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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_4/4   青春挽歌



 他人を救うということは、自分を救うということでもある。
 俺は、なぜ、自分が生きているのか、その意味を知りたかった。
 ボランティアなどの無償の活動をする人たちがいる。彼らのなかには、助けているのではなく、自分自身がボランティアをすることにより逆に助けられているのだということを俺はテレビで見たことがある。仲介人をしていた俺は、その人たちが決して偽善で言っていることではなく、本心から、言っていることだと少しだけだが共感していた。本当に、自分のやっていることが偽善ではないのか、もしくは自己満足とでもいえるような行為なのではないのか。疑心は常に付きまとう。だけど、だからこそ、そうではないと、そんなことにはしないようにしようと心掛け行動に移している。他人を救うこと、それは自分を救うということでもある。だからこそ、逆に、他人を傷つけるということは、自分自身を傷つけることでもあるとも言える。


 俺は、他人を救うことで、自分を救っていた。
 救われるはずがない、こんな俺を。
 幽霊がみえる、死神がみえる。
 除霊法は使えない。


 目指す道すらない俺は、だからこそ不安だった。
 なんのために俺は生かされているのか、なんのために、俺はみえないものすらみえるのか。
 意味など、なかった。運命などと変換されてしまう意味など、認めたくはなかったはずだった。
 子供の頃、俺はだから必死に探し求めていた。運命などという言葉で埋めることがないように、
 変わることができないと言われないために、
 生きる意味を。


   ※


「ごめん、森永」
 俺は森永に謝らなければならない。
「聞いてないよ、幸助」
「ホント、・・・ホント、マジ、ごめん」
「店長が、・・・・・“おかま”だったなんて」
 よたよたと近づく小太りの店長に俺と森永はそれとなしに会話をいったん切り上げた。
「幸ちゃん、ちょっと、ちょっと」
 ちょい、ちょいと手招きする店長に俺はなんとも元気をなくしながら森永の脇をとおりぬけ近づいていった。
 店の裏の方へと手招きをつづける店長に不安を隠しきれないまま、森永だけを表に残し、俺は見えない裏へと入っていった。
「幸ちゃん、やったじゃない。ついに彼女ゲッツしたのね!」
「・・・店長、どこか古いっす」
「で、幸ちゃん」
 店長が俺の首に腕をまわし、耳元に口を近づけた。
「もう、やっちゃったの?」

「・・・・」
「きゃ、ついに、訊いちゃった!」
 はて、俺はなんと答えたらいいものか。
 とりあえず、弁慶の泣き所にでも蹴りを炸裂させようか。
 否、そんなことをしでかしてしまったら、最後。森永ともどもバイトを首になってしまう。
 ここは、我慢に徹するのがヨシイクゾーである。
「いや、まだっす」

 正直に答えるあたり、まだまだ俺も餓鬼である。
「だとおもった。年上の彼女は甘えるのがヨシイクゾーよ」
「・・・ヨシイクゾーっすか? マジっすか店長!? すっげーっすね。マジハンパないっす!」
 ついでに馬鹿な若者もキャラに混ぜ込んでみた。
「でね、幸ちゃん。餞別とはいってもなんだけど、・・・」
 店長もそこは、ちゃんとした大人であった。
 店長のご好意、西園幸助、きっちりとうけとったでごわす!
「一箱まるまるじゃないっすか!」
「今日はもう、これで切り上げちゃっていいわよ、幸ちゃん。明日はお休みだからハッスルしちゃってね!」
「・・・店長」

 ああ、なんか涙でそうだよ、店長。
 さっき弁慶の泣き所に蹴りを入れようとした俺の悪意、ごめんね。
「さぁ、幸ちゃん。初陣よ」
「うぃ」

 店長の不意打ちを喰らった俺は図らずも涙をながしそうになりながら、
 でも、店長のご好意に恥じぬように。頭のなかがすでにヨシイクゾー状態に切り替わるまえに俺はひとつ、試してみたいことを思いついた。
「あ、そうだ。店長」
「ん? なに、幸ちゃん。一箱じゃ足りなかった?」
「そうじゃなくて、店長。ひとつだけ訊いていいっすか?」
「なによ、幸ちゃん。訊きたいことがあるなら、訊いちゃいなさいよ、もう、この色男」
 ハハハハハ・・・、と俺たち既にヨシイクゾー状態である。
「店長、あの、こんなこと訊くの変だと思うんすけど、・・・店長の生きる意味ってなんなんですか?」
「そんなくだらないこと訊いちゃうの? 幸ちゃん。そんなの決まってるじゃない。生きるもの、生きられるあいだに精一杯、たのしむことよ。それが生きている人間の特権であり、義務でしょう?」




fin


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