを起こすのですか。
(3)ダイオキシンは赤ちゃんの奇形を起こすのですか。
(4)ダイオキシンには他にどんな影響があるのですか。

3 ダイオキシンはどのくらい環境を汚染しているの?
(1)私たちの環境はどのくらいダイオキシンに汚染されているのですか。
(2)私たちは毎日どのくらいダイオキシンを体に取り込んでいるのですか。
(3)ダイオキシンはどんな食べ物に含まれているのですか。
(4)体に入ったダイオキシンはどうなるのですか。
(5)私たちが毎日体に取り込んでいるダイオキシンの量は、危ない量なのですか。
(6)母乳は大丈夫なのですか。
(7)ダイオキシンは野生生物に影響を与えているのですか。

4 ダイオキシンにはどんな対策が行われているの?
(1)ダイオキシンを減らすためにどのような対策がとられていますか。
(2)ダイオキシンを減らすために、一人ひとりができる対策はありますか。
(3)ダイオキシン対策のために、塩素を含むプラスチック製品の使用を控えたほうがよいのでしょうか。一人ひとりができる対策はありますか。
(4)ダイオキシン対策のためにはたき火やどんど焼きなどもやめないといけないのですか。


 

はじめに

 良い環境は私たちの生活にとって、とても大切なものです。近年、環境を汚染して、人や動植物にも影響を及ぼすかも知れないということで、ダイオキシンが注目されています。
 ダイオキシンについては、これまでにも科学者やジャーナリスト、行政機関などによって様々な観点から語られています。しかし、多くの人々が色々な不安や疑問を抱いているのではないでしょうか。
このパンフレットは、そのような疑問に答えるために作成したものです。ダイオキシンについてのたくさんの複雑な情報を、できるだけ分かりやすく説明するように試みました。
 この冊子が、皆様がダイオキシンについての理解を深めるための手助けとなることを願っています。
 なお、このパンフレットは、今後、皆様からのご意見をもとに内容を充実させていきたいと考えています。感想やご意見をお寄せいただければ幸いです。
 

                                                                                        

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1.ダイオキシンってなあに?

(1)ダイオキシンとはなんですか。

 ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)をまとめてダイオキシン類と呼んでいます(この冊子ではこれを「ダイオキシン」と呼びます)。
 図1にどんな形の化合物であるかを示しました。1〜4と6〜9の位置に塩素の付いたものがダイオキシンです。塩素の数や付く位置によっても形が変わるので、PCDDは75種類、PCDFは135種類もの仲間があります。
 これらは毒性の強さがそれぞれ異なっており、2と3と7と8の位置に塩素が付いたもの(2, 3, 7, 8-TCDD)がダイオキシンの仲間の中で最も毒性が強いことが知られています。
 ダイオキシンの種類によって毒性が大きく異なるので、毒性を評価するときには、2, 3, 7, 8-TCDDの毒性を1として、他のダイオキシンの毒性の強さを換算して評価します。この場合にはTEQという単位が使われます。

図1 ダイオキシンの構造式

 

(2)ダイオキシンにはどんな性質があるのですか。

 ダイオキシンは、無色無臭の固体で、ほとんど水には溶けませんが、脂肪などには溶けやすいという性質を持っています。また、ダイオキシンは他の化学物質や酸、アルカリとは容易に反応しない安定した性質をもっていますが、太陽からの紫外線で徐々に分解されることがわかっています。

(3) ダイオキシンはどこで発生するのですか。

 ダイオキシンは、意図的に作られることはありません。しかし、炭素・酸素・水素・塩素が熱せられるような工程で、意図せずにできてしまうのです。
 ダイオキシンの主な発生源は、ごみの焼却による燃焼工程等の他、金属精錬の燃焼工程や紙などの塩素漂白工程など、様々なところで発生します。
 わが国全体では、ダイオキシンは1年間に約5,140〜5,300gが環境中に排出されていると試算されています(表1)。
 また、ダイオキシンは、自然界でも発生することがあり、例えば、森林火災、火山活動などでも生じます。なお、何種類かのダイオキシンは、かなり以前から環境中に存在していたという報告があり、少なくとも1800年代にはダイオキシンが環境中に存在していたことが明らかになっています。
 ダイオキシンの発生源はまだ他にもあるかもしれません。今後さらにダイオキシンの発生源を明らかにしていくことが重要です。

表1 我が国における発生源別ダイオキシン発生量 (g-TEQ/年)

                                                                                    

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2.ダイオキシンにはどんな問題があるの?

(1)ダイオキシンの毒の強さはどのくらいですか。

 ダイオキシンには多くの仲間がありますが、その中で最も毒性の強い 2, 3, 7, 8-TCDDを用いて動物実験が行われており、強い急性毒性があることがわかっています。
 ダイオキシンは「地上最強の猛毒」と言われることがありますが、天然の毒物には、ボツリヌス菌や破傷風菌の毒素などといったダイオキシンよりも強い毒性を持ったものがあります。ただし人工物質としては、最も強い毒性をもつ物質と言えます(図2)。
 急性毒性については、動物の種類による影響の差が大きいことが知られています。最もダイオキシンに敏感な動物はモルモットで、一方、ハムスターに対する毒性はその8千分の1程度です。

図2 いろいろな猛毒性物質

(2)ダイオキシンはがんを起こすのですか。

 WHO(世界保健機構)の国際がん研究機関(IARC)では、動物実験や人への影響の評価をもとに化学物質の人への発がん性の強さを分類していますが、平成9年2月、ダイオキシンの中でも最も毒性が強い2, 3, 7, 8-TCDDは、人に対する発がん性があるという評価を行なっています。
 しかし、現在のわが国の通常の環境の汚染レベルではダイオキシンにより、がんになるほどではないと考えられています。

(3)ダイオキシンは赤ちゃんの奇形を起こすのですか。

 妊娠中の動物実験(ねずみなど)にダイオキシンを与える実験で、口蓋裂、水腎症などの奇形を起こすことがわかっています。
 人については、ベトナム戦争帰還兵の子供の脊椎の奇形について、ダイオキシンと関連があるのでは、との報告もありますが、まだ不明な点が多いようです。
 しかし、現在のわが国の通常の環境の汚染レベルではダイオキシンにより奇形が生ずるほどではないと考えられています。

(4)ダイオキシンには他にどのような影響があるのですか。

 動物実験において、ダイオキシンは体内のホルモンと似たような働きをすることにより、甲状腺機能が低下したり、生殖器官が小さくなったり精子数が減ったり、また免疫機能が低下したりすることが報告されています。
 ただし、人に対しても同じような影響があるのかどうかについては、まだよくわかっていません。

                                                                                       

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3.ダイオキシンにはどんな問題があるの?

(1) 私たちの環境はどのくらいダイオキシンに汚染されているのですか。

 ダイオキシンは、廃棄物の焼却炉など、物を燃やすところから主に発生し、大気中に出ていきます。大気中の粒子などにくっついたダイオキシンは、土壌に落ちてきたり、川に落ちてきたりして土壌や水を汚染します。さらにプランクトンや魚に食物連鎖も通して取り込まれていくことで、生物にも蓄積されていくと考えられています。
 わが国の大都市地域の大気中のダイオキシン濃度は平成8年度の環境庁調査では0.3〜1.65pg/m3程度です。(1pg/m3とは、1立方メートルの空気中に1兆分の1gのダイオキシンがあることを意味します。)欧米の都市地域では0 . 1pg/m3程度ですので、日本の都市はこれと比べればかなり高いと言えます。
 環境庁では、海、湖、川の底質、生物についてもこの10年間毎年調査をしていますが、ダイオキシン濃度に大きな変化は認められません。環境中から広範囲に検出されているので、引き続き調査をしていくことにしています。

(2) 私たちは毎日どのくらいのダイオキシンを体内に取り込んでいるのですか。

 日本人の一般的な生活環境で取り込まれるダイオキシンの量は、1日に体重1kg当たり0.52〜3.53pgと推定されています。(体重50kgの人なら約26〜177pgを体内に取り込んでいることになります。)数値にこれだけの幅があるのは、毎日食べている食品中の濃度に関するデータに大きいものと小さいものといろいろ差があるからです。
 食物からの取り込みは0.26〜3.26pgと推定されており、体内への取り込み量の大部分を占めています。その他では、呼吸により空気から取り込む量が0.18pg、土が手についたりして取り込まれる量が0.084pg、飲み水からが0.001pgと推定されています。

(3)ダイオキシンはどんな食べ物に含まれているのですか。

 ダイオキシンは脂肪に溶けやすいので、脂肪分の多い魚、肉、乳製品、卵などに含まれやすくなっています。食生活の違いから、わが国では魚から、欧米では肉などからの取り込み量が多くなっています。いずれの国でも、体への取り込み量の7〜9割程度は魚、肉、乳製品、卵に由来しているようです。
 野菜については、根から水を吸い上げることによってダイオキシンを濃縮することはあまり考えられないとされています。また、魚、肉などに比べれば、野菜から取り込まれるダイオキシンの比率は低いものと考えられます。
 人へのダイオキシンの取り込みは、食習慣により異なってきます。米国環境保護庁は、「バランスのとれた栄養のある食事の利点は、それによるダイオキシンのリスクを補って余りあるということは強調されるべきである」とコメントしています。

(4)体に入ったダイオキシンはどうなるのですか。

 ダイオキシンがひとたび体に入ると、その大部分は脂肪に蓄積されて体にとどまります。ごくわずかな量が、分解されたりして体の外に排出されますが、その速度は非常に遅く、人間の場合は半分の量になるのに約7年かかるとされています。 

(5)私たちが毎日体に取り込んでいるダイオキシンの量は、規制をしなければいけないほど危ない量なのですか。

 都市地域での一般的な生活環境での取り込み量は最大で3.53pg/kg体重/日 程度ですが、もう少したくさん取り込む可能性のある条件(すなわち、魚をふつうの2倍程度食べる場合や、ゴミ焼却施設周辺で最も悪い条件を想定した場合)では、最大5.28あるいは5.09pg/kg体重/日と推定され、健康リスク評価指針値の5pg/kg体重/日を超える可能性があることがわかりました。この指針値は、これを超えたらすぐに危険というような値ではありませんが、ダイオキシンの主な発生源である廃棄物焼却炉などへの対策を講じ、排出量を大幅に下げることによって、健康影響が起こることを未然に防ぐことにしました。

(6)母乳は大丈夫なのですか。

 わが国における母乳中のダイオキシン濃度は、データは十分とは言えませんが、福岡で採取された24pg/g脂肪(母乳中の脂肪分1gに対するダイオキシン含有量)などのデータから、他の先進国とほぼ同じくらいであると考えられています。

 WHOなどは、「母乳中にはダイオキシンやPCBが含まれているが、母乳栄養には乳幼児の健康と発育に関する利点を示す明確な根拠があることから、母乳栄養を奨励し推進すべきである」としています。

(7)ダイオキシンは野生生物に影響を与えているのですか。

 野生生物の病気や生息数の減少などの現象を、ダイオキシンと結びつけることはなかなか困難です。なぜなら野生生物は、ダイオキシンだけでなく様々な化学物質にさらされている上、その他の様々な要因(生息地の消失や人間活動の影響)が影響しているかもしれないからです。
 しかし、ダイオキシン、PCB、DDTなどの有機塩素化合物といわれる物質と、は虫類や鳥類の卵の孵化率に相関が見られたとの研究報告もあり、今後の研究が進むことが期待されています。環境庁では、野生生物のダイオキシンの汚染状況の調査を始めました。

■ダイオキシンの健康リスク評価指針値

 環境庁が学識者に委嘱した検討会は、人の健康を保護するために維持されることが望ましい水準として、ダイオキシンの健康リスク評価指針値を5pg/kg体重/日と設定しました。これは、許容限度ではなく、対策をとるための目安として、より積極的に維持されることが望ましい水準を決めたものです。(体重50kgの人ならば、1日の取り込み量が5×50=250pg以下になるように対策をとっていこうということになります。)
 5pg/kg体重/日という値は、主に以下の考え方で決められました。 ネズミを使った発がん試験で影響の出なかったレベルが1000pg/kg 体重/日 でした。これに、ネズミと人との差についての安全係数を10、人の個体差についての安全係数を10として、10pg/kg体重/日が出ます。これにサルを用いた実験結果を考慮して更に倍の安全率をみると、5pg/ kg体重/日となります。
 なお、欧州諸国のダイオキシンの一日当たりの摂取の基準値は、5〜10pg/kg体重/日で、一部の国では1pg/kg体重/日が提案されています。

 

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4.ダイオキシンにはどんな対策が行われているの?

(1)ダイオキシンを減らすためにどのような対策がとられていますか。

 わが国では、ダイオキシンの約9割が身の回りのごみや産業廃棄物を焼却する時に出ると言われています。そこで、平成9年12月から、大気汚染防止法や廃棄物処理法によって、焼却施設の煙突などから出るダイオキシンの対策を開始しました。

 また、ダイオキシンは他にも様々な発生源から排出されると言われているので、今後もどのようなところからどれだけ発生するかを調査して、対策を進めることにしています。

■大気汚染防止法に基づく措置 ダイオキシンは今まで「大気汚染防止法」上の規制対象物質に指定されていませんでしたが、その施行令が改正(H9.8.29公布、H9.12.1施行)され、法的な措置がとられることとなりました。これを受けて、ダイオキシンの指定物質抑制基準等が定められました。また、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)の施行令等も改正され、連携した排出抑制対策がすすめられています。

(2)ダイオキシンを減らすため、塩素を含むプラスチック製品の使用を控えた方がよいのでしょうか。一人ひとりができる対策はありますか。

 ダイオキシンは塩素が存在する状態で有機物を燃焼させたときなどに発生しますがダイオキシンの発生の詳しいメカニズムは、まだよくわかっていません。たばこの煙などからもダイオキシンが検出されており、いろいろなものを燃やした時に発生すると考えられます。
 ごみを焼却する際に、ごみに含まれるプラスチックが減少するとダイオキシンの発生量が抑制されるかどうかについては、現在のところ、減少するという研究結果と変わらないという研究結果の両方があって定かなことは言えません。ただし、ごみの量が減れば、ダイオキシンの発生量が減るので、塩化ビニル製品を含めて、ものを大切に長く使うことやごみの分別・リサイクルを進めていくことなどにより、ごみの発生量を減らすことが重要です。
 また、ダイオキシンは不完全燃焼によって発生しやすくなることが知られていますので、ごみを焼却する場合には、高温での焼却、排ガスの適正な処理ができる設備の整った焼却施設で処理することが望ましいと考えられます。

(3)ダイオキシン対策のためにはたき火やどんど焼きなどもやめないといけないのでしょうか。

 わが国は諸外国に比べてごみを埋め立てるのではなく、焼却する割合が高く、1年間で約4,000万トンのごみを焼却しています。このため、ごみの焼却に由来するダイオキシンの発生量が多いと考えられており、産業廃棄物も含めるとその割合は、現在わかっている発生源から1年間に発生する約5kgのダイオキシンの大部分の約9割を占めると推定されています。
 たき火やどんど焼き等については、一時的に小さい規模でものを燃やすことが多いことから、環境上の影響は極めて小さいものと考えられます。しかしながら環境庁では、皆様に正確な情報を提供するという観点から技術的に難しいところはありますが、たき火等が環境に及ぼす影響についても調査検討を行うこととしています。