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終わらない鎮魂歌を歌おう


vol_6/6   灯火のさきに



 翡翠荘を出た。なんとか、ヤヨイのおかげで助かった。
「サンキューな。おまえがとっさに、ポルターガイスト現象を起こしてくれなかったらあのばあさん、俺のこと信用してくれなかったぜ」
 あのとき、俺が宙に浮いていたのはヤヨイの起こしたポルターガイスト現象のおかげだった。
「まぁ、死神だし、そのくらいできなくてどうするのよ」
「それもそうだな」
 帰り道、ヤヨイは俺に訊いきてきた。
「ねぇ、あのばあさん、本当に・・・」
「本当にやり残した仕事をやるかって?」
「うん」
「大丈夫だって。あんだけ脅しときゃ。それに・・・」
「それに?」
「八千草さんにできることといったらそれぐらいしか残されてないしな」
「なによ、それ」
「冗談はさておき、生と死の仲介人ができることなんて、せいぜいがこれが限界なんだよ」
 そういって、俺とヤヨイはいつものあの、おんぼろアパートへと向かった。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 森永が夕飯の用意をしている。味噌汁のいい匂いがしてきた。
「あーあ、腹減った。いいよな、死神は腹が減らなくて」
「減らなくてわるーござんしたね」
「ところで、ヤヨイ」
「ん? なによ」
「八千草さんの孫のこと。あとどれくらい生きられそうかわかるか」
「・・・また、あんたの余計なとこ。そんなこと考えなくていいじゃない。人間いつかは死ぬようにできてるんだからさ」
「そりゃ、そうだが」
「気になる?」
「いや、・・・そうだな。たしかに、人間、知らないほうがしあわせなことだってあるわな」

「ごはん、できたよー」
「うーい」
 そんなことを言いつつ、俺は食卓へ向かう。
 人間、生きているといろいろなことに出くわす。だが、その大半はその人が乗り越えられるようにできている。なぜなら、神は乗り越えられない試練を人にかすことはないからだ。俺は、そう信じている。森永と、ヤヨイと囲む食卓。死んだことを選んだ人間には決して得られることのないしあわせがそこにはあった。



fin


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