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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_3/4   青春挽歌



「仲介人の仕事がなぜ無償の代価なのに、除霊の仕事にはバイト料が出されるのか。俺はそのことを訊いてるんですよ、神父様」
 森永との話が済み、俺は前日の除霊の料金を受け取るべく、神父様こと吉崎観音の教会へと足を運んでいた。
 除霊の仕事は、きちんとした依頼主がいるから。神父のいうことはまっとうしすぎておもしろさに欠ける。
「つれないな、神父様。ここで一発、天変地異が起きるようなボケをかまさなきゃ」
「・・・ボケ?」
「ハハハ、気にしないでください神父様」
 神父様に笑顔で釈明を済ますと、振り向きざまに俺を睨む。
 いつしかこんな突っ込みキャラとしてヤヨイが定着していることをヤヨイ自身は自覚しているのだろうか。
「幸助さぁ、あんた誰のおかげでこのバイトできてるか知ってるよね? あたしがいなきゃ、キミ、除霊のひとつもできないんだよね? と、いうか、今月金欠だから除霊のバイトしてくださいって土下座して頼んだのは何処の誰でしたっけ?」


 ヤヨイったら、また、もう、心にもなく、俺を責めたりして。
「・・・誰でしたっけ?」
「あんただよ、あんた!!」
「まぁまぁ、ふたりとも落ち着いて」
「チヨ先輩がかわいそうになってきたわ、ホントにあんたって最低ね」
 まったくもって反省の色、皆無である俺に神父様が仲介に入る。仲介人が仲介されていようとはどうしようもない。
「ばあちゃん、はやく帰ってきてくれないかな」
「・・・あぁ?」
「ぃゃ、なんでもないです」
 危うく本音が出てしまった。
 ばあちゃんは、ヤヨイが俺に憑くということで新人の仲介人の方へと配属されたのだった。
「だいたい、なんで俺がおまえの指導員なのに、こんなにボロクソに言われなきゃならんのだ。立場が逆だぞ、立場が」
「うっさい。あんたが礼儀に欠けるからよ、最低男」
 最低、最低と礼儀に欠けるのはお互い様だよ。俺はなんとか言わずに終わらすことにした。
「神父様、そんなことよりバイト料を」
「そ、そんなこと!?」
 ギャー、ギャーと騒ぎ出した死神をよそに、俺は神父様からわたされた茶封筒を覗き込む。
「確かに、料金頂戴いたしました」
「・・・なぁ、幸助」
「はい、なんですか?」
 封筒のなかの多くはない札を慎重に数えながら俺は言葉を返した。
「さきほど、仲介人の仕事がなぜ無償の代価なのに、除霊の仕事にはバイト料が出されるのかと訊いたな」
「え!? あぁ、はい」
 俺はそこでやっと神父様をみた。ヤヨイもなにかを感じとったのか喚きを止める。
「金銭を受け取らずに、たしかに偽善者と言われるかもしれんがな、幸助。おまえはもう、すでに代価を貰っているはずだ」
「代価を、・・・もらった?」
 神父様はゆっくりと肯き、こういった。
「人の心だ」


   ※


「あぁ、なんか胸糞悪い。結局なんか俺って偽善者じゃん」
 教会からの帰り道、俺はヤヨイに言った。
「そんなこと、ないと思うよ。偽善者は自分をいいように感謝の礼を受け取ろうとするけど、仲介人は自分が仲介人だと名乗ることも禁止されてるし、仕事は自然に、死に逝こうとする者を止めなきゃいけない。偽善者とは、やっぱり違うよ」
 帰りの夜道。俺はなんとなくだが思っていた。見上げた空は夏の星が幾つか光っている。
 あの星座はなんといったか。子供の頃の俺は確かに憶えていたはずだが。


「これも、運命なのかな」
 俺は唐突に答えが見えたような気がした。
 夏の夜空を見上げながら、名の忘れた星座をみながら。
 なぜか、唐突に口をついて出ていた。

「・・・運命?」
 ヤヨイが俺のあとに言った。
 俺は歩きながら自然と口にしていた。
「俺に霊感が強いのも、仲介人としてやっているのも、除霊法のひとつもつかえないのも」
 きっと、なにもかもがあがらうことのできない、絶対的な運命。

「言い訳だよ、幸助」
 ヤヨイの言葉に俺は、なにを感じたのだろう。
「神父様がいっていたじゃない。仲介人の仕事がなぜ無償の代価なのか」
 俺は、ヤヨイの言っていることがわからないでいた。
「人の心は、運命なんかに負けないんだって」
 視線の先、家路へと向かう俺のみすぼらしい帰路の途中、誰かが星空の下に立っていた。
「・・・森永」
「運命に負けない、たとえ変わらないとわかってしまっても、あがらうことをするのが“人の心”なんじゃないかな」




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