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所かわって上田靖臣は、瓦礫の山を踏んで月を眺めていた。 足元のガラクタは見事にもとの形を失っており、ほんの少し前まで建物だったなんて信じられない崩壊ぶり。 明日の朝には、台風も来ていないのに謎の倒壊を起こした廃屋が御近所の話題になるかもしれない。 そんな時、携帯電話にメールが届いた。 『タイトル : 圭士です 環と賢太郎が、ユカちゃんを探しに脱走した模様です。 気がついた時にはいませんでした。ごめんなさい!』 嘘つけ。 以上が、上田の感想である。 里山圭士は目上の相手に反抗して喜ぶタイプではないのだが、今回は小さいころからの遊び友達に肩入れする気になったようだ。 「・・・で、『気がついた』ってのは、いつのことだ?」 「少なくとも、今ではないようですね」 しっかり聞いていたらしい連れ合いが、こちらに顔を向けずに返事をした。 「まあ、圭士くんが大丈夫だと判断したなら、ひどい危険はないでしょう」 「そうだろうな」 希少種族・人間な彼は、意外とこんな時頼りになる人材である。 はっきり言うと、大伯父の士郎よりも遥かに心強い。 そしてまたもやメールが届く。 『イサやんが環と合流しました。 ユカちゃんの確保も時間の問題かと。』 ・・・時間を確認すると、第1報の直後に送信されている。 「・・・・・・やられた」 「・・・後で説教です」 低い声で呟く阿久津の足下には、湿ったボロの塊のようなものが落ちている。 隠れ家にしていた廃屋(・・・だった、現瓦礫の山)ごと、文字通り叩き潰され、立ち上がる暇すら与えられずに壮絶極まりないリンチを受けた高等魔族の姿はかなり惨めで、普段の上田なら少しくらい同情したかもしれない。 「で、ソレを構う理由はなくなったわけだが、どうする?」 「そうですね・・・」 しかし彼も、息子にちょっかいを出そうとした・・・しかも息子の友達を連れ去った誘拐犯に情けをかける情は持っていなかったので、今回は遠慮なく声援を送っていた。 正直に言えば、自分も参加したかった。 しかし阿久津にに手出し無用といい含められていた手前もあり、名も知らぬ吸血鬼も故郷をとび出して異国の人間と所帯を持った“一族の恥さらし”は兎も角、その“下僕”には用がなかったらしいので、高みの見物とあいなったのである。 『――ッ』 『――――。(ハンッ)』 異国語(しかも古語)のやりとりは聞き取りにくかったが、どうも「殺せ」と言っているのを「面倒臭いからヤダ」と突っ撥ね、ご丁寧に鼻で嗤ったらしい。 プライドの高い種族にとって、敗北した相手に見逃されることが死よりも辛いことがあるというのは知っているが・・・ 『――――!!』 上田には全く意味不明な叫びと共に、吸血鬼が阿久津に掴みかかる。 最後の力を振り絞っただろう突撃は、軽く回避された。 阿久津は心底億劫らしく片手を振り上げるが、表情にも仕草にも殺気はない。どうしても嫌がらせがしたいのか、本気で面倒なのか・・・恐らく両方だろうが、 甘い。 ため息をついて、指を鳴らす。同時に青白い火柱が出現した。 阿久津が上田の後ろに避難する。正確に標的だけを巻き込んだはずだが、近くにいるだけで熱かったらしい。 恐らく、悲鳴を上げる間もなかっただろう。何が起きたのか認識することもなかったかもしれない。 黒衣の魔物は跡形もなく燃やし尽くされ、後には一握りの灰が残った。 上田がもう1度指を打つと風が渦を巻き、灰を四方八方に運んでいく。 「慈悲深いことで・・・」 「後顧の憂いなんぞ無いに限る」 昔のように2人だけでふらふらしている身分なら、この程度の相手は放っておいても良かった。しかし今の自分たちには守らなければならないものがあって、それを脅かす可能性のあるものを放置しておく気は微塵もない。 後でこっそり消さずに阿久津の目の前で実行しただけ、誠実なつもりである。 「お前だけの問題なら放って置くけどな・・・」 「いえ、構いませんよ」 阿久津は首を振り、無造作に踵を返した。 『それでは御機嫌よう、父上』 上田は普段から『西洋の言語は苦手』で通しているのだが、独り言のように呟かれたこれだけは、やけにはっきりと聞き取れた。 「おい、」 「環君たちと合流して、帰りましょうか」 そう言って笑う連れ合いは顔だけならあい変らず美人で、それに免じて小指の先程度はヴァンパイア氏の冥福を祈ってやっても良いかと思う。 突然、携帯電話が鳴った。 |
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