おくりもの
―それは、僕が三蔵と膚を合わせるようになって、まだ間もない頃。
秋も深まりもうすぐ冬も間近で、一段と冷え込む夜の宿屋の一室で、僕と三蔵は二人きりで居たのだった。
時刻は深夜に差し掛かっていて、お互いにぎこちない雰囲気のまま、それでも何とか甘いムードを作る事に成功した僕は、
そっと三蔵を抱き寄せてベッドに座らせながら、さてどうやって彼に口付けたものだろうか、と躊躇する。
その時、何とはなしに浮かんできた事を、僕の口は自然に三蔵に問うていた。
「…そう言えば、三蔵。貴方のお誕生日って、いつなんですか?」
「―誕生日…?」
唐突な僕の質問に一瞬、きょとんとした三蔵だったが、それでも律儀に小さな声で答えてくれた。
「一応、11月29日…、……だ。お師匠様に拾って頂いた日だから、本当の誕生日、って訳じゃねえが」
「…そうなんですか……、って、…それ、今日じゃないですか!!?」
僕は不意に判明したその事実に、つい大慌てしてしまっていた。
「もっと早く判っていたら、ちゃんとお祝い出来たのに!」
三蔵は、目の前であたふたしている僕の事を苦笑して、めでたいかどうかも微妙なんだし別に気にするな、とやんわりと
取り成そうとする。
「でも!やっぱりお誕生日にはケーキを焼いて、それにちゃんとしたプレゼントだって貴方に差し上げたいですよ…!」
軽く憤慨する僕に両手をしっかりと握られながら、三蔵は思わず呆気に取られていた、様子だった。
「あ、…そうだ」
僕はふと思い出して、自分の荷物の入った袋を探る。
程なく見付けた、小さな紙の包みに入った『それ』を取り出すと、三蔵の掌にぽん、と載せる。
「…何も用意出来なくてごめんなさい、三蔵。プレゼント、こんな物で宜しかったら受け取って頂けますか……?」
三蔵は僕を見上げて、両手の中の包みを静かに開けると、そこには。
「金平糖…?」
小さな可愛らしい、色とりどりの小さな砂糖菓子が、彼の手の中でふわりと、甘い香りを漂わせていた。
「ええ。昼間チェックインの時に、この宿の女将さんに頂いたんです。お茶うけにどうぞ、って。悟空に見せると
全部食べられちゃいそうだったので、こっそり隠しておいたのを忘れてました」
僕の言葉を聴きながら、三蔵の細い指が包みの中から薄桃色の一粒を摘み上げ、そうっと唇を開いてそれを口の中に
入れている。
「……甘い、な。懐かしい味がする。昔、ガキの頃にお師匠様に頂いた事があるな」
心なしか、三蔵の表情が和らいだのに思わず僕の心臓がどきん、と大きく跳ねた。
―どうして、この人はこんなに綺麗なんだろう。
気が付くと、僕は三蔵を腕の中に閉じ込め、艶やかな唇に自分の唇を重ねていたのだった。
「……貴方の唇、今夜は一段と甘いですね」
「馬鹿…、当たり前だろうが。砂糖舐めてるのと一緒なんだからな」
「じゃあ、僕にもお裾分けして下さい。二人で甘くなりましょう…?」
改めて三蔵をゆっくりとベッドカバーの上に押し倒して、僕は自らの唇にも金平糖を咥えつつ、再びキスをした。
―三蔵の、匂い立つような躯に丁寧に触れながら、僕達はそうして、甘い甘い夜をしっとりと、過ごしたのだった…。
【フェイド・アウト。】