右手くん
作成日2006/02/28

生き物は脳をもっています。
脳からの命令により、身体が動き、言葉を発し、物を食べ、汗を出します。
それは自分で考えて発動するものもあれば、
考えもしていないのに発動するものもあります。

人の身体は1兆を超える細胞から成り立ち、
それらが全て微弱な電気信号により作用し、アクションを起こします。
電気信号は脳から流れ出てくるもので、全ての行動は脳や脊髄が主体となるというのが現在の理念です。

では脳以外には意識を持つものはないのでしょうか?


とりあえず、右手に意識があるのかを試してみました。
「やあ右手くん、右手くん」
僕は右手に向けて言葉をかけます。
しかし右手は何も反応を起こしません。

悔しいので揺さぶってみました。
ゆさゆさゆさ・・・。
動かしたとおりに手首が動きまわるだけで、
右手は何も反応を起こしません。

さらに悔しくなったので
僕は右手の親指と、その他の4本指をパカパカと上下に動かし、
「なんだい?カンガルーくん」
言葉を返してみました。

しかしこれは脳が『悔しい』と思ったからのアクションであり、
さらに言葉を発しているのは僕の口であり、
右手は自発的に行動しているわけではありません。

やはり自分の身体の部位である、右手は意思を持たないのでしょうか。


…いや、まてよ。

ふと思いました。
右手くんはこの20年間、僕に奴隷のように扱われておりました。
熱い物や冷たいもの、尖ったりして痛いもの、臭かったり汚いものなどを触らせられ、苦痛に顔をゆがめていたのではないでしょうか。
そんな僕に対して、彼が僕に反応を示してくれないのは当たり前です。
僕が右手であったならば、こんな飼い主から逃げ出し、優しい優しいご主人様の右手になりたいでしょう。

今までひどいことを…。
自分の身体の一部だからといって、
なぜこんなことに気がつかなかったのでしょう。
思えば右手くんの名前すら知りません。


僕はある仮説を立てました。
『右手は意識を持たないのではなく、塞ぎ込んでいる』
と、

もし右手くんの心を開くことができれば、
彼は僕に意識があることを見せ、仲良く会話することができるかもしれません。

なのでとりあえず、
今までしてきたことを、右手くんに、心を込めて謝ってみることにしました。

「ごめん…」


「………」


「本当にごめん……」


「………」


「………」


「………」

僕の誠意ある謝罪に対しても、右手くんは無反応。
まぁ20年間の苦行は謝罪一言で救われるものではないと僕も理解しております。
あきらめずに問いかけ続けます。

「なぁ右手くん元気?」

「下に垂れ下がってるときと、上に上がってるときどっちが好き?」

「ま、マッサージしようか?」

「好きな子いる?」


「………」


無反応です。


「なんとか言えってば!」

ガッ!!!

「うあ痛っ!いたたたたたた…」
あまりにも反応がない右手くんに怒って殴りつけてしまったわけですが、
いたいのは僕です。なんて不条理な。

とりあえずこんなに誠意を見せても右手は反応しません。
僕の仮説は外れていたようです。


…しかし右手にもきっと意思があります。

もう一個仮説を立ててみました。
それは、意識はあり塞ぎ込んでいる分けでもないけれども、
『声が僕に届かない』というものです。

ブリーチという漫画にこのようなセリフがあります。

悲しいことだ…
 いったい幾度声を嗄らせば私の声はお前に届く?
 お前以上に私を知るものなど
 この世の何処にも居はしないのに!

 (コミックス8巻参照)


なるほど。
そういうことだったんですね。

右手くんは必死に僕に声をかけていてくれたんですね。
しかも声をからすほど…。
ごめんね聞いてあげられなくて、

そんな風に思うと、右手くんがいたたまれなくなって、
僕は右手くんにキスをしていました。

「ちゅ〜…」


「ごはんよー…え?……」

バタン…。


親に見られました。

バカッ!右手のバカッ!!○○○!!(みさくらなんこつ)