自分勝手な連中の言い訳>> | ||
「電車が動いてて助かった」 「御意」 手段の為に目的を選ばないことにした環と賢太郎は、とりあえず当座の目的である紫の捜索のために、夜道を歩いていた。 生憎、空も飛べなければマッハで走ることもできない。空間移動など夢のまた夢な2人組であるからして、移動手段は徒歩と公共機関である。 環が割り出した場所は、阿久津と上田が呼び出された場所から数キロばかり離れた自然公園だった。 ・・・桜のころならいざ知らず、真夜中に行く場所ではない。 これだからアンデッド系は・・・と呟く環は、自分の親が同種族であることは棚に上げていた。 「とりあえず、ユカちゃんを確保することだけ考えよう? どうせ母さんがいれば、ヴァンパイアは放っといても消えるから」 既に死んだもの扱いである。寧ろ、始めから視界に入れていないと言うべきか。 魔法街と言う場所は、元が1軒の家だったせいか家族と他人の区別がひどく曖昧だ。 よその暮しを知らない者には尚更で、環の人間関係はほぼ『家族』で構成されていると言っても過言ではない。 曲がりなりにも『友人』と呼ぶ相手ができて、『恋人』まで作った現在だが、それも少し毛色の変わった家族が増えたというくらいの括りかもしれない。(自分でも、よくわかっていないのだ) 彼の世界は赤ん坊のころから一貫して『魔法街』という居心地の良い巣の形をしており、そこからはみ出すものは九割がた『他人』扱いになる。 そして、彼にとって『他人』とは、基本的にどうでもいいものだった。母親の同族だろうが例外はなく、まして当の母親が縁を切っているのだから尚更知ったことではない。 死のうが生きようが、好きにすればよいのである。 紫の生命に関しては、実はそれほど心配していない。 両親をおびき出す餌というだけなら、攫われた場所にはメグミがいたのだ。目の前で紫を殺害して、彼女に伝言だけ預ければ良いのである。 指一本で息の根を止められるような人間の子供1人生かしておく理由は、あちらにはない。 わざわざ連れて行ったからにはそれなりの目的があるはずで、母に対する嫌がらせか、いざという時の人質あたりだろう。 だから命だけを問題にすれば、紫は無事なはずだ。 怖いのは命が無事だから体が無事だとは限らないということで、更に体が無事でも心が無事ではない場合があるということだ。 考えたくもないのだがこの瞬間、命と体と心が全て無事でいる保証はない・・・どころか、そうでない可能性のほうが圧倒的に高い。 それは両親も承知のはずだが、あちらは本命のヴァンパイアを早急に片付けて確実に紫を確保したいと考えているだろう。 ・・・いや寧ろ、命が残ればOKだと思っているかもしれない。あの両親にはそういう大雑把さというか、細やかな感情の機微に欠ける所がある。 強者の驕りと言えばそれまでだが、今の状況ではそれが一番現実的な考え方であることも確かで。 それもこれも自分が使えないせいだと思うと臍をかんで死にたくなるが、とりあえずは紫である。 「なれど、敵は手練なのでは?」 「ん?」 賢太郎の心配そうな声で、思考から引き戻された。 「御館様方が危険なのでは・・・」 どうやら本気で案じているらしい。 あの両親を? と思ったが、そう言えば。 「そう言えば、ユカちゃんより後に来たメンバーは知らないんだっけ」 思えば、両親(特に母)は、よほどのことがない限り店の中から出てこない。魔法街に常駐していない賢太郎は、どちらともあまり接触がないのだ。 加えてここしばらくはCランクを超える危険な事態が殆どなかったために、『御館様』が揃って出陣することもなかった。 「あのねえ、賢太郎」 ここで過去の武勇伝を並べ立てても、賢太郎にはぴんとこないだろう。父はともかく母の方は、強そうな外見には程遠い。 「あの2人、先代・・・芙喜姐さんの友達だよ?」 「!!!!!!」 賢太郎は全身の毛を逆立てて硬直した。 犬鍋にされかけた恐怖が甦ったらしい。 「・・・それでは、ばんぱいあはどうなるので?」 今度は逆に、敵の末路が心配になってきたようだ。 「それは」 こんなにも善良な彼に、『確実にぶち殺されるだろうね』などとストレートに言ったら怖がらせてしまうかもしれない。 「命があったら幸いかな?」 「・・・・・・左様でござるか」 気の使いどころを間違っている。そう指摘してくれる相手がこの場にいなかったことは、はたして幸いなのだろうか。 目的の公園まで、あと数十メートル。 ・・・・・・何かが、後をつけてくる。 |
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