「うーん…」
商店街の雑貨店。
所狭しと並べられた商品の数々を見つめながら、オレは小さな唸り声をあげた。


──むぅ…。ヒバリさんのプレゼント…何がいいんだろう…。


ふらふらと歩きまわって、あれこれ物色して。
これなんかヒバリさんに似合いそうだなぁ、なんて思って眺めてた腕時計はとてもじゃな
いけどオレのお小遣いじゃ手が出ないし…。
風紀の仕事でよく書類作ってたりするし、万年筆なんかもいいかなぁ、と思って探してみ
れば、これまた想像以上に高価なもので。
もう少しお手軽なものを、と思って可愛らしい雑貨の置かれたフロアに来ては見たけれど、
どれもこれもヒバリさんには可愛すぎてしまって。


──あ! これなんかいいかも…?


色とりどりの雑貨の中に、少し大きめのマグカップを見つけて、そっと手に取って見る。
ヒバリさんの瞳と同じ黒を基調にしたシンプルなマグカップ。
何となくヒバリさんに似合いそうなそれを持って、思わず微笑んで。
けれど…。


──ヒバリさんなら、マグカップよりもティーカップかなぁ?


「…うん。そうしよう!」
コトリ、と手にしていたカップを戻して、オレは逸る気持ちを押さえて茶器が置いてある
コーナーに足を向けた。





ほしいもの ひとつだけ。






いそいそとお気に入りの服に着替えて、鏡の前でチェックして。
おかしなところがないことを確認したオレは、ほぅ、と安堵の溜息を零した。
「これでよし、と。あとは…」
そうして、トコトコと歩いて机の上に置かれている小さな紙袋を手に取った。
そっと持ち上げて、がさがさと音を立てながら中を覗き込んで、綺麗にラッピングされた
箱を確認する。
あれこれ悩んで数日前にようやく買ってきたプレゼント。
可愛くなりすぎないように、とシンプルな包装紙とシックな色合いのリボンをかけて貰っ
たそれを見つめて、ふわりと笑みを浮かべる。
ここ数日の間、机の上に大切に置いておいたそれを眺めては、渡した時のヒバリさんの顔
を想像して、思わずにやけてしまって。
さんざんリボーンに気味悪がられて。
けれど、そんなことはどうでもよくなるくらい、プレゼントを渡す瞬間が待ち遠しかった。


──ヒバリさん、喜んでくれるといいなぁ…。


そんな事を考えて、ふふ、と思わず笑みを零したオレを現実に引き戻すように、セットし
ておいた携帯のアラームが時間を知らせてきた。
「やばっ! もう行かなきゃ!!」
電子音を鳴らし続ける携帯のボタンを押して、慌ててアラームを止めて。
プレゼントの入った紙袋を手にして、携帯と財布をポケットに突っ込んだオレは、最後に
もう一度だけ鏡の前で自分の格好をチェックして、小さく頷いてから部屋を飛び出した。
いつもいつも学校に遅刻して怒られているけれど、今日だけは遅刻するわけにはいかない。
なぜならば。


──ヒバリさんの誕生日だしっ!!


その誕生日に待ち合わせてのデートとなったら、いくら普段はダメツナって言われてるオ
レでも気合を入れないわけにはいかないじゃないか。
だから。
今日はいつもより早く起きるように目覚ましをセットして、母さんにも起こしてくれるよ
うに頼んでおいて。


──よかった…。これなら遅刻しないで済みそうだ…。


内心でほっとしながら、バタバタと階段を駆け下りていくと、その音に驚いたのか、母さ
んがリビングからひょっこりと顔をだして、駆け下りていくオレを見て一瞬だけ目を見開
いて。
けれど、すぐににっこりと優しい微笑みを浮かべて声をかけてきた。
「あら、つー君。もうでかけるの? 気をつけて行って来なさいね〜?」
「はーい!」
リビングの前を駆け抜けながら叫ぶように返事を返して靴を履くために玄関先にしゃがみ
込んでいると、母さんの後ろから飴を手にしたままのランボが顔を出して、トコトコとオ
レのほうに近づいてきた。
「あらら? ツナ、どっかいくの?」
「そう! だから今日はランボと遊んでられないの!」
そう言って、すぐ後ろまで来ているランボに勢いよく振り向いて。
「だから、今日はおとなしくしてろよ!?」
絶対邪魔するなよ、と少しだけすごんでみせると、分かっているのかいないのか、『ラン
ボさんはいつでもいい子だもんね!』と言って、えっへんと胸を張っている。


──ほんとにわかってんのかな…。


調子のいいランボの様子に、微かな不安を感じつつ、軽く溜息を吐きだして。
きゅっと靴ひもをきつく結んだ。
そうして。
「それじゃ、いってきまーす!」
リビングにいるはずの母さんに向かって大きな声でそう告げて。
オレは、良く晴れた大空の下に飛び出した。










はぁはぁと息を弾ませて待ち合わせ場所へと駆けて行く。


──あああもうっ。このままじゃ遅刻だよ!!


体力がないながらも、必死に足を動かして。
時折、携帯のデジタル時計を確認して。
こうして走るハメになった原因をぼんやりと思い浮かべた。


──なんでこう言う大切な日に限って邪魔が入るんだろう…。


確か最初はビアンキだったな、とロングヘアの美女を思い浮かべて溜息を吐きだした。






ちゃんと時間に間に合うように家を出たのに、家を出ると後ろからビアンキに呼び止めら
れて。
プレゼントなら手料理に限るわよ、といいながら怪しげな匂いを漂わせたクッキーらしき
ものを目の前に突きつけられた。
確かに手料理はいいアイデアかもしれないけれど、オレにそんなものできるわけもなく。


──ていうかそれポイズンクッキングじゃん!


そんなものを雲雀さんに渡すことなんてできないし、何より持ち歩くだけでおれがどうに
かなりそうだし…。
クッキー片手ににっこりと笑っているビアンキには悪いけれど、思わずひきつったような
笑みを浮かべてしまった。
そうして。
「い…いいよ。プレゼントはちゃんと買ったし!」
そう言って、ぱたぱたと手を振って。
愛想笑いを浮かべながら、じりじりとビアンキから離れなれて。
遅れちゃうから行くね、と言い訳をして、脱兎のごとく逃げ出した。
駆けだしたオレをビアンキが呼びとめたような気がしなくもないけれど、そんなことに構
ってはいられない。


──早くしないと遅刻しちゃうし!


後ろを気にしながら角を曲がり、家の門が見えなくなったところで足を止めてほっと息を
吐きだして。
ビアンキが追ってこないことを確認して、気を取り直して再び歩き始めたら、今度は聞き
なれた、けれど、絶対に聞きたくなかった笑い声が聞こえてきた。
「…まさか…」
そう。
まさか、だ。
ごくり、と唾を飲み込んで、恐々と後ろを振り返ると、巨大なバズーカを担いで走ってく
る小さな影を発見する。
「がははははは! ランボさん登場!」
トテトテと走り寄って、オレのすぐそばでぴたりと停止したかと思うと、バズーカを担い
だまま、片手を腰に当ててポーズを決めて。
高らかに笑い声をあげるランボにげんなりとした視線を向けて…。
「………はぁ………」
思いっきり溜息を吐きだした。





-continues-


雲雀さんのハピバ小説を書き始めたのはいいのですが、うっかり長くなったうえに、時間がなくて(泣)
UPじたいもかなり遅くなってしまいましたし、続きものだったりするのが痛いところですが…。
こんなのでも、雲雀さんをお祝いしたいという思いだけは詰まってますので!
どうぞ気長にお待ちいただけると幸いです…(泣)

2009.5.18

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