INITIALIZE ORIGINAL NOVEL


menuindexbacknext

2010-10-26 祖母へのメッセージ



10月22日夜23:33分。祖母は息を引き取った。
私が祖母の病室へ到着したのはだいたい21時ぐらいだったと思う。
それからずっと祖母が亡くなるまで耳元で言葉を言い続けた。

私は祖母のことをおばあちゃんと呼んでいた。
おばあちゃんは、痛いと思ったことを口に出さない頑固な人だった。
不味いものは薬でも飲まない。病院も嫌いだから意地でもいかない。
そんな、ある意味、わがままなおばあちゃんだった。

それでも2人の子供を産み、6人の孫を育て上げたおばあちゃんはあの日、
うつらうつらとした瞳で私を見ていた。

昔話とか、これから先の夢のような日々を淡々と冗談を交えながら祖母と話したこと、
私はわすれないだろう。

祖母が入院すると決まって泣いたときのこと、入院の準備を祖母に代わって
したこと、わすれないだろう。

祖母の孫が大人になってできたはずのすべてのこと、言葉にならないくらいあったはずだ。
大人になってから想う。幼少のころ、育ててもらった恩、いつだってわすれないだろう。
記憶のすべては忘れてもいい、だけどおばあちゃんとの思い出だけは忘れたくなかった。
言えなかったこと。

「おんがえし、まだなにもしてないよ。だから死んじゃダメだ」

生きてほしかった。
あの日、祖母の瞳を見ながら言えなかったひとこと。
ごめん、おばあちゃん。こんな俺を育ててくれたこと。
感謝していたと言えなかった自分の不甲斐なさ。

日々は留まることなく祖母の思い出をなかったかのようにしていく。
私が祖母に対してできなかったことを、いや、祖母がしてくれたようなことを、
誰かに対してやってあげられる日がくるのだろうか。
私は自分を育ててくれた祖母を愛していた。
祖母が愛してくれた自分を愛せるだろうか。

これからの私は、どう生きていけばいいのか。
いままでわからなかったことが、少しだけわかったような気がした。


menuindexbacknext
+ INITIALIZE -
Copyright warning All Rights Reserved.