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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_1/4   墜落堕天使



 人はなにかを失って大人になるといわれている。
 夢、希望、あこがれ。


 そして、幾つかの痛みを知って大人になっていく。
 社会の摂理、自己との付き合い方、変わりばえのしない現実。


 人はいつしか、それらを知ることになる。
 生きている限り、生きつづける限り、
 たが、しかし、失ったと思えた夢や希望も、
 生きるうえでかかすことのできないものであることは事実だ。
 人は失ったと思った、その瞬間、もしかしたら、
 心の奥底で見失っているだけなのかもしれない。
 理由も根拠も、なにもない。


 だからこそ、かもしれない。
 ただひとつ、俺が思っていること。


 夢や希望が、そうかんたんになくなるはずがない。


 カンカンカンカン・・・。
 電車の遮断機。俺はそんな事を口走り、願い、手を差し伸べている。
 つなぎ止めたのは、あなた。
 とりかえしのつかない、まちがいをしようとしている、そこのキミ。


「遮断機、下りてますよ」
 ・・・それが、俺の役割。
 なくした? 見失っただけ。
 死にたい? ・・・全ては時間が解決してくれるさ。


 止まることのない、ただひとつの存在が。
 誰が死ぬか、止まらない時間のなかで、何時死ぬかを知ることができる俺は、
 その夜、彼女と最初に出会った。
 遮断機が、下りた手前で。


   ※


 右目に、白というより、純白に近い眼帯。
 左目は空の色とおなじ蒼い色の瞳。
 肩までの髪は黒。そして、彼女は俺の知る限り、いつも同じ校舎の屋上へと俺を呼び出す。


「遅いよ、幸助。あと、じゅう数えたら飛んでたよ」
 俺の知る限り、森永が初めてで、最後であってほしい。
 ・・・こんな、人種は。


「巣立った母校の屋上で投身自殺なんて、随分と趣味がよろしいんでないですか?」
 月明かりが照らす、今では珍しい警備の怠っている学校の屋上。
「なんで、幸助は私が死のうとすると、いっつも現れるかな?」
「毎度、毎度、迷惑なんだよな。本音としては」
 闇夜にちいさく笑う声がした。森永が笑っている。
「私のことなんか、ほっとけばいいのに」
「・・・それが、道理だろうな。社会全体としては」
「幸助は本音で喋ってくれるから、飽きない」


 飽きるとか、飽きないとか、そういう問題ではなかった。
「俺がいる限り、おまえは絶対、死なせない」
「・・・それも、本音?」
「俺は嘘はつかない」
 森永は笑い、俺は、そして落ちていく。
 ・・・何処へ?


 こんな俺を必要としてくれる森永に。




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