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 今年はことのほか忙しくて、採集に出掛けることすら侭ならなか
った。秋の採集こそはと意気込んだものの、コブ叩きもセンチ採集
も出来ずに秋を終えようとしている。如何ともし難い状況ではある
が、ほんの少し山を散策するくらいはいいだろう。


 さてさて、ほんの少しの散策のつもりだったが、もやもやとどうせ
行くならと言う気持ちが湧いてきて、結局は腰にナイフをぶら下げ
て林道を歩いていたするのでる。ほんの少しと言うには、少々時
間も掛かる場所を選択していたりもする。まぁ虫屋の性分と言うか
何と言うか”どうせなら・・”で何だかんだとしっかりと採集の身支
度を整えてしまうのである。行くと決めたからには、何にか手にし
て帰りたいのも虫屋の性分なのである。

 この時期は毎年コルリの材採集をしているのだが、ふと地元産
のマダラクワガタが未採集なことを思い出した。やはり地元のクワ
ガタはなんとしても制覇しておきたい。今までは特定の産地に拘
って採集してきたのだが、ここまで自分が芋とあっては、最早拘り
もクソもないのである。とりあえず採集記録の多いポイントを探る
ことにした。もし、このポイントで採集できなかったとあれば、本県
でのマダラクワガタの採集は私には到底不可能なことだろう。
 夏にここを訪れたとき、ルリクワガタとツヤハダクワガタの目ぼし
い材を幾つか見付けておいた。今回はルリには極力目をくれず、
ひたすら赤茶けた材を探すことに専念しようと思った。私の頭の中
は、既にマダラマダラしているのだが、いい感じの立ち枯れを目に
しては、ついつい立ち止まってしまう。
 今回も同行してくれた岩崎さんは、ルリをターゲットにしているよ
うなので、そちらは彼に任せるとして私はひたすら下を向いて歩
いた。
 夏に見付けておいた材は、どうやらツヤハダ材のようだが、なん
だかもう既に蛻(もぬけ)の殻状態で、縦横無尽に張り巡らされた
食痕は、今ではすっかりムカデの住まいになっていたりする。大
抵の場合、多少なりとも幼虫が残っているのだが、この材はすっ
かり食い尽くされてしまっているようだ。ツヤハダのこの材での仕
事は終わっているようである。 
 ツヤハダクワガタとマダラクワガタは比較的棲息環境が似てい
る。と言うよりまったく同じと言ってよいだろう。なんて採ったことも
ない私が言うと、いまいち真実味に欠けるが、ものの本にはそう
記されている。私は極力活字には騙されまいと幾分斜に構えてい
るところがあるのだが、ここは一先ず、活字に躍らされてみようか
と思う。 


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