2匹よりそいひなたの昼寝 ふっと寒気の御邪魔虫>>   

 誰も指摘しようとしないが、賢太郎(ケンタロウ)と紺(コン)はどちらも人間だったら幼稚園に言っているかどうかも怪しい年齢だ(賢太郎は高校に通っているわけだが)。
 そんな2匹はやっぱり人間の生活に馴染まないところも多くて、魔法街では本性でいることが多い。里山薬局の裏庭では、乗用車くらいの土佐犬と子猫くらいの狐が寄り添って日向ぼっこをしている姿がよく見かけられる。
 その日も紺は、賢太郎の大きな頭の上でうとうとしていた。
 そろそろ真冬と呼ばれる季節だが、天然の毛皮を着込んでいる二匹には関係ない。寧ろ日差しをたっぷり吸収した冬の毛皮はホコホコと暖かい。
 昨日の騒ぎでちょっぴり見晴らしが良くなった魔法街の一角は、とても平和だった。

「でもさ」
 紺が言う。
「環の進路で揉めたくせに、環の希望は聞いてないんだよな?」
「むう」
 賢太郎は首をかしげた。
「若君の御意見は、拙者もお聞きしたことがない」
「環がなんか言えば、収まるんじゃ……?」
「それは……」
「そうもいくまいよ」
 答えたのは、賢太郎とも紺とも違う高い声だった。
「「うきゃああああああ!!」」
 悲鳴を上げたのも無理はない。
 賢太郎も紺も、元は野生で生きていた動物である。他の生き物の気配には敏感なはずなのだが、すぐ近くで声をかけられるまでそこに誰かがいるということすら気がつかなかったのだ。
「・・・元気のよいこと」
 2匹に悟らせることなく至近距離まで近付いてみせたのは、すらりとした美少女だった。紫や環より少し上くらいの年に見えるが、見た目の年齢で判断するなは魔法街の鉄則である。
「曲者でござる! 曲者でござる!!」
 賢太郎はワンワンと吠え立てるが、相手はたじろぎもせずにおっとりと首を傾げる。
「曲者とは失敬な。そなたこそ何者じゃ?」
 言われてみれば尤もだった。
「拙者、土佐賢太郎でござる。こちらは篠田紺」
「妾は……今は久子と名乗っておるが」
 ヒサコ嬢はしみじみと2匹を眺める。
「土佐犬……コン……名付け親は縁かえ?」
「俺だよ」
 また新たな登場人物が声をかけてきたが、今度は誰も驚かなかった。
「姐さん、ひさしぶり」
 上田環に気配を消すような真似はできない。
「もう紺と会ったんだ?」
「おお、この童であったか」
「え、俺?」
「あれ、話してなかったっけ? 紺の先生だよ。狐のことは狐に習うのが一番だからね」
 紺の目が丸くなった。
「あんた、狐なのか?」
「『あんた』とは何事か」
 ぺちんと頭をはたかれる。
「キュッ!」
「礼儀はなっておらぬが、ふむ……その年で尻尾が2本なら大したもの」
 切れ長の目がスゥっと細くなった。
「妾に任せよ。ついでに賢太郎も鍛えてやろうぞ」
 ほっそりした指が紺を摘み上げ、ついでに賢太郎の首根っこを掴んだ。
「……2人(匹)とも、頑張ってね」
 わけもわからず連れて行かれる2匹を送る環の笑顔は確実に引き攣っていたのだが、それを見た者はいなかった。

 公園の方から、紺と賢太郎の悲鳴が聞こえてくる。
 それに混じって女性の笑い声。数年ほど御無沙汰だったが、明らかに聞き覚えのあるものだ。
「……」
 そちらの方から歩いてきた環に、士郎は説明を求めた。
「父さんと母さんが……この間の件で自信喪失してるみたいだから、自信を持てるだけの力を付けさせようって」
 彼女……金毛九尾の妖狐は環の両親の古い友人で、魔法街を造る時もずいぶん協力してもらったという。
 住人の全てが何らかの形で彼女の世話になっており、そういう環も小学校低学年の年に占術を叩き込まれた経験者だ。
 ……スパルタ式で。
「あれを乗り切ることができれば……相当強くなれる……って、士郎さんの方がよく知ってるはずだよね?」
「…………」
「仙術の師匠だし?」
「……………………」
 士郎は黙って目をそらした。