プロローグ >> 見果てぬ夢 | ||
目を覚ました途端、紅月は後頭部に鈍い痛みを感じた。突然のことに驚き体を丸めて頭を押さえ低くうめく。恐る恐る触れてみるとコブになっているようだった。 「いたたた……」 痛みに耐えること暫し、紅月は何故か自分がベッドで寝ているのに気付いた。入った記憶はないのだが。しかも何か様子がおかしい。今は夏で、羽毛布団などとっくにしまったはずだし、マットはこんなに硬くてちくちくしたりしてしないはずだ。おまけに紅月の部屋の壁は断じて木目などではない。母親が勝手に部屋の模様替えをしたのでなければここは自分の部屋ではない。 ゆっくりと壁を見上げて天井へとたどり着く。まるでコテージのようなつくりだ。屋根の形がはっきりとわかる。そのまま反対側の壁に目を移せばドアがあった。 紅月は頭に響かぬようゆっくりと体を起こして自分のいる部屋を見渡してみた。つっかえ棒で閉じないように固定してある木の窓から柔らかな光が差し込んでいる。壁際に今いるベッドが置いてあって、部屋の中心にはテーブルと椅子が二つ並んでいた。それしかない殺風景な部屋だ。勿論見覚えはない。 「どこだよここ……」 途方に暮れてかぶっていた布団を見下ろすと、端から真っ白な羽根がのぞいていた。これが中に詰まっているらしい。なかなか綺麗だ。ついでにちくちくの原因を突き止めるためマットを見る。 「これ、藁?」 木でできたベッドの上に藁が敷かれ、その上に木綿の布が被せてあった。どうりでちくちくするわけだ。 呑気に観察をしていたら、たった一つのドアがおもむろに開かれた。 「お、目が覚めたか」 そう言って入ってきた人物に目を向けた紅月は話し掛けようとして絶句した。 入ってきたのは二人。一人は短い金色の髪の青年で翠の瞳が強い光を放っている。どこか掴み所のない感じがする。もう一人は長い金髪を背中で緩く束ねた女性で蒼い瞳が印象的だ。鋭い刃を想像させるが、何故か眼鏡をかけている。二人とも紅月と同じくらいの年だろう。かなり整った顔立ちをしている。だが、紅月を絶句させたのは二人の容貌ではない。 二人の背中にある、人間にはあるはずのない、純白の翼。その姿はまるで神話の天使のよう。 硬直してしまった紅月の前に青年が立った。 「お〜いどうした?頭打ってぱあになったか?」 「そんな言い方があるか」 からかうように言葉を投げかける青年の顔に翼をぶつけ、女性がそっと話し掛けてくる。 「大丈夫か?頭は痛むか?」 容姿にぴったりな凛々しい口調である。だが紅月はあまりの驚きに言葉を発することができない。最初はコスプレの一環かと思っていたが、どうやら自由に翼を動かせるらしい。 自分のほっぺたを抓ってみると痛みを感じた。現実に違いないと認識した紅月は自分を落着かせる為に思いっきり息を吸い込んだ。 そして、気絶した。 |
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