金魚姫 キンギョヒメ>> | ||
おかしなテンションの夜が明けて、東の空が明るくなる頃には布団にも入れた。日常が戻れば、状況に流されて放置した問題も気になってくる。 12時ちょっと前に目覚めた俺は、同じ部屋でごろ寝していた(彼には他の知り合いがいないのだから、俺が引き取るのが妥当である)漁火を起こした。 「訊きたい事があるんだけど」 「んー?」 疑問を感じたら、即座に解決するべし。 「なんで半年も経ってからなの?」 別に根に持っているわけじゃないけど、満月なんて30日に1回は来るものじゃないか。大雑把に計算しても365の半分を30で割れば凡そ6で、つまり彼は5回か6回こちらへ来る機会を見送ったことになる。 「俺だってもっと早くくるつもりだったよ」 何故か急に不機嫌になった漁火は、尻尾のかわりに髪の毛で床を叩いた・・・動かせたらしい。 「急に壁みたいなものができて、どうしても穴が開けられなかった。半年がかりでようやく通れたんだ」 「・・・ああ」 そう言えば、俺が落ちたせいで神経質になった父さんと母さんが、やたらと結界を強化してた時期があったっけ。突発的に開く門は少なくなったけど、反動で地震や悪天候が増えたから、ユカちゃんが来た頃から元に戻していたけど。なんだ。そんな理由か。 俺に会うためだけに、半年頑張ってくれたのか。 「・・・それと、領土。離れて大丈夫なの?」 「形代を置いてきたから大丈夫だよ」 どこからともなく取り出された物体は(何の為に、どうやって持ってきたのか、小一時間ばかり問い詰めてみたい)丑の刻参り使用の人形に良く似ていた。 「これに体の一部を入れてね、力を染み込ませておくんだ。穣雲が沢山作ってくれて」 「ふーん」 ちまちまと藁人形をこさえる殿様蛙を想像してみたが、なんだか凄い光景だ。 「後これだけ、どうしても確認しておきたいんだけど」 「うん?」 「綾緒さん、さあ・・・まさか漁火の奥さんじゃないよね?」 愛人は嫌である。二股もごめんだ。そこの所はぜひともハッキリさせてもらおうと詰め寄ったら、漁火は豪快にコケた。 「・・・図星?」 「違う!!」 「・・・ムキになった・・・」 「なるに決まってる!! あれは俺じゃなくて穣雲の嫁で! 俺は無実!」 「はあ!?」 確かに穣雲が既婚者だというのは本人の口から聞いた覚えがあるけど・・・ 「本人たちに確認とってもいい?」 「好きなだけ取ってくれ・・・」 なんだか疲れた口調。この反応なら信じても良さそう・・・って、ちょっと待った。 つい聞き流したけれど・・・誰が、誰のヨメだって? 俺より年下に見える綾緒さんと、父親くらいの年代に見えるの穣雲の取り合わせ。それはつまり、端的な言葉で表現するならば。 「ロリコン?」 「ろ・・・何だって?」 「・・・何でもない」 まあ、綾緒さんも中身はオッカサンだし、丁度良い・・・のか? 綾緒さんと穣雲の二人に確認を取って疑惑が解消されることになるのは、その次の日。次の満月まで解消されないはずだった疑惑が即座に解消されたのには、理由がある。 「で、どうしてこんな所にトンネルが?」 三軒長屋の裏、掃除用具や不用品が適当に詰め込まれた物置の隣に、巨大な穴が開いていた。 「いや〜、まさかこんなことになるたぁ思わなかった!」 穴からにょっきりと顔を出した巨大殿様蛙は、まったく変わらない調子でゲラゲラと笑っている。 「ちょっと力入れすぎたかな?」 漁火も苦笑しながらカシカシと頭を掻いているが、それで済むほど生易しい事態じゃない。 漁火が門を開くために必要な力を1としよう。父さんと母さんが結界を無理に強化したせいで1より大きい力が必要になった。ここまでは良い。 加減がわからない漁火は、5くらいの力で充分な作業に100の力をぶつけてしまったわけだ。更にその時には結界も戻されていたから、必要な力は1だったわけで・・・魔法街と漁火のねぐらの間に開かれた門は、門と言うより巨大な風穴のようなものになってしまったらしく、閉じようとしない。 「でもよお、別に妙な影響はないぞ〜?」 「そうだなあ。うまく繋がったみたいだし、良かった良かった」 良くないって。 「とりあえず、誰かが落ちないように塞がないと・・・」 相談の結果、もう1つ組み立て式の物置を建てることになった。底を抜いておけば、好きな時に行き来ができる。 ・・・こうして、魔法街に新たな名物『異世界直通の物置』が加わったわけだ。 「何だか・・・都合が良すぎて怖い」 「環は心配性だなあ」 漁火はそう言ったが、世の中旨い話には裏があるし、タダより高いものは無いと相場が決まっている。 意外な形でそれを思い知るのは、これからしばらく後のことだったけど・・・この時点では、まだ関係のない話だ。 END...? |
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