現代人の法話 
〜 そこのあんた、自分が好きか? 〜

 こうした問いかけに対して、はたして私たちは「自分が好きだ!」と、自信と誇りをもって答えられるでしょうか。私の周辺の大学生に「きみは自分が好きか?」と質問したところ、大半の者から「ノー」という答えが返って来て、がっかりしたことがあります。
 また、最近の読売新聞の世論調査によると、日本人の子供の半数以上が自分の親を尊敬していないと答えているそうです。おそらく、この分でゆくと、日本人の多くは自分や自分の親はおろか、自分の住む地域社会や職場、国家に対しても、好感や愛着心を抱いていないのではないかと勘繰りたくもなります。
 世の多くの人が自分勝手なことをしているのは、自分が好きだからではなく、自信も誇りも持てない自分を嫌っているがゆえにそこから逃げているのだと思います。かつて政治学者の高坂正堯さんは、「そこのあんた、国家が備えるべき条件として「どの民族も、自国への誇りをもたなけれぱ国家たりえない」とし、ただし「同時に国家は他国への気兼ねなしには生存しえない」と述べたことがあります。これは国民自体にもいえることで、「日本人は顔のない国民である」とはよく言われることですが、自分の体験から生み出す思想(信念)なくして、どうして自信や誇りを持つことができるでしょうか。たんなる自信過剰や自己誇示はかえって危険です。
 今こそ、私たちは自分を大切にする生き方に自信と誇りを持ち、そうした思想(信念)を身をもって内外に伝えると同時に、相手に対して謙虚さと思いやりをもって接することだと思います。それなくして周囲の者に「自分を好きになれ」「親を尊敬せよ」「国家を愛せ」と声高く叫んでもおそらく馬耳東風でしょう。



Back