現代人の法話 
〜 地域の活性化に向けて 〜

 今、多くの市町村では地域の活性化に向けて官民一体となって努力をしていることはご承知の通りである。その努力は多とするが、今ひとつ欠落している視点があるように思えてならない。というのは、誰しも自分の町をよくすることに異論はないが、一体どういう町がよいのか、その方策がいまひとつ見えてこないことだ。
 たとえば、住民の住みよい町にするのか、外からの観光客を誘致する町にするのかがはっきりせず、総花的であることだ。もし前者なら静かな環境が求められるであろうし、後者なら外来客を引きつける賑やかで魅力ある町づくりが要求されるであろうし、それらは互いに矛盾して両立させることは難しい。それに、活性化のためにたいていは国家などの援助や補助をあてにしているが、それらは一時的なカンフル剤として役立っても、長期的には望ましいことではない。いくら不況の折りとはいえ一体、住民の人口動態や資産や可処分所得などの購買力や、外来客を誘致する魅力や二−ズに見合ったアクセス手段や施設や目玉商品があるのかどうかという、客観的な実態を把握した上で、これならいけるという保証がないかぎり、いくら理想的な都市計画を立案し社会資本を充実したところで、それはちょうどいくら立派で大きい蛇口を造っても元に水がなければいくらひねっても水が出てこないように、徒労に終わってしまうことだろう。
 また、市民一人一人が、お金のある人は資金を、秘蔵品のある人はお宝を、智恵のある人はアイデアを、ヒマのある人はボランティアを、というようにそれぞれがその持ち味を持ち寄って積極的に街づくりに協力しないかぎり、「仏造って魂入れず」で、宝の持ち腐れに終わってしまうのではないだろうか。
(3月10日付『読売新聞』朝刊掲載)



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