フルートのささやき

二階の部屋の
白いカーテンが
風にゆれていた

麦の穂の香りが
窓から吹き込んできた

君は覚えているかい?
あの日のことを

十三歳の指が
僕の横たわったケースを
そっとあけてくれた

春の光がやさしく
僕を包んでくれた日
君ははじめて
僕に生命の息を
吹き込んでくれたね

あの日
僕は,荒野でたったひとり
たたずんでいた神様の手をとって
君の前にすわらせたよ

あれから
どれくらいの時が
流れたろう

君は毎日
僕の音色を
楽しんでくれたね

桜の花が散った日も
風が川の上を吹いた日も
雨がかえでの葉に降った日も
白い雪が野に舞った日も

僕は君といっしょに
愛と涙の歌をうたったよ

僕たちふたりの長い旅だったね

今夜は
ふるさとのクリスマス
白い髪をした神様が
横笛を吹く君の前にすわっているよ

その隣りには
君の愛する妻と
子供たちが静かに
笑っているね

僕は、今日も
君といっしょに

うたうよ
喜びと感謝の歌を

君が地上の旅を
終えた日
僕をそっと抱いて
天国の門に入ってくれるね

僕は君の永遠の友だから・・・

宝箱