NOVEL2 いつか喜びの城へ 1 |
−−コズミック・イラ71年 9月27日 血のバレンタインの悲劇から始まった、プラント・地球間の19ヶ月に渡った戦争は、ヤキン・ドゥーエ戦をもってようやくの終結を迎えた。 己の信念を信じ暴走してしまったパトリック・ザラを、オーブの獅子の娘カガリ・ユラ・アスハと共にヤキン・ドゥーエに潜入し、説得することに成功したアスラン・ザラが、ZGMF−XO9Aジャスティスを、ジェネシス内部で核爆発させ破壊することで、勝者も敗者も存在しない「双方の戦線維持困難」という形をとっての停戦であった。 戦いを終えた者たちは皆、その傷を癒すべく、それぞれの帰るべき場所・・・あるいは望むべき場所へと戻って行った。 やがて双方合意の下、かつての悲劇の血ユニウスセブンにおいて停戦条約が締結された。 戦争を拡大させたその責を負い、退陣したパトリック・ザラの変わりに、プラント国家の臨時評議会代表に任命されたカナーバ議長は、本戦争においてザフト軍はオペレーションスピットブレイク以降、指揮系統の混乱により多くの公式記録を紛失したとした。 そのため戦争終結までに起こったいくつかの出来事は闇に消えていったのだった。 その中でも無益な戦いを止めるために、自らの命を賭けた人たちがいたことは公にされることはなかったものの、彼らの存在が終戦後プラント国民に英雄として根強く浸透したのは当然だった。 国防省軍本部の一室で、軽快にキーボードを打つ手が不意に止まる。 そろそろ時間か。 続きは夜にでもやるしかなさそうだ。 壁に設置されている時計を確認して、PCの電源を落とし席を立つ。 身に纏っている白い軍服に手をかけ、それを脱ぎはらうと、今度は深い緑色の制服をすばやく身に着けた。 評議会議員のための制服だ。 プラントにとって強い指導力・影響力を持っていたパトリック・ザラとエザリア・ジュール。 しかしその両名が、戦争を拡大させた責を負い、退陣を余儀なくされたことによるザラ派の衰退・混乱は、皮肉にも、戦後のプラント情勢を早急に建て直そうとするクライン派の最大の問題点となってしまった。 そこで評議会が目を付けたのが、大戦の英雄であり、彼らの息子でもあるアスラン・ザラとイザーク・ジュールである。 ザラ派をまとめ、これからのプラントを率いていく若い指導者として、彼らの能力・カリスマ性は非常に高く意義を唱える者はいなかった。 しかし、国内の情勢に加えて、終戦により退役者が急速に増えたことによる軍の衰退への打開策も急務と判断されたことにより、軍籍にあるものの、1年間だけという期限付きでイザークは評議会議員を兼任、アスランは軍に復隊し、特務隊FAITHとしてザフト軍の復興に力を注ぐこととなった。 ピ、ピー。 不意に部屋のロックが解除される音が鳴る。 「あれ、イザーク。来てたのか?」 扉から顔を覗かせた部屋の主に、曖昧な返事を返しながらもイザークは荷物をまとめた。 「今日も、議場か・・」 イザークの制服に目を留めて、彼は眉を潜める。 司令官としてナスカ級艦体2隻を任されているイザークは、午前を隊員の訓練や軍の任務などに費やし、午後は夜遅くまで評議会の会議に出席するような毎日を送っている。 今日はたまたま報告書を提出するため軍本部に赴いた際に空いた時間で、別の報告書を手がけていたところだった。 「まだ時間があるならコーヒーでも用意させるが?」 自らの机に回りこみながら、ブラックでよかったよな?と聞いてくる彼に、イザークは軽く頭を横へ振って答えた。 「いや、もう出る。それより、勝手に使って悪かったな」 「?・・・ああ」 瞬間、何のことか?と彼は首を傾げたものの、その意味することに気付いて納得したようだ。 「いいさ、自由に使ってくれ。どうせ俺もそんなにここにはいないし」 イザークは軍本部配属では無いため、ここに彼の部屋は用意されていない。 立ち寄ったときは、自由に使ってくれて構わない。と以前本人から言われ、その言葉に甘えさせてもらっている。 デスクに座って、手にしていた書類を少し気だるそうに眺める彼の様子を何気なく見れば。 顔色が良くない。 この様子ではろくに睡眠も取っていないのだろう。 端正なその横顔が、色白のせいもあるが、疲労によりいっそう憔悴して見えた。 内容は違えど、自分と同じような激務を毎日こなしているであろう目の前の人物は、注意したところで素直に聞く相手ではない。 一見優し気でおっとりとして見えるが、実のところ自分と同じくらい負けず嫌いで頑固者なのだとことは、決して短くない付き合いで分かっている。 じっと見つめる視線に気付いたのか、彼が書類から目を上げた。 「イザーク、最近寝てないんじゃないか?顔色が悪いぞ」 自分が思っていたことを逆に相手に言われ、イザークは眉を顰める。 煩い。おせっかいめ・・。 それをどう取ったのか、更に続けようとする相手を遮るように、イザークは質問を返す。 「それは?新しい任務でも降りたのか?」 「ん・・まぁな」 指された書類に再び目を落とした彼の口から、言葉を遮られたことに対してか、もしくは任務内容に不満でもあるのか判断つきかねる、いささか歯切れの悪い返事が戻ってくる。 おそらく後者なのだろう。 政治の世界も、軍の内部でも打開しなくてはならない事柄が多すぎて反吐が出る。 そしてそういう事柄に限って複雑な案件が多く、扱いが難しいのだ。 実際イザーク自身も、現在いささか面倒な問題を抱えていて、頭が痛いというのが本音のところだ。 書類を前に、なにやら考え込んでいる彼を置いて、イザークは部屋を出るために扉へと向かう。 が、思い立って振り向いた。 「おい。その任務が終わったら少し休暇でも取ったらどうだ?」 「え?」 キョトンと顔を上げて見返してくる翡翠の眸に、わかっていないのか。っと深いため息をつくと、 「貴様こそ、鏡を見てみろ。アスラン」 そう言って扉を出たものの、顔色が悪いのも、忙しくて休暇など取れないのは自分も同じだったと思い、イザークは苦笑した。 見事な銀髪を揺らしながら颯爽と去っていく後ろ姿が扉から消えたと同時に、室内に静けさが戻る。 地雷さえ踏まなければ決して騒がしくない彼であるのに、姿が見えなくなるとその場の雰囲気が一変するから不思議なものだ。 あいつは、存在自体が派手だからなぁ。 ぼんやりとそんなことを考えつつ、PCの電源を入れたアスランは、画面に向かい手を動かしながらも、先ほどの議長とのやりとりについて思考を巡らせる。 イザークと頃合を同じくしてプラント評議会代表に新しく選任されたギルバート・デュランダル議長から呼び出され、渡された命令書の内容は、感情を隠すことが得意なアスランをも少なからず狼狽させた。 「私が・・ですか?」 複雑な表情で問い返すアスランに、議長はゆっくりと頷く。 「この情勢下で君が戸惑うのも無理は無いが・・・この情勢下だからこそ、とは考えられないかな?」 「・・・」 「平和を望む気持ちは私とて同じだよ。だが、そのためにはそれを抑止する力もまた必要なのだ。先の大戦前、いや大戦時と同じだけの軍の力を維持し続けること、それが平和な世界を気付くために重要なことだと、私は思うのだがね。それは君にも分かるだろう?アスラン」 「はい」 先の大戦で、ザフト軍はかなりの打撃を受けた。 実際、ベテラン兵のほとんどが戦死もしくは退役し、今のザフトに残っている人員は戦闘経験の浅い者がほとんどで、軍全体の規模は約半数近くまで落ち込んでいる。 そのため、軍の人員補充は最優先事項となっていて、今期のアカデミーへは例年の2倍以上の入学が許可されていた。 「軍隊というものは、人数がいればいい。というものでもない。だからこそ君の力を借りたいのだ」 「ですが・・」 「アスラン、君の言いたいことは分かってるつもりだ。だが、君以上に適任者が居ない。というのも事実なのだ。残念ながら」 すまないが、引き受けてほしい。という議長の言葉に、渋々承諾したものの、アスランの気は重かった。 軍の人事部へと回線をつなぎ、個人データを参照してみるものの、確かに議長の言う通り、適任者と呼べる人物がひっかからない。 データを探っているうちに、アスラン自身も知らなかった知人の戦死などの情報が引っかかり、逆に気分が滅入ってしまった。 己の意図するところとは別に、英雄化されてしまっている”アスラン・ザラ”という存在。 この任務は周囲に歓迎されるであろうけれど、アスランにとってそれは少なからず抵抗があるのだ。 遠くない過去に、自分はザフトを一度は裏切ったことのある人間だから・・・。 『任務が終わったら少し休暇でも取ったらどうだ?』 ・・・休暇。 ふと手を止めて、最後に休暇を取ったのはいつのことだったか。と考える。 そして2ヶ月程前だったということに思い当たる。 「任務が終わったら・・・か」 それなら休暇は1年後になるな・・っとアスランは苦笑した。 To be continue... 2005.05.19 |
■□■ あとがき ■□□ |
なんか暗い幕開けですみません(゜゜)(。 。 )ペこ ほんとに触りしか書いてないですね。まだ私自身、おぼろげな構想しか出来上がっていないため、UPしたものの・・・今後の展開によってはちょっとずつ訂正していくと思います(^^;; 本当はもうちょっと先を書いてからUPしていこうと思っていたのですが、 楽しい展開を好む私としては、重い話が苦手なことと、ちょっとスランプ風味のため筆が進みません(/_-、) 早く楽しい場面まで持って行きたいところデス。 |