幸せは日常の如く >> | ||
そんなこんなで数年が過ぎ、大学を卒業して薬剤師の資格も取った圭士は、魔法街で薬剤師&漢方医&薬局経営者代理として忙しい日々を送っている。 引っ越してくると宣言した当初、士郎は複雑な顔をした。 50歳にもなっていない(魔法街においてこの数値は、青二才と同義語である)圭士が敢えて魔法街などという特殊な空間に住み着くのはどうか・・・と、大伯父として心配してくれたらしいが、圭士に言わせれば考えすぎである。 電話や手紙が届かないわけでもないし、逆に訪問販売の類がほぼ100%シャットアウトされるので、住み心地は意外によろしい。 ところで最近、士郎に想い人ができた。 環の同級生で、名前は伊藤紫。ユカリという名の、男子である。 ・・・彼はついさっき、環に連れられて春麻の家に乱入し、赤くなったり青くなったりした挙句、来た時と同じく環に引っ張られて出て行った。 環がその場の雰囲気に関わりなく登場し、かつ去っていくのは今に始まったことではないが、他人を連れ込んだのは初めてである。 「マキちゃん結局、何しにきたの・・・?」 「『免疫付けとこうかとおもって』だと」 そんな狙いで連れて来られた紫が哀れだ・・・と、そもそも自分達が自宅なのを良いことに半分裸のような格好でじゃれあっていた事実は棚に上げて、圭士は気の毒がる。 ・・・気の毒がるだけで、改める気はないのが問題だが。 「あれでも、兄さんの応援をしてるつもりなんだ。一応」 「ふうん?」 数年前まで一応常識人の範疇にいた春麻も、最近はすっかり圭士の行動に染まっているので、彼を止めようとする者はない。 圭士の壮大な夢は、今のところ順調である。 後は共白髪でぽっくり逝くだけだが、こればっかりはやろうと思ってできることではないし。まあ、当分先の話だ。 「兄さんもようやく自分の幸せを掴みかけていることだし」 「ユカちゃんの幸せは?」 「・・・・・・『2人で』幸せになれば、大丈夫じゃないか?」 「・・・そうね」 「あ、俺は幸せだから」 「あたしもよ?」 環に言わせれば、『里山の血筋には、遺伝子レベルで恋愛至上主義が組み込まれている』らしい。 だから婚期を逃して晩婚になるケースが多いのではないか、とのことだが、生憎証明する手立ても無いので、謎は謎のままだ。 とりあえず、幸せならそれで良いのである。 |
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