INITIALIZE ORIGINAL NOVEL
終わらない鎮魂歌を歌おう
vol_1/6 灯火のさきに
あぁ、だるい。本当に最近だるい。どうやら風邪をこじらせてしまったようだ。俺の名前は西園幸助。最近、アルバイトをクビになった。クビになった理由はホモのコンビニ店長がいよいよ執拗にせめてきたので身の危険を感じ断ったところ、こうなった。そして、26才、フリーター。新しいバイトをはじめた。それは警備員という不安定な職場だ。そして野ざらしにされたデパートの外で駐禁の監視をしている。風邪をひいているにもかかわらずだ。世の中は平和だ。なぜかって。それは、俺みたいな人間のひとりやふたり身を凍えさせてもなんの問題もなく廻っているからだ。
「そろそろ、交代の時間だ。新人。今日はもうかえっていいよ。風邪なんだろ。家にかえってゆっくり休めよ」
「・・・あざーす」
世の中は平和だ。スクーターに凍えた手でキーを差し込む。ぶるんと一回身震いしたかのように動かないはずの粗大ごみは息きを返した。世の中は平和だ。なにひとつ、かわっていない。巡るめくは、かわりゆくのはこの国の首相ぐらいだ。あったかい缶コーヒーを飲み終えて俺は空き缶を自販機のとなりの空き缶入れに投げ入れた。メットをかぶり手袋をしてスクーターに乗り込む。向かうのはしがない貧乏なアパートだ。そこでまっているのはメンヘラな彼女と、信じられないかもしれないが外界に修行にきているという死神見習い水先案内サービス日本営業部所属、死神841号 通称、ヤヨイ である。「ろくなもんじゃねーなー、・・・たく」つぶやいてスクーターのアクセルを回す。そして、俺はなぜかしらないが、祖母がなくなってしまったときから生と死の仲介人という大義をやっているごくごくありふれた一般人だ。
;灯火のさきに
「ただいま」
なぁ、あんたは信じられるだろうか、玄関をあけたら俺の目の前に死神が不機嫌そうに立っていたって場面を。立っていたといったら語弊があるかもしれない。なぜなら足は半分透けているのだから。その死神が、今日も今日とて死者のリストを俺につきつけてきた。しかも、恐ろしいことに作り笑いを不恰好につくっている。
「はい、今月の死人リスト。あとで確認しておいて。いまさっきとどいたばっかなの」
「・・・ん。わかった」
普通に受け取る俺もどうかしている。あたたかいはずの部屋のなかに入っていくといよいよ混沌を極めていった。
「なにコイツ。まじありえないんですけど。死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」
2chにマジになって書き込みしている目の前の黒髪ショートカットのいたって見た目は日本女性っぽい方。彼女が森永明音。いちおう。俺の彼女をやっている。
「あの、森永明音さん?」
「なに? あ、帰ってきたの。おかえりなさい。外はさむかったでしょ? どうしたの、顔あかいよ。まだ、熱があるみたい」
「そんなことより、真剣に2chにマジレスするのはもうやめにしたほうがいいよ」
なにをいっているのこの人、みたいな顔をされた。
「幸助、私の唯一のたのしみを取るわけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。精神衛生上、悪いだろ? 他人の悪口をいうのはさ」
さらに、なにをいっているのこの人、みたいな顔をされた。
「なにをいっているの幸助。この人は人じゃないわ。ゴミムシよ?」
「ああ、・・・さいですか」
まともにあいてするときりがない。俺とヤヨイと森永がいつどこで知り合ったのかは遠い記憶になるがもし誰かが、そのことを文章なんかに記録していたとしたら読んでほしい。そうすれば、きっと理解ができるとおもう。・・・たぶん。