現代人の法話 
〜 社会に還元する 〜

 人間の一生は、誰もが懸命に働き、資金を稼ぎ、自分や家族の生活のために消費し、なにがしかの資産を残し、年老いて、否応なくこの世を去ることを運命づけられています。その間にどのような生き方をしようと、たった一度しか生きられないもので、その人生の価値は、本人の死後に柩を覆ってから、他の人が評価してくれるものです。
 そうした人の中には本人が生前中や死後、貴重な私財を公共団体に寄付したり、美術館を建てて公開したり、奨学資金制度を創設して人材の養成に役立てる人がおり、たとえば大塚製薬会長の大塚国際美術館(鳴門市)、佐川急便会長の佐川美術館(守口市)、出光興産会長の出光美術館(東京都)、写真家・土門拳氏の土門拳美術館(酒田市)、画家・平山郁夫氏の平山美術館(生口島)など枚挙にいとまがありません。
 こうした人たちはけっして自分の資産や名誉が欲しくて、生前中一生懸命働き、儲けて、資産を残したのではないと思います。それにひきかえ、高額所得者や有名人の中には、功なり名をとげて自分だけの豪邸や豪華な所持品などに贅のかぎりをつくして優越感に浸り、ひとから後ろ指を指されて一生を終わる人がいますが、はたしてそれで立派な人生といえるのでしようか。
 私たちはこうした金満家のように余剰資産がないにしても、ただ生活に追われて、世間にお役に立つものがひとつもないとは言いきれません。たとえぱ資産のある人は資産で、資産のない人は才能や持ち味で、それもない人はひとへの笑顔や親切で、ひとに差し上げ、社会に還元することがいくらでもあるはずです。ほんとうの人生の喜びは自分だけが好きなことをして楽しみ、ひとに世話になったり、貰ったりするばかりではなく、もし自分に何らかの取り柄があるならぱ、それを一人じめにしないで他に施すことだと思います。そうすることによって、自分も喜び、ひとも喜び、どれほど社会の活性化のために役立つことでしょう。




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