kisses
階下の食堂での馬鹿騒ぎが漸くお開きになって、八戒が自室に戻って来たのは間もなく日付けが変わる頃、
だった。
「……よいしょ、っと」
腕の中に抱きかかえてきた、真っ白な法衣に身を包んだ可愛いひとを窓際のベッドにそっと降ろす。
すっかり酔い潰れて、眠ってしまった彼の金糸の髪を指で梳きながら、余りにも無防備な寝顔を見下ろして、
八戒は思わず苦笑する。
「幾ら久々だからって、だいぶ呑ませ過ぎちゃったな…」
途中でやっぱりストップを掛けるべきだったかな、とちょっと後悔していると。
―八戒はふと、紫暗の瞳がぼんやりと開かれているのに気が付いた。
「…大丈夫ですか?気分は?」
ベッドの脇に立ったまま少し身を屈めてそう、尋ねると、ゆっくり白い腕が持ち上がり、指で八戒を手招く仕草を
する。
「…何ですか、三蔵……?」
具合でも悪いのか、とつい心配になって、ベッドカバーの上に仰向けになっている三蔵の傍に躯を寄せるように、
ベッドサイドに跪いた途端。
八戒の襟首をいきなり三蔵の指が掴んでぐい、と引き寄せられたのだ。
そして、気が付けば唇を乱暴に奪われていた。
―それは、ほんの短い時間でのキス、だったのだが。
いつもは冷たい三蔵の唇は何故か妙に熱くて、八戒は迂闊にも動揺してしまっていたのだった。
不意打ちのキスを終えた三蔵は、満足そうな笑みをうっすらと唇に浮かべて、再び深い眠りに落ちてしまった。
すっかり固まってしまった八戒は、暫し、その綺麗な愛しい恋人の顔を見つめる。
完全な敗北を味わいながら、彼はやがて静かに立ち上がり、溜め息を吐いた。
「初めてですよね、貴方からキスなんてして貰うのは。嬉しいですけど、こんな誕生日のプレゼント、なんて。
…反則ですよ?」
八戒の表情は、殆ど泣き笑いのような、何とも言えぬ状態になっている。
目の前でぐっすりと寝入ってしまっている三蔵を、起こさないように丁寧に扱ってきちんとシーツの間に
入れてやって。
今にも彼を襲ってしまいそうな自分を叱咤しつつ、八戒はそっと、バスルームのドアの中に消えていったのだった。
【フェイド・アウト。】