現代人の法話 
〜 好奇心を抱く 〜

 先日、機会があって大阪・富田林市の堀野健二さんという老人と旅をご一緒しました。このお爺さんは今年四月で満八十五歳になりますが、心身共に矍鑠たるもので、野球帽をかぶり、海外へ一人旅に出掛けるのを楽しみにしています。最近では一日平均五キロ以上は歩かなければならない、きつい行程のベトナムやカンボジア、ラオスへの旅に一人参加して、最後まで落伍することなく全行程を踏破しました。
 氏は第二次大戦中ニューギニアに出征し、折りからの食料難による栄養失調でマラリアに罹り、周囲の戦友が次々と悶死する中、高熱の中でも食べられるものなら蛙でも何でも食べたおかげで不思議にも回復したそうです。また、戦況が悪化して残留部隊がバラオに撤退を余儀なくされ、輸送船に乗ったところ、途中で米軍機の爆撃を受けて船は轟沈し、海上に投げ出されて九死に一生のチャンスで救助されたという幸運の持ち主でもあります。五十代にガンと白内障に侵されたものの、それも克服して、余生は週に二回、若い人を相手にテニスをして体を鍛え、ときには車を運転して高速道路を時速百キロで飛ばすという若者顔負けの元気ぶりです。
 その日頃の信条をうかがったところ、「歳を忘れ、自然にさからわないことですな」という言葉が返って来ました。「国内旅行はなさらないのですか?」と聞いたところ「まだまだ海外で見たいところが沢山あり、国内旅行するヒマなどありまへん。それが終わってからボチボチ行こうと思っています」とのことでした。このお爺さんは行く先々でもけっしてガイドの説明を聞きもらすことなく耳をそぱだててメモし、その好奇心の旺盛さは人一倍で、これが氏の長生きの秘訣なのだ、と納得させられました。



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