部外者達の閑話休題>>   

「・・・だってさ。イサは『住所不定・無職』だと思われていたみたい。地位(神様)もあれば財産(奉納)もあるのにねえ」
「それはいいけど・・・ユカちゃん、置いていっちゃうの?」
「いっちゃうの」
 春麻は、あまりにも薄情では・・・と非難がましい目を向けるが、環は爽やかに肯定した。
 時は夕方、場所は漁火の家に通じる『異世界直通物置』の前である。
「いいんだよ・・・あーいう時はさ。正気だったら絶対人に見せられないような奇行に走ったりするし」
 たとえば布団の中で、頭抱えて転げまわるとか。
「あ・・・そうねえ・・・・・・」
 たとえば真昼間に「私はオカマです」と、絶叫するとか。
 環と春麻は、顔を見合わせて頷きあった。幼馴染は話が早くていい。

「正直、なんであそこまで混乱してるのかは良くわからないんだけど」
「仕方ないと思うわ・・・だって士郎さん、完璧に保護者だったんだもの」
「ようやく意識してもらえるようになった・・・?」
「あたしはそう思うんだけど」
「士郎さん、気の毒に・・・」
 環は心底同情した。
 士郎が告白らしきものを(公衆の面前で)してから、はや数ヶ月。ようやく、まっとうなスタートラインに立ったらしい。
「かわいそうだけど、自業自得じゃないかしら」
 春麻は、悪意のない容赦のなさで断言した。
「それもそうか」
 環も弁護はしない。
 想いを伝えたのは確かだが、その後それらしいアプローチもなく同居人に甘んじていたのは士郎の勝手である。
 紫が転がり込んできた当初の事情を考えれば、なかなか手を伸ばしにくいというのも分からなくはないが・・・士郎の場合は紫に気を使ったというより、生来のものぐさ(特に言語に関する、致命的なまでのソレ)が原因である。同情の余地はない。

「それじゃ、ユカちゃんには思う存分気持の整理をつけてもらおう・・・杞憂かもしれないけど、今の士郎さんの近くに置いとくと危険な気もするし」
「士郎さん? 今更じゃないの?」
「確かに今更なんだけど・・・引篭もってるっていうのが気になってさ」
「?」
 春麻が不思議そうな顔をする。士郎のコミュニケーション能力のなさは本当に今更なので、多少の奇行は『ああいう人だから』で納得できるらしい。
 環もそれに関してはまったく同感だったのだが。
「士郎さん、何十年も生身じゃなかったんだよね?」
 仙人の生態について特別深い知識があるわけではない(身近なサンプルは1つしかないことだし)。たぶん、生きたままレトルトパウチになるようなものだろう。
 温めて容器を開けるだけにしても、それなりの時間は必要なのだ。
「だから・・・つまり、その」
 幼馴染とは言え、女の人(遺伝学上男性であっても春麻は精神的に女性であったし、少なくとも魔法街一帯では立派な『女性』として扱われている)相手にあからさまに言っても良いのだろうかと、環は少しだけ躊躇した。
「好きな人と同じ家にいても、あんまり生々しい気分ってなかったんじゃないかと思うんだ」
「・・・!」
「つまり、ようやく下半身にも血が巡るようになって、うっかり襲い掛かりたくなって、そうならないように引篭もってるんじゃないかと思うんだよね」
 オブラートにくるむべき部分を間違えている。
 しかし春麻も素直に「それは・・・正解かもしれない」などと考え込んでいるのだから、最初から包み込む必要はないのかもしれない。
 魔法街育ちの感覚は、割とおおらかだった。

「まあ、士郎さんのアッチの事情は置いといて。行って来ます」
「行ってらっしゃい」
 部外者とは、基本的に無責任な存在である。