パワーバランスは大切だ! >>   魔法街へようこそ 〜紫の場合〜

「委員長はさ」
 と、ユカちゃんが言った。
「攻撃魔法とか、使えねーの?」
 俺達は、某古典名作RPGを交代に遊んでいる最中で、画面の中では魔法使いが青いスライムに火炎魔法をかましていた。
 そりゃあ、僧侶ですら専用攻撃呪文を持っているゲームに馴染んでいれば、俺のやり方は不思議に思えるだろう。

 俺は、攻撃手段を持っていない。
 壊滅的な運動神経のせいで、武器や格闘を習得するのはけっこう昔に諦めたし、唯一の強みである特殊能力だって、ゲーム的に分類すれば「占い」を始めとする情報系だ。
 炎の球を飛ばしたり冷気をぶつけたりといった攻撃系は、全く持っていない。

「覚えても役に立たないしねえ」
 ユカちゃんは、不思議そうな顔になった。暴力沙汰どころか戦争並の非常事態が日常的に勃発するこの環境で、攻撃魔法が役に立たないなんてことはないだろう、と目が語っている。それも一理あるが、俺に言わせれば、まだ甘い。
「ユカちゃん。ここは、魔法街だよ?」
 彼が紛れ込んで以来、何百回も繰り返した台詞をリピートする。

「あんなのが日常的に歩き回ってる世界で、たかだかバスケットボール大の火の玉だの、一メートル足らずのツララだのが、どんな役に立つと思う?」
 窓から指差した先には、道を塞ぐようにとぐろを巻いて日向ぼっこ中の、うちの彼氏。
 更にその向こう側にいるのは、珍しく一山幾らの古本にハタキなんかかけている、御母上。

 ユカちゃんは、物凄く納得したようだった。