UMAはヤサグレる>>   

「イサは何してんの? 冬眠?」
「違ぇよ」
 環がたずねると、穣雲は両生類(トノサマガエル)の顔面をフル活用して苦い表情を作って見せた。
「おめーのせいだっての」
「俺?」
「また、何かやったって?」
「・・・うん」
「ちったぁ懲りろ糞餓鬼」

 悪いのは調子ではなく、機嫌だったらしい。
 奥祇に行ってみると、漁火が拗ねていた。
 拗ねているというより、凹んでいるようだ。蛇の体をボールのように丸めて、じっと黙り込んでいる。

 守護精霊が凹めば土地も凹む。ゆえに本日の天候は、ちょっと荒れ模様。
 海難事故が起きるほどではないが、このまま続くと漁業関係者への被害がでるかもしれない。

「おーい、イサァ! でけえ図体でみっともねえぞ」
「そうよ。いつまでも拗ねてないで、いい加減に頭を出しなさい、頭を」
 穣雲と綾緒が呼んでも、効果がない。
「おーいってば、イサ〜?」
 会話に必要な頭を見つけようにも、内側に巻き込まれている。たぶん一番下辺りに隠してあるのだろう。
 胴体の長い相手は、こんな時不便だ。
「イサってば」
「環なんか知らない・・・」
「俺?」
 胴体の適当な位置をぺちぺちと叩くと、恨みがましい返事がかえってきた。
「環はいつもいつもいっっつも・・・」
 耳をすますと、なにやらぶつぶついうのが聞こえてくる。
「俺の存在を忘れてる・・・って言うか、無視してると思う・・・。何かあると邪魔者扱いで、しかも優先順位が紫より下ってどうなんだよ一体」
「別にそんなつもりは」
「自覚がないからよけいにタチが悪い・・・」
「イサ、ごめんってば・・・」
「その内『勢い』とか『ノリ』でどこかで『うっかり』死んじゃって、それだって俺が知るのは一番最後なんだ絶対」
「いや、それはないかと」
「ああもう、本当に・・・」
 おのれの胴体のごとく長々しいため息をついて、漁火はようやく体をほどいた。
「その辺の行き違いについて、ちょっと話し合おうか。うん、お互いに納得がいくまで話し合おう」
「あの・・・?」
「ちょっと長くなりそうだけど、俺の言い分も聞いてくれるよね?」
 漁火の漁火による漁火のための、環に対する説教大会は、途切れることなくざっと4時間続いた。

「もうしないね?」
「しない。しないから・・・」
「頼むよホントに・・・」
「うん・・・」
 漁火の顔は爬虫類ながら、なんだか泣きそうで。
 環は真剣に悪かったと思う。(この時点まで本気で反省していなかったのは、明らかに問題である)
「環はまったく・・・・・・」
 漁火はもう一度、長い長い溜息をついた。
「箱か何かにしまっておきたい・・・」
「・・・・・・・・・」
 昔そんな御伽噺を聞いたことがあったなあ、と思ったのだが、
 ・・・入っているのが自分で持ち運ぶのが漁火な時点で、物凄く危険な気がするのは何故だろう。
「やりたいなら、やっても良いんだけど・・・」
「やらないけどさ」
「そうだね・・・やめといたほうがいいかもね・・・・・・」