祖母の葬式は滞りなくすすんだ。
親戚、顔見知り合わせて30人以上が顔をそろえた。
その中で喪主である父が祖母へお悔みの言葉をつげる場面になった。
父は感情を表に出さない方の人間で、だからといってその日は違った。
看病は妹と私にまかせっきりで仕事人間で、そんな父が、お悔みの言葉をつげる場面で泣いた。
私はこれまで父が泣いたところなど知らなかった。
父と祖母はいつも喧嘩をしていた。
どちらがどうとか、そういうことではなく父が一方的に祖母を突き放した物言いでののしっていたことがあった。
なぜ、いつから、そうなったのかは知らない。
少なくとも私の幼少時代からだ。
そんな中の悪い親子だから、お悔みの言葉でも泣くはずがないと思っていた。
しかし、父は言葉のあちらこちらをつっかえながら涙ながらに感謝のことばをつぶやいていた。
私は最初、嘘だろと思った。
しかし、芝居ができるほど器用な人間じゃないことはとうに知っていた。
父は悔いていたのか、どうかわからない。
ただ、そこには祖母への感謝の気持ちはあったことは確かだ。
いつか、私は父から祖母の思い出を聴いてみたい。
しみったれた居酒屋でもいい。そんな場所で一緒にビールを飲みながら。
仕事人間だった父はいまとなっては幼少の頃より威厳をかんじなくなってしまった。
それは単に私が社会人となってしまったからでもあるが、それ以上に、父が惨めに感じてしまったせいだろう。なぜ、そう感じたのか。それは父が私と同じく祖母になんの孝行もしてやれなかったからだと思う。父の涙を見たときそれがわかってしまったのだから。